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作成: 1996/08/20 小山 重郎   

データ番号   :020010
日本における不妊虫放飼法によるウリミバエの根絶
目的      :放射線によって不妊化した害虫を用いた害虫の根絶防除
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Co-60 
線量(率)   :70Gy
利用施設名   :沖縄県ウリミバエ不妊虫大量増殖施設
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :害虫防除

概要      :
 ウリミバエはウリ類などの重要害虫であり、これが侵入した沖縄県全域と鹿児島県の奄美群島からウリ類などの日本本土への出荷が禁じられたため、不妊虫放飼法による根絶が試みられた。この方法は、対象害虫を人工的に大量増殖して、ガンマ線照射により不妊化したのち野外に放す方法である。不妊虫と交尾した野生虫の子孫は育たず、しだいに絶滅にむかう。この方法により沖縄県と奄美群島のウリミバエは1993年までに完全に根絶した。     

詳細説明    :
 
1.ウリミバエ根絶の必要性
 
 ウリミバエは幼虫がウリ類などの果実の内部を食い荒らす害虫であり、東南アジアを中心に分布している。この害虫の日本への侵入を防ぐために、これが加害する植物の日本への持ち込みが法律で禁止されている。ところが、1917年から1974年にかけて、沖縄県全域と鹿児島県の奄美群島にウリミバエが侵入したため、これらの地域からウリ類などの日本本土への出荷が禁じられた。そこで1972年からこの害虫の根絶防除が試みられた。
 
 
2.根絶のための不妊虫放飼法
 
 ウリミバエは野生ウリ類に寄生し野外にひろく分布しているため、大量の殺虫剤を散布しても根絶は困難であり、またこのような大量の殺虫剤散布が環境汚染をひきおこすおそれがある。そこで不妊虫放飼法がとりあげられた。この方法は、対象害虫を人工的に大量増殖し、これにガンマ線を照射して不妊化したのち野外に放飼する方法である。野生の虫を上回る数の不妊虫を放飼しつづけると、多くの野生虫は不妊虫と交尾し、それが産む卵は育たず、その結果子孫がしだいに減って、ついには絶滅に至る。この方法は、アメリカで家畜害虫であるラセンウジバエの根絶のために開発され、1967年にはマリアナ群島のロタ島でウリミバエの根絶に成功したため、日本のウリミバエでも採用された。
 
 
3.ウリミバエの根絶技術
 
 不妊虫放飼法はすでに確立された技術として採用されたが、沖縄・奄美の条件下で実施するには、次のような多くの技術開発が必要であった。
 
1)個体数推定と密度抑圧防除:  
 野生虫を上回る数の不妊虫を放飼するには、まず野外にいるウリミバエの数を知らなければならない。そのために、ある数のハエにマークをつけて野外に放し、これをトラップ(ハエの誘引剤を入れた一種のわな)で再捕して、同時に捕えられた野生虫との比率から野生虫の数を推定した。その結果、予定された不妊虫の数より野生虫の数が大幅に多かったため、ウリミバエの誘引剤と殺虫剤を組み合わせた誘殺剤を野外に散布することによって、あらかじめ野生虫の密度を抑圧した。
 
2)大量増殖: 
 ウリミバエ幼虫は小麦フスマを主とする人工飼料で大量増殖をおこなったが、人工飼料の組成、飼育容器、温度管理などについて、安価で最適の方法が開発された。また、沖縄県では飼育規模の拡大にともない、機械化された大量増殖施設を建設した。
 
3)不妊化: 
 Co-60 を線源とするガンマ線の照射によって不妊化を行なったが、その最適の線量として、羽化(成虫になること)2-3 日まえの蛹に70Gyのガンマ線を照射した。
 
4)輸送及び放飼:
 大量の不妊蛹を輸送する容器と放飼法が開発された。放飼法は初期には蛹を野外に置いたバケツに入れて、自然に羽化させる方法をとったが、放飼量の増大にともない、あらかじめ羽化させた成虫を冷却麻酔して、特別の装置によりヘリコプターから投下する方法が開発された。
 
5)効果判定: 
 野外に置いたトラップによって捕らえたハエの内、不妊虫と野生虫の比率から判定する方法と野外から集めたウリ類の果実の被害の有無から判定する方法が併用された。効果をみながら、不妊虫の放飼量が増減され、根絶が確認された。 
 
 
4.ウリミバエ根絶の経過
 
 沖縄県久米島で1978年に実験的に成功したのち、防除対象地域を拡大し、1987年宮古群島、1989年奄美群島、1990年沖縄群島、1993年八重山群島と順次に根絶を達成した。1972年の事業開始以来22年間に放飼された不妊虫の数は625 億匹、費用は204 億円であった。

コメント    :
 不妊虫放飼法によるウリミバエの根絶は日本では画期的なものであり、国際的にも高く評価されている。この成功は放射線の農業利用の面からも注目される成果である。しかし、その成功のためには、20年以上もの長い年月にわたる試行錯誤と多くの研究が必要であった。今後不妊虫放飼法を他の地域や、他の害虫の防除に適用する上で、この経験に学ぶ必要があろう。

原論文1 Data source 1:
日本におけるウリミバエの根絶 
小山 重郎
秋田市楢山大元町4-29
日本応用動物昆虫学会誌Vol.38,No.4.p219-229(1994)

原論文2 Data source 2:
日本国内からのウリミバエ根絶
垣花 広幸
沖縄県ミバエ対策事業所
放射線と産業No.62.p53-55(1994)

原論文3 Data source 3:
ウリミバエ不妊虫の大量増殖法の確立による根絶事業の成功
垣花 広幸 
沖縄県ミバエ対策事業所
農業技術Vol.49,No.1.p7-10(1994)

キーワード:不妊虫放飼法、ウリミバエ、根絶
sterile insect technique, melon fly, eradication
分類コード:020201,040204

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