回遊調査のための海洋生物のアクチバブルトレーサー標識

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作成： 1999/11/09 天野　悦夫データ番号　　　：020204 回遊調査のための海洋生物のアクチバブルトレーサー標識目的　　　　　　：海洋動物の回遊調査と栽培漁業・環境保全事業の推進放射線の種別　　：中性子放射線源　　　　：研究用原子炉フルエンス（率）：1x10¹²/cm²・sec、24時間(6時間x4日)照射利用施設名　　　：立教大学　TRIGA-2 型照射条件　　　　：乾燥試料に照射応用分野　　　　：孵化放流事業、環境保全事業概要　　　　　　：　海洋性動物の回遊調査へのアクチバブル・トレーサーの応用について、アオウミガメの場合を例とし、シロザケ等での例と比較している。ユーロピウムとイリジウムを用いた実験ではアオウミガメの場合はイリジウムで好結果を得ている。詳細説明　　　　：　放置すれば資源の衰退が心配される動植物を人為環境で採卵し孵化育成して自然環境に戻す事業は、自然環境の保全、絶滅に瀕する生物の保護・回復、漁業資源等の保護・回復を目的に実施されている。海洋性の生物ではその効果の確認には一般に迷子札型の標識を付けたり、鰭の一部を切り取ったりする標識法が使われている。しかし、幼魚ではそのために1匹ずつ手にとって標識付けすると魚体を痛めることにもなる。このために多くの個体に障害無く標識を付与する方法として、自然資源個体には無いか或いは痕跡程度しか含まれず、放射化によって定量的測定が可能になるアクチバブル・トレーサー法が開発され、状況によっては非常に効果的であることが判ってきている。原論文1では小笠原地域でのアオウミガメの初期生育時に飼料にユーロピウム(Eu)またはイリジウム(Ir)を混入し、甲羅組織への蓄積を調べている。　8月5日に天然孵化した稚亀30頭は2週間の予備飼育・餌付けの後、3塩化ユーロピウムまたは4塩化イリジウムを飼料中濃度が2,000ppmとなるように混入した飼料で飼育した。4週間の投与飼育の後、2ヶ月後に図1の各部位から試料を取り、乾燥後、立教大学TRIGA-2型原子炉で中性子照射してGe(Li)半導体検出器を用いて放射化分析を行った。飼育期間中の斃死数は少なかったが、耐久性のある組織での吸着固定には二つの元素で違いが観察された。結論的にはアオウミガメの場合ではでん骨板(5')への蓄積はイリジウムが多かった（表１，表２）。図1　放射化分析用採取部位（原論文1より引用）表1　試料のガンマ線スペクトルデータ（Covell法により算出した）（原論文1より引用） ------------------------------------------------------------------------- 計数値（±計数誤差）試料区試料重量(mg) ---------------------------------------------- Eu(122 Kev) Ir(316 Kev) Ir(468 Kev) ------------------------------------------------------------------------- A-1 　　 43.3 87 ±39 399± 31 119± 21 2 　　 47.8 － 163± 22 70± 14 3 　　 52.3 － 180± 26 94± 17 4 　　 47.3 52.5±39 200± 27 75± 18 5 　　 60.2 25 ±45 108± 26 36± 18 5' 　　 80.5 331 ±199 7683±127 3676± 68 B-1 　　 43.0 9 ±39 607± 35 251± 21 2 　　 48.3 52 ±36 221± 26 84± 15 3 　　 49.0 47 ±40 322± 27 101± 17 4 　　 48.1 － 417± 29 161± 17 5 　　 62.1 31 ±52 1320± 46 439± 29 5' 　　 64.3 303 ±164 7600±119 2480± 71 C-1 　　 59.6 － 524± 32 205± 20 2 　　 50.6 3 ±34 545± 29 192± 19 3 　　 46.4 － 343± 30 160± 13 4 　　 49.9 108 ±40 356± 30 131± 20 5 　　 61.5 － 149± 28 67± 16 5' 　　 73.3 － 5991±114 2205± 68 D-1 　　 58.7 －－－ 5 　　 50.7 26 ±38 － 22± 13 5' 　　 49.6 75 ±106 65± 49 9± 30 標準-1 58.4ngEu 　　 +871.4nglr 10652 ±165 23730±175 8610±108 標準-2 38.2ngEu 　　 +447..9nglr 4652 ±126 16880±148 6196± 90 ------------------------------------------------------------------------- 表2　採種部分別Ir含有率（３頭平均）（原論文1より引用） --------------------------------- 採取部位No. Ir含有率 (p.p.m) --------------------------------- ① 　 0.34 ② 0.20 ③ 0.19 ④ 0.24 ⑤ 0.26 ⑤' 3.21 --------------------------------- 　魚類では、鱗へのEu蓄積効果は魚種によって異なり、シロザケ稚魚では投与後数年間にわたって蓄積されたのに対して、マダイ稚魚では蓄積量も少なく投与後100日間程度のみ効果が認められた。マダイの稚魚では他の標識元素としてIrが試みられて効果が認められている。これらの標識用に投与された元素は消化管での吸収、体内運送、耐久性組織への蓄積と複雑な経路を経ねばならない。　原論文2は一般的な放射化分析についての概説であるが、鮭鱒類の回遊追跡についても触れ、1)標識元素は極微量で放射化分析に都合の良いもの、2)サケ、マスには天然の状態ではほとんど存在しない希有元素であること、3)長期間魚体内に保持されること等が必要条件となると指摘し、希土類元素のユーロピウムが耳石、鱗に移行蓄積し、好都合であり、北海道の西別川のシロサケで実証されたと述べている。コメント　　　　：　アクチバブル・トレーサーは採卵孵化放流事業の結果の調査に効果的である。放射性同位元素トレーサーと異なり、一旦鱗などに取り込まれると生涯残存するので、放射化測定で追跡が可能である。試料に特定の元素を混入することで、特に幼魚など人の手で触れると障害の起こる物に対して大量に標識付与するのには望ましい方法である。しかし、数量的にそれほど多くなく、1匹ずつ迷子札型標識タグを付けることがそう困難ではないウミガメのような場合は在来法の方がよいのではないだろうか。原論文１ Data source 1：未成熟アオウミガメの資源生態に関する研究西村　和久、倉田　洋二、三木　誠、青木　雄二、村井　衛、木村　ジョンソン東京都小笠原水産センタ- 東京都水産試験場調査研究要報　191：1-102頁　(1986) 原論文２ Data source 2：中性子照射による核変化の利用星　三千男、高橋　秀武日本原子力研究所エネルギーレビュー　11巻10号16～20頁　(1991) キーワード：ウミガメ、シロザケ、標識放流、回遊回帰調査、イリジウム、ユーロピウム、組織別蓄積、放射化分析 Sea turtle, salmon, labeled release, migration survey, Iridium, Europium, tissue accumulation, activation analysis 分類コード：020303, 020301, 020502, 040404
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