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作成: 2000/01/22 斎藤 恭一

データ番号   :010160
放射線グラフト重合法によって作成した海水ウラン採取用不織布
目的      :不織布状キレート吸着材の開発と海水ウラン採取への応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器
線量(率)   :200 kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所2号加速器
照射条件    :窒素雰囲気、室温
応用分野    :イオン交換、資源回収、廃液処理、クロマトグラフィー、濾過

概要      :
 海水ウラン採取用の繊維状高分子吸着材を、アクリロニトリルとメタクリル酸との共グラフト重合法およびそれに続くアミドキシム化反応によって作成した。ウラン採取装置を深さ10〜30 m で実海域に係留して、ウラン吸着量の経時変化を調べた。アミドキシム化反応時間を最適化し、アミドキシム基に親水基を隣接させたことによってウラン吸着速度を高めることができた。アミドキシム不織布は、60日間の接触でウランを1.7 g/kg、バナジウムを3.4 g/kgの割合で 吸着した。

詳細説明    :
 
 海水中でウランは、三炭酸ウラニルイオンの形態で溶存していて、その濃度は1m3あたり3.3 mg-U である。黒潮が毎年運んでくるウラン量を計算すると約500万トンになり、これは日本の原子力発電に必要なウラン量の500倍にもあたる。海水からのウラン採取の研究はイギリスで1964年に発表されているが、ここ20年間は日本を中心に行われてきた。
  
 海水中のウランを採取する方法として固体吸着材を用いる吸着法が検討され、さまざまな吸着材が提案された。なかでも、アミドキシム基をもつ高分子吸着材が、ウラン吸着性能および製造コストの点で実用性の高い吸着材として選ばれてきた。アミドキシム吸着材の形状としてアミドキシム繊維が、実海域でのウラン吸着装置への充填に適している。不織布基材に放射線グラフト重合法を使ってアクリロニトリルを接ぎ木重合し、その後ヒドロキシルアミンとの反応によりアミドキシム不織布を作成できる。本研究では、吸着材の親水性を高めて吸着速度を向上させることを狙って、アクリロニトリル(AN)とメタクリル酸(MAA)とを共グラフト重合させた。
 
 ポリプロピレン製不織布(不織布を構成する繊維の直径は30ミクロン)を基材に用いた。電子線を200 kGy照射した基材を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒としたANとMAAの混合液(AN/MAA = 4/1の重量比)に浸して共グラフト重合をおこなった。ここでANとMAAとの合計濃度を50 wt%とした。AN単独のグラフト重合に比べて重合速度は低下した。7時間の共グラフト重合で170%のグラフト率を得た。このとき、得られたグラフト高分子鎖中のANとMAAのモル分率は、元素分析の測定から、それぞれ71、29%となった。続いて、このグラフト不織布を3%塩酸ヒドロキシルアミン溶液(溶媒は50 v/v%メタノール/水)に浸してシアノ基をアミドキシム基に変換した。反応時間を5時間まで変化させた。
 
 得られたアミドキシム不織布の1〜2g をプラスチックケースにつめて、直径30 cm、高さ10 cm のステンレス製かごに充填した(図1)。


図1  Experimental equipment for uranium adsorption in sea water placed 6 km offshore.(原論文1より引用)

 青森県むつ関根浜6km 沖の係留地点の深さ10、20および30 mにそのかごを設置した。この海域での年平均の波高は約0.8 m であり、潮流速は約0.2 m/s であると報告されている。


図2  Amounts of U and V adsorbed on to PPNW-AO/MAA(170, t) as a function of amidoximation time.(原論文2より引用)

 深さ20 m での20日間接触後のウランおよびバナジウムの吸着量を図2に示す。アミドキシム化時間が30分付近でウラン吸着量が最大値を示すことがわかった。つぎに、60日間にわたる海域でのウランおよびバナジウムの吸着量の経時変化を図3に示す。


図3  Time courses of amounts of U and V adsorbed to PPNW-AO/MAA.(原論文2より引用)

 アミドキシム不織布は、60日間でウランを1.7 g/kg 、バナジウムを3.4 g/kg 吸着した。この吸着量はウラン鉱石の品位として0.17%にあたる。海水中で60日間接触後の各深さでのウランおよびバナジウムの吸着量を調べた結果、深さ方向に差はほとんどなかった。 
 ANとMAAとを共グラフト重合させたポリプロピレン製不織布から作成したアミドキシム不織布が、ANの単独グラフト重合不織布から作成したアミドキシム不織布に比べて、ウラン吸着量が約5倍大きいことも海域での係留法によるウラン吸着実験から示された。共グラフト重合法によってアミドキシム基にカルボキシル基を隣接させたために、空隙が大きくなり、吸着材中での三炭酸ウラニルイオンの拡散が促進されたと推察される。
 

コメント    :
 アミドキシム不織布の実海域でのウラン吸着性能を60日間にわたり測定している。こうしたデータはこれまで報告がなく、実用化の規模のウラン採取装置を設計していくうえで参考になる。不織布基材にアクリロニトリルとメタクリル酸との共グラフト重合をおこなっている。この反応で作成されるグラフト高分子鎖中の組成は最適化されていないので、今後さらに研究が進めば、吸着速度の向上が可能であろう。

原論文1 Data source 1:
放射線共グラフト重合法により作成したアミドキシム吸着材の海域でのウラン吸着
片貝 秋雄、瀬古 典明、川上 尚志、斎藤 恭一、須郷 高信
日本原子力研究所高崎研究所、千葉大学
日本原子力学会誌, 40(1998), 878-880.

原論文2 Data source 2:
アクリロニトリルとメタクリル酸との共グラフト重合不織布のアミドキシム化による吸着材の作成および実海域吸着実験
片貝 秋雄、瀬古 典明、川上 尚志、斎藤 恭一、須郷 高信
日本原子力研究所高崎研究所、千葉大学
日本海水学会誌, 53(1999), 180-184.

キーワード:海水、ウラン、バナジウム、吸着材、不織布、放射線グラフト重合法、共グラフト法、キレート形成、アミドキシム基
seawater, uranium, vanadium, adsorbant, nonwoven fabric, radiation-induced graft polymerization, co-grafting, chelate-formation, amidoxime group
分類コード:010101,010201,010203

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