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作成: 1999/03/25 山本 和高
データ番号 :030115
I-123 Iomazenilを用いた脳ベンゾジアゼピン受容体イメージング
目的 :I-123 Iomazenilを用いる脳ベンゾジアゼピン受容体イメージングによる脳疾患の画像診断
概要 :
脳皮質ニューロンに存在する中枢性ベンゾジアゼピン受容体に結合する新しい放射性医薬品、I-123イオマゼニルが開発され、臨床利用が始められた。部分てんかんの焦点の同定、脳血管障害や中枢神経性変性疾患におけるニューロンの脱落の評価、ベンゾジアゼピン系薬剤が用いられる精神神経疾患への応用などが提案され、これまで得られなかった脳機能イメージングが可能になっている。
詳細説明 :
I-123 イオマゼニル(iomazenil; IMZ)は、中枢性ベンゾジアゼピン受容体(benzodiazepine receptor; BZR)に特異的に結合する放射性医薬品である。BZRは、抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)のGABAA受容体および塩素イオンチャネルと複合体を形成し、GABA作動性神経系の伝達に促進的に関与している。中枢性ベンゾジアゼピン受容体は、ニューロンのみに存在し、特に大脳皮質ニューロンに広範に分布している。IMZの早期像は血流分布に影響されるが、投与3〜4時間後の後期像はBZRの分布、すなわちニューロンの密度を示すと考えられる。健常人では主に大脳皮質が描出され、小脳への集積はやや少なく、大脳基底核への集積はほとんど認められない。IMZの臨床応用の可能性としては部分てんかんの焦点の検索、脳血管障害などにおけるニューロンの脱落の有無の評価、ベンゾジアゼピン系薬剤が用いられる精神神経疾患への応用などが提案されている。
1.てんかん焦点の描出
てんかんの焦点ではBZRの密度が減少していることが動物実験や、切除された脳組織切片の研究により明らかとなっている。難治性部分てんかんの外科治療では、てんかんの焦点を正確に同定する必要がある。図1に、左側頭葉てんかん症例のIMZによるSPECT断層像を示す。

図1 左側頭葉てんかん、IMZによるSPECT断層像 a)横断断層像(上2:早期像、下4:後期像) b)前額断層像(左:早期、右:後期像)(原論文1より引用)
a)はSPECT横断断層像で上2像が早期像であり、下4像が後期像である。b)はSPECT前額断層像で左が早期、右が後期像である。左側頭葉内側(矢印)にIMZの集積低下が認められる。MEGでも同部位にdipoleの局在がみられた。これらの結果をふまえて左側頭葉前部の切除術が行われたが、術後にはてんかん発作は消失した。側頭葉以外の部分てんかんの焦点の同定にもIMZは有用と報告されている。
2.脳血管障害及び中枢神経性変性疾患
IMZは皮質ニューロンの分布を反映しており、脳血流とは異なる情報を得ることができる。図2に左中大脳動脈閉塞の症例を示す。

図2 左中大脳動脈閉塞症例のSPECT断層像。(原論文2より引用)
上段は治療前のI-123 IMPを用いた脳血流SPECT像で、左中大脳動脈領域、左大脳皮質に著明な血流低下が認められるが、中段のIMZによるSPECT後期像では、軽度低下しか認められず、その部位のBZR結合能の低下はわずかで、皮質ニューロンはほとんど脱落していないことが示唆される。下段は血行再建術後の脳血流SPECT像であり、左大脳皮質の血流が治療前に比較して明らかに増加している。このように脳血流が低下していても、皮質ニューロンの減少が軽度である場合は、早期に脳血流を改善することにより、脳神経機能を維持することができる。IMZの利用により、血行再建術の効果の予測が可能になり、適応の判定にも役立つとかんがえられる。
痴呆の原因となるアルツハイマー病では、側頭葉後部〜頭頂葉にかけてブドウ糖代謝や血流の著明な低下を示すが、早期にはIMZの集積はあまり低下せず、ニューロンはあまり脱落していないと推測される。その時期であれば神経細胞が残っているので、ある程度は治療が可能になるのではないかと考えられている。このような傾向は、脊髄小脳変性症など他の中枢神経性変性疾患においても報告されている。
3.精神神経疾患への応用
ベンゾジアゼピンは、BZRと結合して抗不安、鎮静、催眠、筋弛緩などの薬理作用を示し、この系統の薬剤は不安神経症などの精神神経疾患の患者に対し広く使用されている。パニック症候群において、不安の程度が強くなるにつれて、前頭葉でのIMZの集積が低下する傾向が認められている。IMZを用いるイメージングにより、精神神経疾患におけるBZRの役割が理解できるようになり、重症度などの病態診断や治療効果の評価などにも応用できるものと期待される。
コメント :
IMZは脳皮質ニューロンに、存在する中枢性BZRに結合する新しい放射性医薬品である。脳機能には、数多くの神経伝達物質と受容体が関与している。ドーパミン及びその受容体については、既に123I標識の放射性医薬品が開発され、臨床応用が始められているが、脳機能の解明、脳神経疾患の診断などのために、特定の受容体を定量的にイメージングできるような新しい放射性医薬品の開発、研究が今後もさらに進展することが期待される。
原論文1 Data source 1:
脳ベンゾジアゼピン・レセプター・イメージング剤について てんかん
松田 一己
国立療養所静岡東病院
第11回Brain Function Imaging Conference記録集 pp.81-86、1995
原論文2 Data source 2:
脳血管障害における中枢性ベンゾジアゼピン・レセプター・イメージング
中川原 譲二
中村記念病院
第11回Brain Function Imaging Conference記録集 pp.75-80、1995
キーワード:I-123 イオマゼニル(I-123 iomazenil),ベンゾジアゼピン受容体(benzodiazepine receptor), てんかん(epilepsy),脳血管障害(cerebro-vascular disease),アルツハイマー病(Alzheimer's disease)
分類コード:
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