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作成: 1998/12/20 舘 義昭

データ番号   :110025
透明中性子遮蔽材の開発
目的      :高速中性子による被ばく低減のための透明遮蔽材開発
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター ナトリウム・安全工学試験部 機器・構造安全工学グループ
応用分野    :中性子遮蔽材料

概要      :
 本研究では高速中性子線の効率的な遮蔽を目的として、環状オレフィンコポリマーからなる透明遮蔽材の開発を行った。252Cfを用いた遮蔽実験やMOX燃料を線源とした遮蔽計算により、環状オレフィンコポリマーからなる遮蔽材は従来より使用されているアクリル樹脂よりも優れた中性子遮蔽性能を有していることが明らかとなった。
 

詳細説明    :
 中性子線は線量換算係数のエネルギー依存性が非常に大きいため、エネルギーの高い高速中性子線は人体の外部被ばくに非常に大きな影響を与える。したがって、高速中性子線を効率的に遮蔽することによって、中性子線による外部被ばくはより一層低減させることが可能となる。高速中性子線の遮蔽には、水素原子のような軽い原子との弾性散乱による減速が有効であることが知られており、高水素含有材料が中性子遮蔽材として従来より利用されてきている。一方、放射線源を取扱う設備によっては、グローブボックスのパネル材のように遮蔽材でありながらも内部の観察のため透明でなければならないものも少なくない。本研究では、従来の中性子遮蔽材よりも遮蔽性能に優れる透明遮蔽材の開発を目的とした。このような透明遮蔽材は、核燃料のような高速中性子線を放出する放射線源を取扱うグローブボックスなどのパネル材に適用でき、作業員のより一層の外部被ばく低減が期待できる。
 
 中性子遮蔽材としては、従来より、水素含有量の多い金属材料や無機材料、高分子材料などの多くのものが研究され、実用化されてきている。本研究では、高水素含有量であることに加え、透明度に優れることや比較的大型の成型体の製作が可能であることなどから、対象材料を高分子材料に絞って開発を行った。また、新遮蔽材の開発目標としては、代表的な透明中性子遮蔽材であり、従来より核燃料を取扱うグローブボックスにも適用されてきているアクリル樹脂の特性を基準に、ほぼ同等の透明度や機械的強度を有し、中性子の遮蔽性能には優れていることを目標とした。
 
 まず、初めに、アクリル樹脂の水素含有量を増加させることを試みたが、アクリル樹脂に対する水素原子の過剰添加は、単に強度低下と変色をもたらすだけであり、中性子遮蔽性能は向上しないことが試作材を用いた遮蔽実験などから明らかになった。高分子材料において水素含有量を高めるためにはエチレン構造を有していることが望ましく、透明度を確保するためにはアモルファス構造であることが必要である。この両者を満たす構造として多くの高分子材料の構造を調査し、新遮蔽材として環状オレフィンコポリマーに注目した。環状オレフィンコポリマーは図1に示すようなエチレン(αオレフィン)構造と脂環構造からなる重合体であり、エチレン部と脂環部の比率の調整により水素含有量が多く、かつ透明度に優れる材料の製作が可能である。


図1 Cycloolefin copolymer

 テトラシクロドデセンとエチレンおよびビシクロヘプトエンとエチレンからなる2種類の環状オレフィンコポリマーを用いて板状遮蔽材の試作を行った。これらの試作材に対して、透明度や機械的強度の測定および中性子遮蔽性能の評価を行った。中性子遮蔽性能は、252Cfを用いた遮蔽実験とMOX燃料を線源に想定した場合の遮蔽計算を実施した。得られた試作材の諸特性を従来のアクリル樹脂のものと比較検討した。
 
 それぞれの試作材の特性を表1に示す。環状オレフィンコポリマー1はテトラシクロドデセンとエチレンから、環状オレフィンコポリマー2はビシクロヘプトエンとエチレンからなる環状オレフィンコポリマーである。

表1 Properties of Cycloolefin Copolymers
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               アクリル樹脂  水素リッチ    環状オレフィン  環状オレフィン
                             アクリル樹脂  コポリマー1     コポリマー2
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                 H: 8.0         H: 9.4        H:11.67          H:12.00
元素組成(wt%)     C:60.0         C:70.3        C:88.18          C:87.77
                 O:32.0         O:20.3
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密度(g/cm3)      1.19           1.11          1.02              1.02
 [JIS  K-7112]
水素密度(g/cm3)   0.095          0.104         0.119             0.122
全光線透過率 (%)  94.1           93.0          89.4              90.0
 [JIS K-7105]
曲げ強度(MPa)    90.2           18.0          84                83
 [JIS K-7203]
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 環状オレフィンコポリマーからなる2種類の試作材はいずれもアクリル樹脂よりも水素含有量が多く、透明度、曲げ強度においてもほぼ同程度の性能を有している。図2に示す252Cfを使用した遮蔽実験の結果からは、2種類の環状オレフィンコポリマーがいずれもアクリル樹脂よりも優れた遮蔽性能を有していることが明らかになった。また、モンテカルロコードを利用した遮蔽計算からもこれら2種類の環状オレフィンコポリマーはMOX燃料に対しても有効であることが確認された。


図2 Neutron Shielding Performance

 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
透明中性子遮蔽材の試作と特性評価
舘 義昭、加納 茂機
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
日本原子力学会誌 Vol. 40, No. 6 (1998) pp. 495〜500

参考資料1 Reference 1:
高性能透明中性子遮蔽材の開発
舘 義昭、加納 茂機
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
PNC TN9410 95-272

キーワード:高速中性子、遮蔽材、環状オレフィンコポリマー、MOX燃料、グローブボックス
fast neutrons, shielding materials, cycloolefin copolymer, MOX fuel, groveboxes
分類コード:110301

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