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作成: 1997/03/25 山本 和高
データ番号 :030037
カラードプラの心・血管性病変等の診断
目的 :心疾患、血管病変、腫瘍診断などにおけるカラードプラ法の臨床的有用性の紹介
放射線源 :超音波振動素子
応用分野 :医学、診断、非破壊検査
概要 :
カラードプラ法は超音波を用いて血流の方向や速度を簡単にわかりやすく表示することができる非侵襲的な検査法で、心臓や血管の病変の診断、重症度の評価に不可欠なfirst choiceの検査法である。また、局所血流をカラードプラで評価し、腫瘤の良・悪性の鑑別や甲状腺などの実質臓器の機能評価にも利用される。ドプラ信号の強度成分を表示するパワードプラは細い血管の描出にも優れており血管造影検査に近い情報が得られcolor flow angiographyと呼ばれることもある。
詳細説明 :
救急車が近づいてくる時はサイレンの音は高く、遠ざかる時にはサイレンの音は低く聞こえる。この「動いているものからの音波は周波数が変わる」というドプラー効果の原理に基づいて、血液など動いているものから反射してきた超音波の周波数のズレを検知し、それをカラー信号に変換して超音波画像に表示したものがカラードプラである。探触子(体表面)に向かってくる血流は赤で、探触子から遠ざかる血流は青で表示され、流速が速いほど明るくなり、乱流は、赤や青、オレンジ色などがモザイク状に交じって表示される。
カラードプラの特徴は、超音波検査装置の探触子を体表にあてるだけで、血流の速度や方向をリアルタイムに、感覚的に立体的にとらえることができることである。したがって、カラードプラは血流に変化をきたす病態の評価に有用性が高く、特に心疾患や血管性病変の診断、重症の程度の評価には不可欠な検査法である。さらに肝細胞癌や乳癌などの悪性腫瘍の診断、肝、腎、甲状腺といった臓器の機能評価にも利用されている。
1.心疾患の診断
カラードプラは心腔内の血流動態のわずかな変化も、簡単に非侵襲的に描出できる唯一の検査法であり、僧帽弁閉鎖不全症などの弁逆流や、心室中隔欠損症といった短絡疾患の診断、僧帽弁狭窄症などの弁狭窄によるジェット血流の描出には不可欠な方法である。図1は、重傷僧帽弁不全症患者の高度の僧帽弁逆流のカラードプラ図を示す。

図1 重症僧帽弁不全症のカラードプラ像。LV:左室 RV:右室 RA:右房(原論文1より引用)
左室(LV)内の左房方向へ逆流する吸い込み血流と僧帽弁口から左房内に向かって噴出するモザイク状の逆流ジェットが深部にまで達している状態が赤・青で明瞭に描出されている。さらに左房全体にモザイク状の逆流ジェットが描出され、左室内には左房へ逆行する吸い込み血流が認められる。この逆流ジェットの到達距離や面積などをパラメータとして僧帽弁閉鎖不全症の重症度判定が行われる。
僧帽弁狭窄症や大動脈弁狭窄症では、順行性にジェット血流が認められるが血流速度などを測定して圧較差の計算も行われる。心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの短絡疾患では、シャントの部位、方向が明瞭に描出され、シャントの程度も評価することが可能である。また、心筋梗塞など虚血性心疾患による壁運動異常の診断にも用いられる。心疾患においてはカラードプラを含む心臓超音波検査は画像検査のfirst choiceである。
2.血管病変の検出
体表から超音波で観察できる動脈、特に頚動脈の狭窄病変の検出、血管病変に伴う血流動態の変化の評価に有用で、胎児の臍帯動脈の血流の観察にも広く利用されている。動脈ばかりではなく、静脈血栓症の診断や、肝硬変等による門脈血流異常の描出などにも用いられる。エコー像で管状に描出されたものが、血管かどうかの判別にもよく利用される。
3.悪性腫瘍の評価
肝細胞癌や乳癌などの悪性腫瘍では血流が増加しているものが多く、カラードプラを用いることで、腫瘤の良・悪性の鑑別ができる場合もある。動脈塞栓術などの治療効果の評価への応用も試みられている。
4.甲状腺疾患での利用
未治療のバセドウ病では甲状腺内の血流信号の著明な増加が観察される。この血流信号の強さと甲状腺機能との関連が認められるといわれており、カラードプラは甲状腺機能亢進症に対する治療効果の評価にも利用できる可能性がある。亜急性甲状腺炎では、甲状腺機能亢進症と同様の症状を示すが、超音波像で特徴的な低エコー領域を示し、その部分には血流信号が低下することが知られている。
5.パワードプラ法
ドプラ信号の強度成分をカラー表示する方法で、メーカーによってcolor angio、power mode、color flow angiography、color doppler energy、power doppler imagingなどと呼称が異なる。カラードプラ法に比較して血流速度は表示されないが検出感度が高く角度依存性が小さいのでカラードプラ法では描出されなかった低速血流や微細な血管、超音波ビームに直交する血管も表示される。図2にパワードプラ法の有用性をカラードプラ法で得られた画像と比較して示す。

図2 肝細胞癌のドプラ像。 a)カラードプラ像、 b)パワードプラ法、 c)パワードプラFlow direction mode(原論文2より引用)
a)カラードプラ像で腫瘤の周囲から内部に血流が増加している様子がわかる。b)パワードプラ像ではカラードプラ法で描出されなかった微細な血流も表示され、さらにc)パワードプラ Flow direction mode では方向成分も表示され、流入する血流と流出する血流とが判別できる。
コメント :
空気や骨などのために観察できない部位を除けば、カラードプラは非侵襲的で放射線被曝もなく、局所の血流動態を簡単にわかりやすく評価できる検査であり、その臨床応用はさらに拡大し、X線診断を補佐するであろう。しかし、カラードプラの信号の強さは定量性に乏しく、装置や設定が変わると表示されるカラードプラの画像も異なってしまうのは大きな問題である。異なる装置、異なる検者で行われた検査でも、同じ検者が同じ装置を用いた場合のように安定した定量的な結果が得られるような技術開発が望まれる。
原論文1 Data source 1:
超音波診断装置Power Vision
東芝メディカル
パンフレット
原論文2 Data source 2:
パワードプラ法による肝腫瘤の診断
栃尾 人司、工藤 正俊
神戸市立中央市民病院
映像情報Medical,28(22)1325-1332,1996
キーワード:カラードプラ,color doppler,心疾患,heart diseases,血管病変,vascularlesions,悪性腫瘍,malignant tumor,甲状腺疾患,thyroid diseases,血行動態,hemodynamics
分類コード:030199
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