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作成: 2003/02/13 原 敏夫

データ番号   :010244
納豆樹脂を活用したヘドロの有効利用技術の開発
目的      :緑化資材の開発
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co線源(40kCi)、電子線加速器(3MeV, 25mA)
線量(率)   :15-200kGy
利用施設名   :九州大学量子線照射分析実験施設、日本原子力研究所高崎研究所1号加速器
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :農業・園芸分野、日用衛生用品分野、医療分野、土木・建築分野

概要      :
 納豆樹脂とは、納豆菌が発酵生産するバイオポリマーであるγ-ポリグルタミン酸(PGA)を原料とし、放射線照射によりPGA分子間あるいは分子内で架橋させて合成した吸水性、生分解性及び可塑性を特徴とするエコマテリアルである(製造法については、本データベースNo.020155参照)。地球環境問題の高まりの中、納豆樹脂の特性を活用し、植物培養基としての浚渫(しゅんせつ)ヘドロの有効性を検証することにより新たな環境素材としての可能性を探った。

詳細説明    :
 砂漠地帯は地球上で総面積3,000万km2、全陸地面積の約16%を占めており、毎年約600万ha、ほぼ九州と四国を合わせた広さが砂漠化している。陸圏の砂漠化、すなわち、植生の荒廃は、雨や河川を通じて年間約30億トンもの表土を流出させ、地球規模で水圏の汚濁化、富栄養化が進行し、特に、湖沼、ダム、内湾や内海といった閉鎖性水域ではヘドロ堆積による水質汚濁、航路障害やダム貯水能力の低下が起こる。水圏の再生にはヘドロを系外に取り出すことが最も有効だが、浚渫ヘドロの処理、処分の適地や方法など新たな環境問題を提起し、その対策は容易ではない。しかし、ヘドロは有機物と土壌粒子とが結びついて生成した複合粒子と考えると、窒素やリンを含む有機資源へと一変する。
 
 ダム湖底ヘドロと湖沼ヘドロの粒度組成から明らかなように(表1)、河川上流域にある湖底ヘドロは粗砂と細砂からなる砂分が多く、土性は砂土で、透水性はいいが保水力に乏しく、一方、河川下流域の湖沼ヘドロは粘土とシルトに富む植壌土の土性で、保水性はいいが排水性が乏しい特性を示した。

表1 ダム湖底ヘドロと湖沼ヘドロの粒度組成(原論文の表2)(原論文1より引用)
成 分 組 成(%)
ダム湖底ヘドロ 湖沼ヘドロ
粘 土 4.7 16.4
シルト 7.1 32.6
砂 分
(粗砂+細砂)
88.2 51.0

 ダム湖底ヘドロと湖沼ヘドロの物理化学的特徴を比較すると(表2)、両者ともpHは酸性で、置換酸度は湖沼ヘドロが2.77とダム湖底ヘドロの4.11に比べて低い値を示した。全窒素量、全炭素量、腐植含有量とも湖沼ヘドロのほうがダム湖底ヘドロに比べて高い値を示し、湖沼ヘドロのほうが多くの有機物を含んでいた。

表2 ダム湖底ヘドロと湖沼ヘドロの化学的特徴(原論文の表3)(原論文1より引用)
項 目 ダム湖底ヘドロ 湖沼ヘドロ
乾土率(%) 0.93 0.94
水 分(%) 93.1 94.3
強熱減量(%) 96.6 89.5
pH 5.30 4.97
置換酸度 4.11 2.77
全窒素(%) 0.12 0.22
全炭素(%) 4.30 14.3
腐植含有量(%) 7.41 24.6

 ヘドロを風乾試料とし、シロクローバーの種子、納豆樹脂及び蒸留水を添加して造粒した後、室温で1週間乾燥させてヘドロ・シードペレットを調製した。ヘドロ・シードペレットの応力(一軸圧縮試験)と添加した納豆樹脂濃度の関係を検討した。納豆樹脂の濃度が高くなるとともにペレットの応力は増加し、納豆樹脂に接着剤としての機能が認められた(図1)。
 湖沼ヘドロを用いて調製したヘドロ・シードペレットがダム湖底ヘドロを用いた場合に比べて高い応力を示した理由は、湖沼ヘドロの土性が植壌土で、粘土やシルトを多く含み、ヘドロ自体に凝集力があるためであろう。


図1 ヘドロ・シードペレットの応力に及ぼす納豆樹脂添加濃度の影響(原論文の図4)(原論文1より引用)


 湖沼ヘドロを用いて調製したシロクローバーの出芽試験では、吸水開始後3日目から出芽が始まり、出芽率は4日後に80%となった。納豆樹脂無添加区ではペレット表面が滑らかで、出芽率は低く、出芽によりペレットが崩壊した。一方、納豆樹脂を1%添加したヘドロ・シードペレットの表面は凹凸に富み、納豆樹脂無添加区に比べて4日後の出芽率は高く、根もしっかりと張り、出芽によるペレットの崩壊は認められなかった。なお、納豆樹脂の添加濃度を増やすと出芽率は低下した。これは、納豆樹脂の保水力が種子の吸水力を上回ったことに起因し、納豆樹脂の多量の添加は植物に対してはマイナス要因となる。


図2 ヘドロ・シードペレット(左)と出芽したシロクローバー(右)(原論文の図5)(原論文1より引用)


 これまで、納豆樹脂を利用した沙漠緑化プラン「グリーン・リサイクルシステム」を提唱している。植物の生育に肥料分は不可欠で、その供給源を浚渫ヘドロに求めた。有機物と土壌粒子とが結び付き生成した沈殿物をヘドロと考えると、ヘドロは窒素やリンを含む有機資源に一変する。グリーン・リサイクルシステムは、浚渫による「水圏の浄化」と浚渫ヘドロを利用したヘドロ・シードペレットによる緑化での「陸圏の修復」を相互に連動して行うことができる環境保全システムと位置付けることができる。

コメント    :
 沙漠・乾燥地に限らず、日本国内においても山岳地には豪雨などによる崩壊痕やはげ地があり、土地の浸食が問題となっている。このような場所の緑化にヘドロ・シードペレットを利用して水圏の浄化と陸圏の修復を連動して行うことができれば、エコロジーを包含した環境科学に立脚した新技術となろう。

原論文1 Data source 1:
納豆樹脂を活用したヘドロの有効利用技術の開発
原 敏夫
九州大学大学院農学研究院遺伝子資源開発研究センター
ECO INDUSTRY(月刊エコインダストリー), 2002年, No.3, 5-11

キーワード:納豆菌、γ-ポリグルタミン酸、γ線、電子線、生分解性、高吸水性樹脂、納豆樹脂、ヘドロ・シードペレット、沙漠緑化
Bacillus subtilis (natto), Poly(γ-glutamic acid), γ-Ray, Electron beam, Biodegradable, Super water absorbent, Natto JushiTM, Sludge seed pellet, Desert greening
分類コード:010101, 010503, 010506

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