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作成: 2001/11/1 早味 宏

データ番号   :010220
各種高分子材料の放射線劣化に対する線量率効果
目的      :高分子材料の耐放射線性
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源、40kCi
線量(率)   :5×101、1×102、1.3×103、1×104Gy/h
利用施設名   :大阪府立放射線中央研究所
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :電線、ケーブル、電気絶縁材料

概要      :
 電線、ケーブル用の絶縁材料としてPE、難燃性EPゴム等の6種類の材料を選定し、5×101〜1×104Gy/hの4種の線量率で2MGy照射し、試料の機械的物性、電気的特性、ゲル分率等の変化について、線量率効果の有無を検討した。その結果、材料によっては線量率効果が認められ、その場合には、高分子材料の劣化の機構が異なっていると推測した。

詳細説明    :

 電線、ケーブルの被覆材料として使用されているポリエチレン(PE)、化学架橋PE、難燃性化学架橋PE、難燃性エチレンプロピレン(EP)ゴム、難燃性クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、難燃性低塩酸耐熱ポリ塩化ビニル(PVC)の6種類の材料の耐放射線性を調査した。各材料の厚さ1mmのシート試料に空気中で5×101、1×102、1.3×103、1×104Gy/h(注:1Gy/h = 100rad/h)の4条件の線量率で60Co線源のγ線を63kGy〜2MGyの線量で照射し、伸び、引張強さ等の機械的物性、体積抵抗率、誘電正接等の電気的特性、ゲル分率の変化を調べた。

 (1) 伸びについては、各材料ともに線量の増加とともに低下し、低線量率領域(5×101、1×102Gy/h)での照射ほど低下の度合いが大きくなる傾向があり、特に、PE、化学架橋PEにおいて線量率効果が顕著であった。但し、CSMでは明確な線量率効果は認められなかった。


図1 Changes in Elongation(原論文のFig.1)(原論文2より引用)


 (2) 引張強さについては、PE、化学架橋PE、難燃性化学架橋PE、PVCは線量の増加とともに低下し、低線量率領域での照射ほど低下の度合いが大きく、特に、PE、PVCにおいて線量率効果が顕著であった。これに対し、EPゴム、CSMでは線量の増加による引張強さの変化は小さく、従って明確な線量率効果も認められなかった。


図2 Changes in Tensile Strength(原論文のFig.2)(原論文2より引用)


 (3) 体積抵抗率については、PEは125kGyまでは体積抵抗率が低下し、低線量率ほど低下の度合いが大きくなるという線量率効果が認められた。125kGy以上の線量では体積抵抗率の変化は小さく、線量率効果も明確でない。化学架橋PEは線量の増加とともに体積抵抗率が低下し、また、低線量率ほど低下の度合いが大きくなった。難燃性化学架橋PE、難燃性EPゴムでは125kGyを越えると、体積抵抗率が低下し、低線量率ほど低下の度合いが大きくなり線量率効果が認められた。PVCは125kGy の照射で初期値より1桁低下するが、それ以上の線量では大きな変化がない。CSMは線量の増加とともに低下し、線量率効果は認められない。

 (4) ゲル分率については、PE、PVCは1.3×103Gy/h以上の高線量率でゲル分率が増加するのに対し、1×102Gy/h以下の低線量率では増加しないという結果が得られた。化学架橋PEは低線量率照射でゲル分率の低下が大きい。難燃性化学架橋PEは125kGyまで、難燃性EPゴムは250kGyまではゲル分率の低下はなく、それ以上の線量で低線量率の場合にゲル分率の顕著な低下があった。CSMではゲル分率の低下は認められなかった。


図3 Changes in Gel Fraction(原論文のFig.5)(原論文2より引用)


 CSMを除く各材料は、いくつかの特性に線量率効果が認められ、その特性は低線量率ほど低下の度合いが大きい。これらの特性の変化は、ゲル分率の変化とよく似ており、酸素による影響と考えられた。材料中への酸素の透過、拡散量は時間の関数であり、同一線量では、高線量率ほど試料内部への酸素の拡散が少なく、酸化劣化よりも架橋が優先するが、低線量率での照射では試料内部への酸素の拡散量が多くなり、酸化劣化が優先するものと考えられる。これらの各線量率での物性変化のデータから、例えば、1Gy/hのような低線量率での材料の耐放射線性についても予測ができる可能性がある。

コメント    :
 原子炉等の放射線関連施設では電線、ケーブル等に各種の高分子材料が使用されている。これらの高分子材料は1〜102Gy/hオーダーの線量率の放射線に曝される環境にあり、本報に記載されている機械的物性、電気的特性等に関するデータは、このような条件下での各種高分子材料の耐放射線性を検討するためのデータベースになる。

原論文1 Data source 1:
各種材料の放射線劣化に対する線量率効果
岡本信一、早川力*、竹谷千加士*
大阪府放射線中研、*タツタ電線株式会社
電気学会絶縁材料研究会資料 EIM-82, No.108-115, 37-47 (1982)

原論文2 Data source 2:
Effects of dose rate on aging behaviors of polymeric materials by γ-rays irradiation
Shinichi Okamoto, Tsutomu Hayakawa*, Chikashi Takeya*
Radiation Center of Osaka Prefecture, *Tatsuta Electric wire and cable Co., Ltd.
Annual Report of the Radiation Center of Osaka Prefecture vol.24, 49-54, (1983)

キーワード:ポリマー、耐放射線性、放射線劣化、γ線、線量率効果、ポリエチレン、EPゴム、電線、ケーブル
polymer, radiation resistance, radiation aging, γ-ray, dose rate effect, polyethylene, ethylene propylene rubber, wire, cable
分類コード:010101, 010105, 010106

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