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作成: 2000/11/30 天野 悦夫

データ番号   :020195
中性子線誘発による完全欠失型モチ変異系統
目的      :高LET放射線による欠失型突然変異の誘発
放射線の種別  :中性子
放射線源    :原子炉中性子(熱中性子設備)
線量(率)   :イネ種子の80%生存領域
利用施設名   :京都大学熊取原子炉実験所 KUR原子炉
照射条件    :休眠種子の大気中照射
応用分野    :突然変異育種、欠失型突然変異の誘発、バイテク研究用遺伝子の釣り上げ

概要      :
 イネやトウモロコシのモチ・ウルチ性は穀粒を見て判別できる便利な遺伝形質である。さらにアジアではモチ性は重要な農業形質、食用形質であり、また生化学・バイテク分析などのいろいろな科学的分析に便利である。この報告ではこの特性を多面的に利用するために誘発収集したイネの変異体についてDNAレベルで詳細分析し、完全欠失型の突然変異が中性子照射で誘発されていたという報告である。当時はまだ誘発突然変異体についてのこのような詳細報告は他にはなかった。

詳細説明    :
 
 近年の遺伝子構造の研究によって、放射線照射等で誘発される突然変異の詳細は、遺伝子の不活性化として解釈できるようになってきた。さらに遺伝子の釣り上げのために、トランスポゾンなどの挿入型変異や、DNAの電気泳動分析時にバンドの位置が移動するような欠失型の突然変異が求められるようになってきている。
 本報告では使用する変異誘発法と生じる突然変異の構造変化を研究するために、誘発収集されてきていたイネのモチ性突然変異体について分析を試み、原子炉熱中性子線の照射で誘発されたものの中に、当該遺伝子座を完全に欠くものが検出できた報告である。
 表1は分析対象とした各系統を取りまとめたもので、上部7品種はウルチまたはモチの既存品種であり、それより下のものはいろいろな変異原で人為的に誘発されたモチ性変異系統である。

表1 Amylose content and Waxy enzume of cultivars and mutants.(原論文1より引用。 Reproduced from IAEA Symposium on Plant Mutation Breeding for Crop Improvement, 1991 vol.2 385-389, O. Yatou and E. Amano,DNA structure of mutant genes in the waxy locus in rice.; Copyright(1994), with permission from IAEA and authors.)
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Line          Original       Mutagenb       Waxy       Amylose       Waxy
             cultivar2                     indexc     content     enzymeb
                                                        (%)
-------------------------------------------------------------------------------
Nihonmasari    Wxb                          16.35        20            +
Akihikari      Wxb                          18.20        14            +
Norin 8        Wxb                          17.60        14            +
Reimei         Wxb                          18.89        13            +
Tichung 65     Wxb                          18.12        14            ++
504wx          wx                           69.30         0            -
Mangetsu mochi wx                           67.91         0            -
                                                                              
73wx1N1A       N8             EMS           70.16         0             
74wx8N1A       N8             EMS           62.90         1            +
75wxINIA       N8             EMS           49.48         4            ++
KURwx4n1       N8           Neutrons        68.84         0            -
83G11wx1       N8          Gamma rays       51.64         0            -
78KURwx2       N8           Neutrons        31.38         3            +-
82Gwx1         N8          Gamma rays       67.41         0            -
79GWx2         N8          Gamma rays       54.94         3            +-
82REwx2        R               EMS
84REwx3        R               EMS          58.55         2
85REwx8        R               EMS          52.54
Wx1            NM          Gamma rays       66.97         0            +-
Wxl9           NM               EI          67.85         0            -
Wx23           NM               EI          60.60         0            +-
-------------------------------------------------------------------------------
a N8:Norin 8;R:Reimei;NM:Nihonmasari.
b Mutagens were applied to the seeds.EMS:ethylmethanesulphonate;EI:
  ethyleneimine.
c The waxy index was determined by a double spectra photometer after iodine 
  staining:less than 20:non-waxy;20-65:intermediate waxy;more than 65:complete 
  waxy.
b The amount of Waxy enzyme determined by Sano[2];the amount of enzyme 
  decreased in the order:++,+,+-and none,-.
 これらについて、DNAの抽出、制限酵素消化分解、電気泳動分離、Wx遺伝子プローブによるサザン分析によって、ウルチ・モチ決定遺伝子の分析を行った。その結果を図1に示す。


図1 Genomic Southern blot analysis of the waxy locus in rice waxy mutants. (原論文1より引用。 Reproduced from IAEA Symposium on Plant Mutation Breeding for Crop Improvement, 1991 vol.2 385-389,O. Yatou and E. Amano,DNA structure of mutant genes in the waxy locus in rice.; Copyright(1994), with permission from IAEA and authors.)

 鋭敏な分析法ではあるが、いろいろなノイズに煩わされやすいため、この図でも美しい仕上がりではないが、基本となる正常なウルチ遺伝子のバンドの位置に、ほとんどすべてのモチ変異体でバンドが出ている。このことはこのバンドの位置をずらせるような大きな変化ではなく、資料の5,7,8などのガンマ線照射で誘発されたものであっても、大きな構造変化にはなっていないことが示されている。これらでは実際には数個の塩基対の欠失といった程度のものは検出できないが、それ以上の大きな変化ではなかったことが示されている。なおこの場合のDNAプローブにはトウモロコシのWx遺伝子座に対応するものを用いているが、図1に示されるように十分にプローブとして働いている。
 
 ただ一つ、4番のKURwx4N1では正規の位置にはバンドが出て居らず、欠失型の突然変異であることを示している。なお、この系統を本要素レコードの担当者の大学で卒論実験に使わせたところこの系統では全くバンドが出ないので、実験に失敗したと思われたと言うエピソードもあり、完全欠失であることがまたも立証されたことになった。
 なおこの系統は大阪府熊取町にある京大原子炉実験所の主に生物実験用として設置された重水熱中性子設備を使って行われた照射に由来するものである。

コメント    :
 本要素データを書いている平成12年頃にはこのような分析は、遺伝子の釣り上げと同定の需要が増し、分析方法も日本でも大学での卒論研究レベルにまでなり、イオンビームが生物学研究者にも使えるようになっていることと併せて、欠失型の突然変異の研究は今後一層進展すると思われる。

原論文1 Data source 1:
DNA structure of mutant genes in the waxy locus in rice.
O. Yatou and E. Amano
Inst. of Radiation Breeding, NIAR, Ibaraki, JAPAN
IAEA Symposium on Plant Mutation Breeding for Crop Improvement, 1991 vol.2 385-389

キーワード:突然変異、欠失型、イネ、モチ遺伝子座、中性子線、原子炉照射、サザン分析、完全欠失変異
mutation, deletion type, rice , waxy locus, neutrons, reactor radiation, Southern analysis , complete deletion
分類コード:020101, 020501, 040103

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