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作成: 1999/10/18 小山 重郎

データ番号   :020167
沖縄県ウリミバエ不妊化施設の概要
目的      :沖縄県のウリミバエを不妊虫放飼法により根絶するための不妊化施設
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :70Gy
利用施設名   :沖縄県ミバエ対策事業所ウリミバエ不妊化施設
照射条件    :空気中
応用分野    :不妊虫放飼法、害虫防除

概要      :
 沖縄県に侵入したウリミバエを根絶するために1984年に沖縄市真地に建設された沖縄県ミバエ対策事業所ウリミバエ不妊化施設の概要について説明する。

詳細説明    :
 
 沖縄県は侵入害虫のウリミバエを根絶するために不妊虫放飼法を採用した。大量増殖したウリミバエをガンマ線照射し不妊化するため、1973年に小規模な60Co照射施設を沖縄県那覇市にある沖縄県農業試験場構内に建設し、これを久米島の根絶事業のために使用し,最大週500万頭の蛹を照射した。久米島での根絶に成功したのち、この方法を沖縄県全域に適用するため、1984年に大規模な不妊化施設を那覇市真地の沖縄県ミバエ対策事業所構内に建設した。この施設によって最大週2億頭の蛹が照射され放飼された結果1993年に沖縄県全域の根絶に成功したが、その後もウリミバエの再侵入防止のために放飼する蛹の不妊化をおこなっている。この施設の概要は次ぎのとうりである。
 
 不妊化施設はウリミバエ大量増殖施設に隣接し、生産された蛹の通路でこれとつながっている(図1)。鉄筋コンクリート造り2階建てで、延床面積は1498.66(1階:722.38,2階:737.65,R階:38.63)平方メートルである。建物は照射棟と管理棟にわけられる。


図1 沖縄県ミバエ対策事業所ウリミバエ不妊虫大量増殖施設(左:不妊化施設、右:増殖施設)

 照射棟(図2)はコンクリート壁に囲まれた照射室とこれを保護する鉄骨造りの上屋(高さ13.25メートル)からなり、照射室上部に空調機器室と天井クレーンが設置されている。管理棟は2階建てで1階に制御室、蛹保管室等、2階に事務室、効果判定室等がある。


図2 照射棟平面図(A:照射室、B:線源、C:線源プール、D:サブプール、E:水処理室、F:鉛ガラス窓、G:作業エリア、H:配電盤室、I:蛹積み込み装置(増殖施設内にある)、J:コンベア通路、K:蛹取り出し室、L:遮蔽コンクリート壁、→は蛹容器搬送用コンベアの進路で1本線であらわしたところは上下に往復2本のコンベアが走っている。沖縄県ミバエ対策事業所の資料にもとずいて作図した。)

 施設の内部構造とその機能は次ぎのとうりである。
 
(A)照射室:
 
 直径12mm,長さ30cmのコバルト60棒状線源を円筒状に配置して吊るし、これを深さ6mの水槽に格納し 、照射時にはこれを引き上げる。
線源及び線源プールはコンクリート壁によって取り囲まれ、照射時にガンマ線が外部に漏れるのを防いでいる。この壁には蛹と作業者の出入りする迷路がある。照射中に蛹の温度が上昇することのないように、25℃プラスマイナス2℃に空調し、照射によって発生するオゾンやNOxを排出するため、常に新鮮な空気を導入している。線源プールの水はイオン交換水を用い、常にオーバーフローする。線源プールのメインテナンス時に一時線源を保管するサブプールも設置してある。照射室を外部から観察するための鉛ガラス窓とマニプレーターを設置し、線源のメインテナンスをおこなう。照射室の上部には線源の搬入、メインテナンス用の天井クレーンを設置している。
 
 
(B)照射容器:
 
 直径10cm、長さ50cmの円筒形のかごで、これに約10万頭の蛹をいれチェーンコンベアに吊るして自転しながら線源のまわりを回転し均一に照射される(図3)。


図3 コバルト60線源(写真撮影時は線源枠のみ)のまわりを回る蛹の入った照射容器

 チェーンコンベアは長さ120mで連続しており、大量増殖施設の蛹積み込み装置と照射装置、そして照射ずみ蛹取り出し装置の間を往復する。照射容器はこのコンベアの3箇所に照射蛹数に応じて30-70本ずつ20cm間隔に吊るされており、蛹積み込み、照射、蛹取り出しが同時におこなわれる。コンベアは増殖施設の蛹積み込み装置から照射棟の間は狭い暗い廊下を通過し、その前後ではブラシとエアカーテンによって、付着している成虫をはらいおとし、増殖施設からの未照射成虫の外部への逃亡を防いでいる。
 
(C)運転および安全装置:
 
 照射装置およびコンベアの運転はすべて制御盤によっておこなわれ、運転状態はコンピュータによって監視される。また、照射室、蛹積み込み装置、蛹取り出し装置の主要部分をテレビカメラで見ることができる。制御盤の鍵と照射室入口扉の鍵は共通で運転を停止させないかぎり、照射室には入れない。照射室内にはガンマ線エリアモニターが2台設置され、そのいずれかが故障すると入口扉が開かなくなる。入口扉が開いていると線源はプールから上昇しない。線源が上昇する際には5秒間ブザーが鳴る。照射室迷路には内部で人が作業中であることを表示するスイッチが2カ所にあり、これを1カ所でもONにしておくと線源は上昇しない。さらに迷路には緊急停止ボタンが2カ所にあり、いずれかを押すと線源は下降する。線源が上昇しても内部で入口扉に接していれば安全線量である。また扉は手動で内部から開けられる。作業従事者には年一回放射線に対する教育訓練を実施している。
 
 
(D)不妊化線量および線源の補充:ウリミバエは成虫になる2ー3日まえの蛹に70Gyのガンマ線を照射することによって不妊化される。この照射線量はコバルト60線源の量に応じて、照射容器を吊るしたチェーンコンベアの速度を調節することによって確保される。この施設ははじめ週5日間6時間以内の運転で週1億頭の蛹を照射できるように設計されたが、最大時には週2億頭の蛹を照射できた。またコバルト60は半減期5.2714年で減衰するので、適宜補充しなければならない。この施設の建設以来の線源の導入状況はつぎのとうりである。
 第1回 1984年7月6日  59970Ci(4月1日現在)
 第2回 1986年6月13日 59100Ci (6月6日現在)
 第3回 1989年3月3日  63374Ci (3月1日現在)
 第4回 1999年9月6日  62570Ci (9月6日現在)
 (1999年9月6日現在の総線源量は88932Ci)
 
付記:この施設は日本原子力研究所高崎研究所の技術指導のもとに沖縄県が設計・建設し、1984年5月26日に科学技術庁の認可をうけ、沖縄県ミバエ対策事業所放射線障害予防規定(1984年8月28日施行)にもとずいて運転されている。線源量等の数値は原論文1,2,3及び沖縄県ミバエ対策事業所の好意により記載した。

コメント    :
 この施設は害虫の不妊化施設としては世界最大級のもので、その構造と機能は作業能率と安全面の両面からよく配慮されており、沖縄県からウリミバエを根絶することに大きく貢献した。

原論文1 Data source 1:
4.ウリミバエ不妊虫大量増殖施設設置事業
沖縄県農林水産部・特殊病害虫対策本部
同上
昭和58年度沖縄県特殊病害虫防除事業報告9号:126-140(1984)

原論文2 Data source 2:
5.ウリミバエ不妊虫大量増殖施設設置事業
沖縄県農林水産部・特殊病害虫対策本部
同上
昭和59年度沖縄県特殊病害虫防除事業報告10号:146-157(1985)

原論文3 Data source 3:
2.新不妊化施設の建設と不妊化技術
棚原 朗
琉球大学
沖縄県ミバエ根絶記念誌、1994年1月、沖縄県農林水産部:86-90(1994)

キーワード:沖縄県、ウリミバエ、根絶、不妊虫放飼法、、不妊化施設、ガンマ線照射
Okinawa Prefecture,melon fly,eradication,sterile insect technique,sterilization facility,gamma-ray irradiation
分類コード:020205,020201,040204

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