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作成: 1999/11/06 塚田 祥文

データ番号   :160018
放射性Csおよび安定Csの土壌から農作物への移行
目的      :土壌から農作物への放射性核種の移行
研究実施機関名 :環境科学技術研究所環境動態研究部
応用分野    :環境放射能、農業環境、環境回復

概要      :
 土壌から農作物への放射性核種等の移行係数(土壌中濃度に対する農作物中濃度の比)は、被曝線量評価上重要な環境移行パラメータの一つである。そこで、フィールド調査をもとに、バレイショの137Csと安定Cs移行係数を調査した。その結果、137Csの移行係数は、安定Csの移行係数より数倍高く、両移行係数の間には良い相関があった。このことから、環境中における放射性Csの長期的な移行・動態を推測するためには、安定Csの挙動についての情報が有用であることがわかった。
 

詳細説明    :
 
1.はじめに


図1 大気中に放出された放射性物質と人との間の経路(原論文5より引用)

 図1に示すように、原子力施設等から大気中に放出された放射性核種は、様々な経路によって人体へ移行する。そのため、これらの経路を考慮した環境移行モデルを用いて、人体の被爆評価が行われる。土壌から農作物への放射性核種等の移行係数(土壌中濃度に対する農作物中濃度の比)は、被曝線量評価上重要な環境移行パラメータの一つであり、多くの研究が行われてきた。ところが、重要な放射性核種である137Csの移行係数は、同一農作物でも気象条件、栽培条件、土質等により4桁以上変動すると報告されている。したがって、局地域においてフィールドから得られる移行係数が、最も現実的なパラメータとなる。ここでは、フィールド調査をもとに、バレイショの137Csと安定Cs移行係数、およびその変動要因について示す。
 
2.実験
 青森県内26地点の圃場から、土壌とバレイショをそれぞれ採取した。土壌は、60℃で乾燥し、2mmのふるいを通した後、メノウ遊星型ボールミルで粉砕し、分析試料とした。バレイショは、水洗後、皮を取り除き、可食部を乾燥・粉砕して、安定CsおよびK用分析に供した。また137Cs用は、450℃で灰化した試料を用いた。土壌および農作物中137Cs濃度は、Ge半導体検出器で計測・定量した。試料中の安定Cs濃度は、放射化分析法により定量し、求めた。
 
3.結果および考察


図2 Comparison of soil-to potato transfer factor between 137Cs and stable Cs(原論文2より引用。 Reproduced from The Science of the Total Environment 1999; 228:111-120, Figure 4(p.117), H.Tsukada, Y.Nakamura, Transfer of 137Cs and stable Cs from soil to potato in agricultural fields, Copyright(1999), with permission from Elsevier Science.)

 図2に示すように、137Csの移行係数は、安定Csに比べ約4倍高いものの、安定Csとの相関は比較的良い。また、土壌中K濃度の増加に伴い137Csおよび安定Csの移行係数の減少が認められた。一方、それぞれの移行係数は、土壌中有機物含量との相関は見られなかった。以上から、降下物由来の土壌中137Csは、未だに安定Csより移行しやすい形態に富んでいるが、土壌から農作物への137Csの移行は、安定Csの移行と密接に関連していることが明らかになった。
 
 また、137Csの移行は、土壌中K濃度に依存することが明らかになった。したがって、気象条件、栽培条件等の異なる局地域において適切な移行係数を求める際に、安定元素から得られる移行パラメータから、放射性核種の移行パラメータの変動、分布等を推測することが有効であることを示している。


図3 Comparison of soil-to-potato transfer factors of 137Cs and stable Cs in the present study and that in IAEA (1994). Error bars showed 95% confidence intervals(原論文2より引用。 Reproduced from The Science of the Total Environment 1999; 228:111-120, Figure 8(p.118), H.Tsukada, Y.Nakamura, Transfer of 137Cs and stable Cs from soil to potato in agricultural fields, Copyright(1999), with permission from Elsevier Science.)

 

コメント    :
 ここでは、農耕地について示したが、森林生態系における土壌からキノコへの放射性Csと安定Csの移行についても以下に示すように同様の結果が報告されている。すなわち、主に核実験由来の137Csとチェルノブイリ由来の134Csでは、それぞれの土壌中における蓄積期間が異なるにもかかわらず同様の移行係数を示した。一方、137Csと安定Csの移行係数は極めて良い相関を示すが、137Csは安定Csに比べ2.4倍高い値であった。以上から、降下物由来の放射性Csは、元来土壌中に存在している安定Csより移行性に富む割合が高いものの、数年で生物移行する割合が一様となり、安定Csと一定の比で移行することが示された。したがって、今後、放射性核種の移行・動態を類推するうえで、関連する安定元素の挙動についての積極的な研究が望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
Transfer of radiocaesium and stable caesium from substrata to mushrooms in a pine forest in Rokkasho-mura, Aomori, Japan
Hirofumi Tsukada, Hisashi Shibata and Hideo Sugiyama
Institute for Environmental Sciences
Journal of Environmental Radioactivity 39(1998)149-160

原論文2 Data source 2:
Transfer of 137Cs and stable Cs from soil to potato in agricultural fields
Hirofumi Tsukada and Yuji Nakamura
Institute for Environmental Sciences
The Science of the Total Environment 228(1999)111-120

原論文3 Data source 3:
Transfer factors of 31 elements in several agricultural plants collected from 150 farm fields in Aomori, Japan
Hirofumi Tsukada and Yuji Nakamura
Institute for Environmental Sciences
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 236(1998)123-131

原論文4 Data source 4:
)Radionuclide release in to the environment: Assessment of doses to man
F. D. Sowby
International Commission on Radiological Protection
ICRP Publication 29 (1978)

参考資料1 Reference 1:
Handbook of parameter values for the prediction of radionuclide transfer in temperate environments
IAEA
International Atomic Energy Agency
IAEA Technical Report Series No. 364 (1994)

参考資料2 Reference 2:


キーワード:土壌、農作物、バレイショ、放射性Cs、137Cs、安定Cs、移行係数
Soil, Agricultural plant, Potato, Radiocesium, 137Cs, Stable Cs, Transfer factor
分類コード:160104, 160201, 160202

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