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作成: 2002/9/7 曽雌 隆行

データ番号   :020220
放射性核種の植物内移行に対する土壌微生物の影響
目的      :放射性核種のファイトレメディエーション系確立のための基礎的知見の蓄積
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :137Cs、マルチトレーサー(60Co, 54Mn, 83Rb, 85Sr等)
応用分野    :環境科学、植物生理学、植物栄養学、農学

概要      :
 植物を利用した汚染土壌の浄化(ファイトレミディエーション)の基礎的研究を行うため、マルチトレーサーを用いた植物の放射性核種経根吸収とそれに及ぼす土壌微生物の影響を調べた。イネと糸状菌Gibberella fujikuroi、トマトとFusarium oxysporumの組み合わせを調べた結果、土壌菌の有無により植物の核種取り込みが変化することを見いだした。

詳細説明    :
 
 原子力発電所の不慮の事故や廃棄に伴う放射性核種による環境の汚染、有害金属の人体への影響の評価や、植物を用いた土壌浄化(ファイトレメディエーション)系を確立するための、基礎的知見を蓄積することを目的としている。植物の生育環境は気象や土壌などの物理化学的な要因だけでなく、土壌細菌や共生菌などの生物学的な要因によっても影響を受けるので、植物の放射性核種経根吸収とそれに及ぼす土壌微生物の影響をマルチトレーサー法を用いて解析した。
 
 150gの供試土壌を入れたポットに植物を植え、それぞれのポットに銀ターゲットで作製したマルチトレーサー溶液と137Cs溶液を加え、室温25℃〜30℃、12時間明期(15,000〜17,000 lux)の温室で栽培した。イネとトマトは菌接種後3週間で地上部を切り取り、50℃で乾燥して試料とした。取り込まれた核種は、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。
 
 
1.イネに対するGibberella fujikuroiの影響
 
 イネ根圏から分離しGibberella fujikuroiと同定された株の菌体懸濁液をイネ土壌に接種すると、イネの葉長、地上部乾重を増加させ、Mn、Co、Zn、Rb、Sr、Csの核種取り込みを増加させた(図1)。Rbを除く五つの核種はその取り込み率が約2倍にまで高くなっていた。


図1 Influence of Gibberella fujikuroi on uptake of radionuclides by rice.(原論文1より引用)

 
 この菌株はイネの葉長、地上部乾重を増加させることから、ジベレリン生産株であることが予想された。そこで、ジベレリンA3を施用したところ、150μg/mlのジベレリンの施用により、菌体懸濁液と同様の核種移行量の増加が認められた(表1)。このことから、G. fujikuroiのイネ地上部への核種移行を増加させる働きは、菌が生産するジベレリンが原因となっている可能性が示唆された。

表1 Influence of Gibberella fujikuroi and gibberellin on uptake of radionuclides by rice.(原論文1より引用)

  Control G.fujikuroi Gibberelline A3(µg/ml)
600 450 300 150
Uptake amount(%)/plant
Mn
Co
Zn
Rb
Sr
Cs

Shoot dry wt. (g)
Root dry wt. (g)

 1.39
 0.07
 0.71
 1.63
 0.08
 0.02
 
 0.209
 0.076
  
  2.65
  0.24
  1.21
  2.55
  0.15
  0.04
  
  0.234
  0.073

 2.62
 0.18
 1.44
 3.14
 0.14
 0.05
 
 0.331
  NT*

 2.55
 0.10
 1.24
 2.90
 0.13
 0.04
 
 0.309
  NT

 2.18
 0.17
 1.06
 2.83
 0.14
 0.04
 
 0.299
  NT

 2.41
 0.18
 1.16
 2.48
 0.18
 0.03
 
 0.29
  NT
*Not tested
 
2.トマトに対するFusarium oxysporum の影響 
 
 フザリウムは,米、サトウキビ、トウモロコシでは主要な寄生生物のひとつで、他の果実や野菜例えばトマトやスイカなどにも発生し、作物に病気を起こす病原性株と病原性をもたない非病原性株とに区分される。トマトの核種取り込みに与えるFusariumの影響を調べるために、トマト根圏より非病原性Fusariumを単離した。単離したそれぞれの5株(T1,T2,T3,M1,M2)の菌体懸濁液を、マルチトレーサーを施用したトマト土壌に接種し、トマト地上部に移行した放射性核種を解析した(図2)。


図2 Influence of Fusarium oxysporum on uptake of radionuclides by tomato.(原論文2より引用)

 
 フザリウムを接種することによりトマトの核種の取り込みの変化が見られた。M1、M2株は核種に対して似たような変化パターンをみせ、その他の株はそれぞれ移行に影響を与える核種のパターンが異なっていた。T1株はRb、Cs、Na、Coの取り込みを上昇させたがSr、Zn、Tcの取り込みには影響を与えずMnに関しては移行を減少させた。T2株はNa、Rb、Cs、Zn、Co、Tcの取り込みを上昇させたが、Sr、Mnはコントロールと同じであった。T3株は今回解析した全ての核種の移行を上昇させていた。
 
 一方核種に注目すると、アルカリ金属のうちRbとCsに対する株ごとの影響はほぼ同様となっており、フザリウムによるRbとCsの移行挙動の変化が共通の機構による可能性が示唆された。同様のことがMn、Tc、Znの間にも見られた。Rb、Cs、Coは他の核種に比べてフザリウムの接種により移行率が大きく上昇していた。

コメント    :
 原発事故などで放出される放射性核種のなかでも、CsとSrの放射性同位体は長半減期で土壌中を移動しにくく、植物への移行率も低くなっているため、長期に渡って環境に影響を与える可能性が指摘されており、有効な浄化手段が必要とされている。放射性核種のファイトレメディエーションにおいて、今回見いだされたような、植物の核種取り込みを上昇させる土壌微生物を利用することで、より高効率なレメディエーションを行える可能性があると考えられる。

原論文1 Data source 1:
放射性核種の土壌から植物への移行に関与する根圏土壌ファクター
有江力、Satyanarayana Gouthu、平田博明、安部静子、山口勇
理化学研究所(RIKEN)、埼玉県和光市広沢 2-1
原子力基盤総合研究(クロスオーバー研究)第2期最終報告書 陸域環境における放射性核種の移行に関する動的モデルの開発 pp.97-106

原論文2 Data source 2:
Possible role of soil-microbes in plant uptake of radionuclides.
Gouthu,S., Arie,T., Ambe, S. and Yamaguchi,I.
理化学研究所(RIKEN)、埼玉県和光市広沢 2-1
RIKEN Accel. Prog. Rep., 31, 146, (1998)

原論文3 Data source 3:
Influence of nonpathogenic Fusarium strains on uptake of radionuclides by tomato.
T. Soshi, T. Arie and I. Yamaguchi
理化学研究所(RIKEN)、埼玉県和光市広沢 2-1
RIKEN Accel. Prog. Rep., 34, 165-166, (2000)

参考資料1 Reference 1:


参考資料2 Reference 2:


キーワード:ファイトレメディエーション,放射性核種,植物移行,蓄積,微生物,レメディエーション,環境,マルチトレーサー,根圏
Phytoremediation,Radionuclide,Plantuptake,Accumulation,Microorganisms,Remediation,Environment,Multitracer,Rhizosphere
分類コード:020501,020503

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