作成: 1999/11/23 谷原 紘一
データ番号 :110093
銅塩系フェロシアン化物とシリカゲルまたは吸着樹脂との複合イオン交換体の調製方法
目的 :シリカゲルまたは吸着樹脂のようなイオン交換基を有しない多孔体への銅塩系フェロシアン化物の効率的担持法の開発と繰り返し使用可能なセシウム分離材としてのその利用
研究実施機関名 :工業技術院九州工業技術研究所材料化学部
応用分野 :放射性廃液処理、放射能汚染除去、廃地熱水中のセシウム回収、セシウム含有鉱石からのセシウムの分離、セシウムとパラジウムの相互分離
概要 :
アルコールに対するフェロシアン化カリウムの不溶性と塩化銅などの銅塩の易溶性を利用することにより、シリカゲルや親水性の吸着樹脂のようにイオン交換基を有しない多孔質担体の細孔内に効率よく銅塩系フェロシアン化物を担持する方法を開発した。本法で調製される複合体は、放射性廃液のような多種類の電解質成分を含む溶液からのセシウムの選択的分離に繰り返し使用可能である。
詳細説明 :
銅塩系不溶性フェロシアン化物はイオン交換容量が大きく放射能に強い利点はあるが、欠点として、粒子が細かく、崩壊しやすいという問題があり、実用的にはこの欠点の克服が必要であった。従来、多孔質樹脂のイオン交換基を利用してフェロシアン化銅を担持した複合体をセシウムの1回限りの吸着剤として使用することは知られていたが、これをセシウムの分離に繰り返し用いた例はなかった。この複合体に新たに開発したセシウム分離法(データ番号:110092)を適用すると、期待通り繰り返し使用は可能であったが、再生時に銅塩を添加する必要があることと、吸脱着処理時にその銅を溶離し、好ましくないことがわかった。この欠点は、シリカゲルや吸着樹脂のようなイオン交換基を持たない多孔質担体との複合体の場合には見られなかった。しかし、このような担体の場合、フェロシアン化カリウム(KFC)の水溶液で含浸後、銅塩の水溶液で処理するという常法では、水溶液中や担体の細孔外にも沈殿を生じやすく効率が悪かった。
本研究で開発した方法は、アルコールにKFCが不溶で、塩化銅など特定の銅塩がよく溶ける性質に着目したもので、過剰KFCの回収と銅塩溶液の溶媒にアルコールを用いることを特長とする。以下、最適な溶媒としてエタノールを用いた場合について説明する。まず、十分に乾燥したシリカゲルまたは親水性吸着樹脂にKFCの準飽和水溶液をかき混ぜながら加えて表面がわずかに湿るまで含浸させる。この状態は流動性が急速に低下するので、容易に検出可能である。ついで、エタノールで処理・洗浄することにより瞬時に微細なKFC結晶を析出させたのち、外表面と細孔入り口付近に析出する過剰のKFCを乳濁状態で回収する。
細孔内にKFCを担持した各担体は常温で十分乾燥後、エタノールの銅塩溶液(KFCに対して2倍モル以上の銅含有)で処理することにより細孔内に銅塩系フェロシアン化物が沈積する。この場合、KFCのエタノールへの溶解度が低いため、担体外部への沈殿の副生を十分抑制することができる。また、KFC結晶が微細なため、反応はかなり速やかに進み、常温では24時間以内に完結する。固液分離後、デカンテーションにより細孔外にわずかに副生する沈殿を水洗除去し風乾すると、各多孔質担体内部に銅塩系フェロシアン化物が均一に担持した複合体が得られる。
表1は、本法と銅塩の水溶液使用の場合とを比較した結果である。担体がシリカゲルの場合、細孔容積、細孔径によって銅塩系フェロシアン化物の担持量はかなり異なるが、複合化率は、銅塩水溶液使用の場合よりかなり高く、100%近い値を示すことがわかった。
表1 銅塩系フェロシアン化物担持複合体の調製
(1)ア��スニシ、ホ・ィ・ソ・ホ。シ・�マアユサネヘム*
-----------------------------------------------------------------------
ハ」ケ酊ホ
No. テエツホ** コルケヲキツ コルケヲヘニタム ハ」ケ邊スホィ*** --------------------------
(nm) (ml/g) (%) チネ タョ テエサ��フ****
(K/Fe) (Cu/Fe) (g/g)
-----------------------------------------------------------------------
1-1 XAD-7 9.0 1.14 99.8 0.00 2.02 0.380
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1-2 MB-3A 2.5 0.40 91.1 0.731 1.63 0.065
1-3 MB-4B 7 0.80 96.9 0.264 1.87 0.161
1-4 MB-5D 10 1.10 98.5 0.070 1.97 0.278
1-5 MB-300A 30 1.10 97.7 0.337 1.83 0.258
1-6 MB-500A 50 1.10 98.3 0.519 1.74 0.267
1-7 MB-800A 80 1.10 99.1 0.699 1.65 0.274
1-8 MB-1000A 100 1.10 97.7 0.640 1.68 0.266
-----------------------------------------------------------------------
(2)ア��スニシ、ホソ袁マアユサネヘム*****
-----------------------------------------------------------------------
ハ」ケ酊ホ
No. テエツホ** コルケヲキツ コルケヲヘニタム ハ」ケ邊スホィ*** --------------------------
(nm) (ml/g) (%) チネ タョ テエサ��フ****
(K/Fe) (Cu/Fe) (g/g)
-----------------------------------------------------------------------
2-1 XAD-7 9.0 1.14 99.6 0.49 1.76 0.383
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2-2 MB-5D 10 1.10 40.6 0.41 1.79 0.237
-----------------------------------------------------------------------
*テエツホgナ��ソ、遙「ウニ0.78。「0.64mol/l、ホ・ィ・ソ・ホ。シ・�マアユ10mlサネヘム。」
**ネ��ヒタュシ��鬢マAmberlite XAD-7。「・キ・�ォ・イ・�マノルサホ・キ・�キ・「イスウリMB・キ・遙シ・コサネヘム。」
***ニシア��靉��ー、ホチエエ゛ソサKFCテ讀ホFe、ホ、ヲ、チハ」ケ酊ホ、ヒーワケヤ、キ、ソFe、ホネ賽ィ。」
****エ・チ酖エツホgナ��ソ、熙ホテエサ��フ(g)。」
*****1.29mol/l、ホソ袁マアユ、��エツホ、ャシセ、�゛、ヌ、ォ、ュコョ、シ、ハ、ャ、鯒ゥ。ケナコイテ(サ﨩チ2-1)。」
テエツホgナ��ソ、�1.01mol/l、ホソ袁マアユ10mlサネヘム(サ﨩チ2-2)。」
一方、Amberlite XAD-7を担体として銅塩のエタノール溶液使用の場合には、図1に示すように銅塩系フェロシアン化物が担体内部までほぼ均一に担持されるのに対して、銅塩水溶液使用の場合、複合化率が高くても図2のように天ぷらの衣状に担持されるために剥離しやすく、担体内部には全く担持されないことが認められた。

図1 塩化銅(II)のエタノール溶液を使用して調製した銅塩系フェロシアン化物/Amberlite XAD-7複合体

図2 塩化銅(II)の水溶液を使用して調製した銅塩系フェロシアン化物/Amberlite XAD-7複合体
調製された銅塩系フェロシアン化物担持複合体は、交換性銅イオンの含有量が多い場合(Cu/Fe > 1.5)には、セシウム吸着能が低下するので、新セシウム分離法(データ番号:110092)における脱着条件で酸化処理後、再生条件で還元処理する前処理を行うことにより、A2Cu[CuFeⅡ(CN)6]2 担持複合体(A+はK+、H+などの一価の陽イオン、[ ]内は骨格原子を表す)に転換され、繰り返し使用できる。この前処理における反応は次式で示される。
<酸化> A(4-2X)CuX[CuFeⅡ(CN)6]2 → Cu[CuFeⅢ(CN)6]2 + (4-2X)A+ + (X-1)Cu2+ + 2e-
<還元> Cu[CuFeⅢ(CN)6]2 + 2A+ + 2e- → A2Cu[CuFeⅡ(CN)6]2
なお、酸化処理に続いて、Cu[CuFeⅢ(CN)6]2結晶空洞内のCu2+をパラジウムで置換したのち、還元処理を行ったものは、A2PdⅡ[CuFeⅡ(CN)6]2担持複合体となり、新セシウム分離法(データ番号:110092)を適用して繰り返し使用できる。
コメント :
本法で調製される銅塩系不溶性フェロシアン化物担持複合体のうち、Amberlite XAD-7のような親水性吸着樹脂との複合体は、中低レベル放射性廃液からのセシウムの分離に有用と考えられる。一方、シリカゲルとの複合体は、シリカ成分をガラス原料に利用できるので、回収放射性セシウムの有効利用が可能であれば高レベル放射性廃液のガラス固化方式の改良に有効なことが期待される。
原論文1 Data source 1:
Selective separation of cesium from strongly acidic nitrate media by repeated use of cupric ferrocyanide-silica gel composite ion exchanger of redox type
Koichi Tanihara
Kyushu National Industrial Research Institute, Shuku-machi, Tosu-shi, 841 Japan
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原論文2 Data source 2:
レドックス型イオン交換体によるセシウムの新分離技術に関する研究
谷原 紘一
九州工業技術研究所、〒841 佐賀県鳥栖市宿町
平成8年度国立機関原子力試験研究成果報告書、第37集、95-1.
原論文3 Data source 3:
セシム分離用レドックス型複合イオン交換体(5)- フェロシアン化銅担持シリカゲル複合体の調製とその性能 -
谷原 紘一、堤 孝節、大浦 博樹、山崎 澄男
九州工業技術研究所 及び 九州産業大学
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多孔性型イオン交換樹脂を担体とする不溶性ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸塩担持複合イオン交換体の調製とその性能
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参考資料3 Reference 3:
レドックス型イオン交換体によるセシウムの新分離技術に関する研究
谷原 紘一
九州工業技術研究所、〒841 佐賀県鳥栖市宿町
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参考資料4 Reference 4:
セシウム分離材の製造方法
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高レベル放射性廃液等硝酸酸性溶液からのパラジウムとセシウムの分離方法
谷原紘一
九州工業技術研究所、〒841 佐賀県鳥栖市宿町
特願平11-056463.
キーワード:銅塩系フェロシアン化物、レドックス型イオン交換体、シリカゲル、吸着樹脂、エタノール可溶銅塩、再生可能な複合イオン交換体、セシウムの分離、パラジウムの分離
insoluble ferrocyanides of copper, ion exchanger of redox type, silica gel, adsorbent resin, ethanol-soluble cupric salts, regenerable composite ion exchanger, cesium separation, palladium separation
分類コード:110501, 110105