放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 前田 健一 2003/03/25
改定 放射線利用技術データベース工業分野専門部会 2004/03/02

データ番号   :010253
フッ素樹脂(PTFE)の放射線分解による潤滑剤への転換とその応用
目的      :フッ素樹脂(ポリテトラフロロエチレン)の分子鎖切断による微粉末化
放射線源    :  Co-60 線源
線量(率)   :  100-300kGy (5-10 kGy/h)
利用施設名   : コバルト60ガンマ線 照射施設
照射条件    :  空気中、室温あるいは200℃程度までの温度
応用分野    :  固体潤滑剤の製法、エンジニアプラスチックの加工助剤、耐熱性グリース

概要      :
 フッ素樹脂の代表的なポリテトラフロロエチレン(PTFE)は放射線照射によって、分子鎖の切断が起こり、機械的な粉砕により微粒子に変わる。この微粒子は固体潤滑性に優れており、印刷インクなどの固化防止剤やプラスチック加工の滑剤として利用される。PTFEの切削屑の廃棄PTFEの有効利用ができる。

詳細説明    :
 PTFEは耐熱性、耐薬品性、非粘着性、低摩擦性、高電気絶縁性など、プラスチックスの中では、極めて優れた物性を有する高分子材料である。しかし、価格が高いことの他に、加工が容易でなく、また、製品の再加工が困難であるために、加工時に発生する切削残渣の処理や製品の廃棄後の再利用が重要な課題であった。一方、PTFEは放射線照射で機械特性が著しく低下し、その原因は分子鎖の切断であることがわかっていた。この放射線の特徴を利用して、PTFEの分子量を低下させ粉末にして固体潤滑剤として利用する方法が開発された。
 
放射線照射効果
 
 PTFEは分子量が数百万以上のものがプラスチック材料として使用される。これに通常の温度で放射線照射すると、分子鎖の切断が起こって分子量が低下し、百万以下になると強度や伸びなどの機械特性が急激に低下する。従って、放射線の線量が少なく、分子鎖切断の数が小さくても、PTFEの放射線劣化が極めて大きく現れることになる。分子鎖の切断は主として非晶域で起こり、これに伴って、非晶域が結晶域に転換する。これは室温結晶転移温度(19℃)以上で進行するので、室温で照射しても線量の増大につれて、柔軟性が失われて脆くなってくるのである。
 
 PTFEの放射線による分子鎖切断は、真空中や不活性ガスで照射しても起こるが、酸素雰囲気での照射で加速されるので、通常は空気中において酸素が透過しやすい形状で照射される。この際、一部C-Fの切断が起こり、フッ素が脱離して、これが空気中の水分と反応してフッ酸が発生するので、多量のPTFEを照射する場合にはフッ酸を外部に放出させない対策が必要になる。
 
照射PTFEの特徴とその利用
 
 100〜300kGyの放射線照射で脆くなったPTFEは粉砕機で微粒子状に加工される。粒子径は放射線の線量量と粉砕方法で決められるが、100μm〜0.5μmの微粉末が製造されている。この微粉末の結晶融点は310℃〜325℃であり、分子量は数千から数万と推定される。さらに線量を上げていくと、分子量が低下してワックスからオイル状に転換していく。
 
 主な用途は、微粒子状のPTFEである。耐熱性、潤滑性、非粘着性を活用して、エンジニアプラスチックへの添加剤、インクや塗料の添加剤として利用されている。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリカーボネイト(PC)、ポリサルフォン(PPS)、フェノール樹脂などに添加すると、加工性がよくなり、諸物性が向上する。グリースに添加して耐熱性の向上を図っている。ボールペンや印刷インク煮添加して、潤滑性を高めている。塗料に添加して、耐熱性、耐候性、非粘着性を向上させている。

コメント    :
 
 PTFEの放射線分解は熱分解と異なり、ほぼ均一な分子鎖切断が可能であり、また、その切断を任意に調整できることが特長である。この技術は、廃棄PTFEの再利用を狙ったものであるが、現状は成型前の原料PTFEが多く利用されている。廃棄PTFEの回収コストを低減させる技術開発が望まれる。放射線と粉末化はデータ番号018007を参照。

参考資料1 Reference 1:
四フッ化エチレン樹脂の再利用
中村 甫
 株式会社 喜多村
放射線と産業、 58,(1993)、p.20.

参考資料2 Reference 2:
ポリマーの放射線加工
幕内恵三
放射線分解と放射線重合、 (2000) p.177
日本原子力研究所

キーワード:フッ素樹脂、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、加工屑、放射線、分解、分子鎖切断、粉末化、潤滑剤、可塑剤
Fluorine resin, Polytetrafluoroethylene(PTFE), Machined waste, Irradiation, Decomposition, Chain scission, Powdering, Lubricant, Plasticizer
分類コード:

放射線利用技術データベースのメインページへ