作成: 2002/11/11 山本康彰
データ番号 :010232
放射線架橋PTFEの特性
目的 :照射架橋PTFEの特性
放射線の種別 :ベータ線
放射線源 :電子加速器、60Co線
利用施設名 :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件 :窒素気流中、温度340℃
応用分野 :軸受け、シール、パッキン
概要 :
PTFEは放射線により分解する代表的なポリマーと言われてきた。しかし融点近傍の高温下、不活性ガス雰囲気中で
放射線を照射することにより架橋させることができる。この架橋により耐摩耗性、耐クリープ性等が大幅に向上する。
これらの特長を生かし、軸受け、シール等のしゅう動分野等への応用を展開している。
詳細説明 :
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は耐熱性、耐薬品性、非粘着性、自己潤滑性、電気絶縁性等に優れた材料
であり、半導体・液晶製造装置部品、電気・電子部品、自動車部品、医療・食品製造装置部品等の幅広い分野で実用さ
れている。このPTFEは通常、放射線により分解する代表的なポリマーであるが、融点近傍の高温下、不活性ガス雰
囲気中で放射線を照射することにより架橋させることができる。
ここでは一例として、厚さ0.5mmのPTFEシートを窒素雰囲気中、340℃で電子線を100kGy照射して
得られた照射架橋PTFEシートの代表的な特性を図1、2及び表1に示す。
(1)耐摩耗性
架橋による最大の特長は、耐摩耗性の著しい向上である。図1にPTFE及びしゅう動材料として代表的なガラス繊
維充てんPTFEと比較して示す。測定については。、JIS K7218のリングオンデスク法に準じて行った。
相手材がステンレスの場合、照射架橋PTFEの比摩耗量はPTFEに比べ4桁小さく、耐摩耗性が大幅に向上している。
またガラス繊維充てんPTFEと比較しても、同等以上の耐摩耗性を示す。摩擦係数はPTFEより少し高くなるが、ガラ
ス繊維充てんPTFEよりは低い。
次に相手材がアルミの場合、ガラス繊維充てんPTFEでは図に試験後のアルミ表面の粗さを示したようにアルミ表面
をガラス繊維が削り、その結果、耐摩耗性が著しく低下する。これに対し、照射架橋PTFEではこのようなアルミ表面
の損傷が見られず、耐摩耗性は良好である。
図1 照射架橋PTFEの耐摩耗性(原論文の図3、4)
(2)耐クリープ性
耐クリープ性の評価はASTM D621−64に準じ、200℃の圧縮試験で行った。図2に照射架橋PTFEとP
TFE、ガラス繊維充てんPTFEのクリープ特性を示す。荷重下24h後の変形量を圧縮クリープ、荷重除去24h後
の残留変形量を永久変形とした。ここで変性PTFEは、PTFEの耐クリープ性を改善するため変性したものである。
圧縮クリープ及び永久変形はいずれの系においても同様の傾向を示す。照射架橋PTFEの圧縮クリープ及び永久変形
はPTFE、ガラス繊維充てんPTFEに比べ、1/3以下に低減し、変性PTFEに比べても小さくなっている。
このような耐クリープ性の向上は架橋により、塑性変形が抑制されるためと考えられる。
図2 照射架橋PTFEの耐クリープ性(原論文の図5)
(3)その他特性
その他の代表的な特性を表1に示す。引張強さはPTFEに比べ低下するが、降伏点強さ、伸びは同等である。圧縮強
さはPTFEと同レベルであるが、圧縮弾性率はPTFEに比べ、10%程度高くなる。
耐放射線性について見るとPTFEではγ線を100kGy照射すると劣化により脆化するのに対し、照射架橋PTFE
ではこのような著しい劣化が見られず、耐放射線性も向上する。
現在、これらの特長を生かし、軸受け、シール等のしゅう動分野等への応用を展開している。
表1 照射架橋PTFEの一般特性
項 目 |
測定条件 |
照射架橋 PTFE |
ガラス繊維 充てん PTFE |
変性 PTFE |
PTFE |
比重 |
JIS K 6891 |
2.16 |
2.26 |
2.18 |
2.17 |
降伏点強さ(MPa) 引張強さ(MPa) 伸び(%) |
JIS K 6891 200mm/min |
12.6 16.1 180 |
7.4 14.0 270 |
13.9 33.5 490 |
12.9 36.1 360 |
圧縮強さ 0.2%Offset 1% Offset 25% Offset |
JIS K 7208 9mm/min |
11.4 6.5 32.4 |
10.9 7.2 32 |
9.1 6.5 31.9 |
9.9 9.2 31.1 |
圧縮弾性率 (102 MPa) |
JIS K 7208 9mm/min |
6.2 |
9.2 |
7.0 |
5.6 |
熱膨張係数 (10-5/℃) |
JIS K 7197 |
14.9 |
13.6 |
16.9 |
16.7 |
熱伝導率 (103 J/m・h・℃) |
熱線法 |
1.01 |
1.41 |
1.21 |
1.21 |
耐放射線性 (100kGy γ線照射) 引張強さ残率(%) 伸び残率(%) |
JIS K 6891 200mm/min |
90 50 |
脆化 |
脆化 |
脆化 |
コメント :
本報に記載した照射架橋PTFEに関するデータは、各種条件下で使用する場合のデータベースとなる。
原論文1 Data source 1:
架橋ふっ素樹脂材料および応用製品
草野広男、浅井孝康、瀬戸川晃、西甫、山本康彰
日立電線株式会社
日立電線 No20(2001−1)
参考資料1 Reference 1:
電気学会絶縁材料研究会資料 DEI−96−132(1996)
キーワード:PTFE、電子線照射、架橋、耐摩耗性、摩擦係数、耐クリープ性、永久変形、耐放射線性
PTFE,EB irradiation,cross-linking,abrasion-resistance,friction factor,creep-resistance,
permanent transformation,radiation resistance
分類コード:010101,010102,010601