作成: 1998/11/10 森田 重光
データ番号 :160004
長半減期核種の土壌表層環境における分布と挙動
目的 :動的モデルに適用可能なパラメータの整備
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 安全管理部 環境監視課
応用分野 :環境放射能、環境科学、土壌学
概要 :
環境中における化学形により挙動が大きく変化し、また土壌から植物系への移行係数が高いと言われているテクネチウムを対象に実環境中における分布調査及びトレーサ試験を行い、移行に影響を及ぼす要因を解析するとともに,移行係数を試算した。また、ネプツニウム、プルトニウム等、これまで環境中における挙動が明らかにされていなかった長半減期核種についてもフィールドデータを収集し、その挙動を解析した。
詳細説明 :
1.緒言
長半減期核種の環境中における濃度レベルは低く、従来の放射能測定法にて得られたフィールドデータから土壌―植物間の移行挙動を解析することは困難である。一方、トレーサ試験の場合、実験室内で外部環境を模擬することは困難であり、その実験環境条件により移行挙動が実環境におけるそれと異なる可能性がある。そこで、植物中の長半減期核種を検出できる高感度分析法を開発し、フィールドデータを基に移行挙動を解析した。また、ダイナミックモデルにおいて利用する時間依存パラメータについては、トレーサを用いた基礎試験を実施した。なお、対象核種としては、原子力施設の事故時に放出されると想定されるプルトニウム及び環境中における存在形態が比較的容易に変化し、土壌から植物へ移行しやすいと考えられているテクネチウムとした。
2.高感度分析法の開発
プルトニウム-239、240については、測定時に妨害となるトリウムの除去工程について見直し、シリコン半導体検出器で長時間測定することにより、植物中の濃度を把握できるようになった。また、テクネチウム-99は妨害元素をキレート樹脂で分離した後にICP-MSで測定する定量法を開発した。
3.移行係数の試算
分析試料はキャベツ及びキャベツを採取した畑で採取した畑土とし、前述した高感度分析法でテクネチウム-99及びプルトニウム-239、240の定量を行った。結果を表1に示す。
表1 土壌―植物間の移行係数
1)フィールドデータを基に算出した移行率
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Tc-99 Np-237 Pu-239,240
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畑土中濃度 2.0×10-1 4.0×10-3 1.7×10-1
(Bq/kg,dry)
葉菜中濃度 <4.0×10-4 <8.0×10-6 2.0×10-5
(Bq/kg,raw)
移行率 <2.0×10-3 <2.0×10-3 1.2×10-4
(-)
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2)これまで報告された移行率
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移行率(-)
報告機関(対象) --------------------------------------
Tc-99 Np-237 Pu-239,240
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US NRC(農作物)*1 2.5×10-1 2.5×10-3 -
US DOE(野菜) *2 5.0×101 2.5×10-3 2.2×10-4
IAEA (農作物)*3 5.0 4.0×10-2 5.0×10-4
---------------------------------------------------------
*1 : US NRC Regulatroy Guide
*2 : DOE / TIC-11468
*3 : IAEA Safety Series No.57
プルトニウム-239、240の土壌―植物間の移行係数(土壌中濃度に対する植物中濃度の比)はIAEAやDOEから報告されている値と同等であったが、テクネチウム-99は同機関から報告されているトレーサ試験の結果より50分の1程度低い値であった。
4.テクネチウムの土壌―植物移行
テクネチウム-99については、トレーサ試験の結果とフィールドデータの解析結果との間に差が見られた。この理由として、フォールアウト由来のテクネチウム-99は放出時の化学形であるTc2O7が大気中の湿分と結合してTcO4-に変換することにより土壌系へ移行し、その後化学的に土壌粒子に吸着するか、またはTcO2に変換され物理的に吸着することにより、植物が吸収できない形態(非可給態)になっているが、トレーサ試験の場合は、可給態であるTcO4-のトレーサを添加するため,移行係数が大きくなるものと考えられる。
5.時間依存パラメータ
前述のように、核種が土壌に沈着してから時間が経過するに従い、移行挙動が変化する現象が確認されたため、テクネチウムを添加した後、エージング時間を変化させた土壌試料を形態別に分画し(図1)、テクネチウムの土壌粒子への結合形態の変化を調査した。
図1 結合形態別弁別法
その結果、図2に示すように、エージング期間が短いうちは水溶態成分が多いが、エージング期間が長くなるに従い有機態成分が多くなってくることがわかった。事故時評価の場合、事故が発生してから降雨があるまでの期間がこのエージング期間に相当する。降雨データは、ダイナミックモデルにおいて大気―土壌・植物系の移行を表現する場合、重要なパラメータであるが、土壌―植物系の移行を表現する場合にも考慮すべきパラメータであることがわかった。
図2 Tcの土壌中における存在形態の変化
6.結語
試験結果より、核種によっては可給態の割合が時間とともに変化することがわかった。よって、事故時評価等、比較的短期間を対象とする影響評価の場合は、トレーサ試験の結果を基に算出した値を用いた方が実際の挙動をより正確に模擬できるものと考えられる。また、汚染地域の再利用や埋設処分に係る影響評価等、比較的長期間を対象とする環境影響評価の場合は、むしろフィールドデータを基に算出した移行係数を利用した方が良いものと考えられる。
コメント :
移行係数をフィールドデータ及びトレーサ試験の結果を基に試算した結果、両者の値は大きく異なる場合があることがわかった。よって、評価対象が比較的短期間である場合と長期間である場合とでは、パラメータを使い分ける必要があるものと考えられる。また、エージング期間等の時間依存パラメータを取得することは、ダイナミックモデルを開発するうえで重要であるものと考えられる。
原論文1 Data source 1:
Study on Distribution and Behavior of Long-lived Radionuclides in Surface Soil Environment
S. Morita, H. Watanabe, H. Katagiri, Y. Akatsu and H. Ishiguro
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県那珂郡東海村村松4-49
Proceedings of International Workshop on Improvement of Environmental Transfer Models and Parameters (Feb. 5-6, 1996, Tokyo) pp. 207-215
原論文2 Data source 2:
土壌環境中における長半減期放射性核種の移行挙動について
森田 重光、渡辺 均、片桐 裕実、赤津 康夫
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県那珂郡東海村村松4-49
京都大学原子炉実験所研究報告書KURRI-KR-1, ISSN 1342-0852 (1995) pp. 55-60
原論文3 Data source 3:
土壌−植物系での放射性核種の挙動に関する研究
片桐 裕実
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県那珂郡東海村村松4-49
原子力工業 42 (8), 62-67 (1996).
キーワード:長半減期核種、テクネチウム、ネプツニウム、プルトニウム、表層土壌、移行係数、可給態
Long-lived radionuclides、Technetium、Neptunium、Plutonium、Surface soil、Transfer Factor、Available form
分類コード:160201, 160202, 160203