作成: 1999/09/27 林 徹
データ番号 :029498
食品照射
目的 :食品照射についての解説
放射線の種別 :エックス線,ガンマ線,電子
応用分野 :食品照射、食品衛生、食品流通、食品産業
概要 :
食品照射は、発芽抑制、成熟遅延、殺虫、殺菌などを目的として食品や農産物にガンマ線や電子線を照射する技術である。放射線を照射した食品の安全性については国際的な検討が行われ、安全性が確認されている。食品照射は約30ヶ国で実用化されている。
詳細説明 :
1.食品照射の基礎
食品に放射線を照射することを:[食品照射]:と呼び、その目的は:[発芽抑制]:、:[成熟遅延]:、:[殺虫]:、:[殺菌]:などである(表1)。目的により必要な放射線量は異なり、発芽抑制、成熟遅延、殺虫、殺菌の順に必要な放射線量が高くなる。また放射線を照射した食品のことを照射食品という。放射線のうち食品照射に利用できる:[電離放射線]:は、60Coおよび137Csのガンマ線、加速電圧が1000万電子ボルト以下の電子線、加速電圧が500万電子ボルト以下のエックス線に限られている。これは、放射線を照射した食品などの物体の中に放射能が誘導されるのを防ぐためである。言い換えると、上記の放射線を使用するかぎり、放射線を照射した食品が放射能を帯びることはない。
表1 食品照射の利用法(原論文1より引用)
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照射の目的 線 量(kGy) 対 象 品 目
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発芽および発根の抑制 0.03-0.15 馬鈴薯、タマネギ、ニンニク
甘藷、シャロット、ニンジン、栗
殺虫および不妊化 0.1-1.0 穀類、豆類、果実、カカオ豆、
ナツメヤシ、豚肉(寄生虫)、飼料原料
成熟遅延 0.5-1.0 バナナ、パパイア、マンゴー、アスパラガス、
きのこ(開傘抑制)
品質改善 1.0-10.0 乾燥野菜(復元促進)アルコール飲料(熟成促進)、
コーヒー豆(抽出向上)
腐敗菌の殺菌 1.0-7.0 果実、水産加工品、畜肉加工品、魚
胞子非生成食 1.0-7.0 冷凍エビ、冷凍カエル脚、食鳥肉、
中毒菌の殺菌 飼料原料
食品素材の殺菌(衛生化) 3.0-10.0 香辛料、乾燥野菜、乾燥血液、粉末
卵、酵素製剤、アラビアガム
滅菌 20-50 畜肉加工品、病人食、宇宙食、実験
動物用飼料、包装容器、医療用具
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2.照射食品の健全性
放射線を照射した食品が放射能を帯びる心配がないとなると、懸念されるのは照射食品の安全性である。照射食品が人間の健康に及ぼす影響については、:[安全性]:よりも広い概念の:[健全性]:が検討されている。健全性とは、毒性学的安全性、微生物学的安全性、栄養学的適格性の3項目を総合した概念である。すなわち、照射食品を安心して食べるには、:[発ガン性]:、:[催奇形性]:、:[遺伝毒性]:などの毒性を有することなく、:[栄養素]:の破壊や:[消化性]:の低下などの問題もなく、付着している:[微生物]:の:[突然変異]:や:[フローラ変化による有害微生物発生]:などの問題もないことが確認されなければならない。長い年月をかけて得られた膨大な試験結果に基づいて、照射食品の健全性が検討された(表2)。1980年にジュネーブで開催されたFAO/IAEA/WHO合同の照射食品の健全性に関する専門家委員会(JECFI)は、「平均線量が10kGy以下の放射線を照射したいかなる食品も毒性を示すことはなく、したがって、10kGy以下照射した食品の毒性試験はこれ以上行う必要がない。さらに、10kGy以下の平均線量を照射した食品は、特別の栄養学的な問題や微生物学的な問題もない。」という結論を出した。この勧告を受けて、1983年にFAO/WHO国際食品規格委員会は、食品に10kGy以下の線量の照射食品に関する規格として、「照射食品に関する国際一般規格」と「食品照射実施に関する国際規範」を策定した。さらに1997年9月にはWHOの専門家委員会が10kGy以上照射した食品の健全性についても問題がないという見解を出した。いかなる線量を照射した食品に対しても安全性に関する問題はないというのが、WHOなどの国際機関の見解である。現在、:[FAO]:/:[WHO]::[国際食品規格委員会]:では、10kGy以上の線量を照射した食品の国際規格の策定のための作業を進めている。
表2 照射食品の健全性評価と規制に関する国際的な動き(原論文1より引用)
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1961年 照射食品の健全性と食品照射の規制に関する国際会議(ブリュッセル)
照射食品の健全性評価の必要性の提起
1964年 FAO/IAEA/WHO照射食品の規制の技術的基準に関する合同専門委員会(ローマ)
照射食品の健全性評価の検討、食品添加物扱い
1969年 FAO/IAEA/WHO照射食品の健全性に関する合同専門家委員会(JECFI)
(ジュネーブ)同一の食品なら品種間差、地域差はない
1970年 国際食品照射プロジェクト(IFIP)開始(カールスルーエ)
健全性試験研究の方法の検討、委託、情報提供
1976年 FAO/IAEA/WHO照射食品の健全性に関する合同専門家委員会(JECFI)
(ジュネーブ)食品照射は物理的加工技術、類似食品の健全性は同じ、
放射線化学知見の活用
1980年 FAO/IAEA/WHO照射食品の健全性に関する合同専門家委員会(JECFI)
(ジュネーブ)10kGy以下の照射食品の健全性に問題はない
1981年 国際食品照射プロジェクト終了
1983年 FAO/WHO食品規格委員会が「照射食品に関する国際一般規格」および「食品
照射実施に関する国際規範」を策定
1984年 国際食品照射諮問グループ(ICGFI)設立
食品照射の実用化と照射食品の貿易の推進
1988年 照射食品の受容、貿易、管理に関する国際会議(ジュネーブ)
1989年 国際食品規格委員会食品表示部会が照射食品の表示について結論(オタワ)
照射食品は言葉で表示する
1994年 WHOが照射食品の健全性について再評価
Safety and Nutritional Adequacy of Irradiated Food
(日本語版;照射食品の安全性と栄養適性(コープ出版)
1997年 WHOの高線量照射食品に対する見解
10kGy 以上照射した食品の健全性に問題はない
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3.食品照射の実施状況
世界で主に実用化されているのは殺菌を目的とした放射線照射である(表3)。:[香辛料]:、:[乾燥野菜]:、:[ハーブ]:の放射線殺菌は最も重要な食品照射の利用法であり、アメリカ、フランス、オランダ、カナダ、中国、韓国など20ヶ国以上で実用化されている。:[サルモネラ]:の殺菌を目的とした:[食鳥肉]:の照射はアメリカ、フランス、オランダなどで実施されている。またアメリカでは:[病原性大腸菌]::[O157]:の殺菌を主な目的とした食肉の照射が許可されており、ハンバーガーパティの放射線殺菌への関心が高まっている。さらに、オランダやベルギーでは、食中毒菌の殺菌を目的として:[冷凍エビ]:が放射線照射されている。宇宙食の放射線滅菌はアメリカ、キャンプ食や登山食の放射線滅菌は南アフリカで行われている。また、病人食の放射線照射はいくつかの先進国で実施されている。放射線殺虫は、ウクライナでの小麦の電子線照射と一部アメリカでの照射果実の試験販売以外に実施例はないが、臭化メチルの代替技術として注目されている。発芽抑制を目的とした:[馬鈴薯]:の照射はわが国で許可されている唯一の食品照射であり、1974年以降、北海道の士幌町農業協同組合で毎年約15,000トンの馬鈴薯が照射されている。発芽抑制を目的とした照射は、わが国以外にも韓国、中国、チリ、キューバなどで実施されている。
表3 食品照射の実用化一覧(原論文1より引用)
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国 名 実施場所(開始年) 食 品 名
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アルゼンチン Buenos Ailes(1986) 香辛料、ホウレンソウ、ココア粉末
バングラデシュ Chittangong(1993) 馬鈴薯、タマネギ、乾燥魚
ベルギー Fleurus(1981) 香辛料、乾燥野菜、冷凍水産物
ブラジル Sao Paulo(1985) 香辛料、乾燥野菜
カナダ Laval(1989) 香辛料
チリ Santiago(1983) 香辛料、乾燥野菜、馬鈴薯、タマネギ
食鳥肉
中国 Shanghai(1986) 馬鈴薯、タマネギ、ニンニク、リンゴ
スピリッツ、香辛料
Chengdu(1978) 香辛料、ニンニク、ソーセージ
Zhengzhou(1986) 香辛料、ニンニク、ソース
Nanjing(1987) トマト
クロアチア Zagreb(1985) 香辛料
キューバ Havana(1987) 馬鈴薯、タマネギ、マメ
チェコ Rrague(1993) 香辛料
デンマーク Riso(1986) 香辛料
フィンランド Ilomantsi(1986) 香辛料
フランス Lyon(1982) 香辛料
Paris(1986) 香辛料、香草類
Vannes(1987) 冷凍脱骨食鳥肉
Nice(1986) 香辛料
Marseille(1989) 香辛料、香草類、冷凍エビ、冷凍カエル脚
Sable Sur Sarthe(1992) チーズ
ハンガリー Budapest(1982) 香辛料、タマネギ、酵素
インドネシア Pasar Jumat(1988) 香辛料
イラン Tehran(1991) 香辛料
イスラエル Yavne(1986) 香辛料
日 本 士幌(1974) 馬鈴薯
韓 国 Seoul(1986) 香辛料、乾燥野菜
メキシコ Mexico city(1988) 香辛料、乾燥野菜
オランダ Ede(1981) 香辛料、乾燥野菜、冷凍水産物、食鳥肉、米、粉末卵
ノルウェー Kjeller(1982) 香辛料
南アフリカ Tzaneen(1981) 馬鈴薯、タマネギ、
Pretoria(1968) 馬鈴薯、タマネギ、香辛料、肉
魚、鶏肉、果実
Kempton Park(1981) 果実、香辛料、馬鈴薯
Mulnerton(1986) 果実、香辛料
タイ Patumtfani(1989) 発酵ソーセージ、酵素、香辛料
ウクライナ Odessa(1983) 小麦
イギリス Swindon(1991) 香辛料
アメリカ Rockaway(1984) 香辛料
Whippany(1984) 香辛料
Irvine(1984) 香辛料
Mulberry(1992) 果実、野菜、食鳥肉
ユーゴスラビア Belgrade(1985) 香辛料
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コメント :
食品照射の進展に係わる最も大きな問題はパブリックアクセプタンスである。
原論文1 Data source 1:
放射線滅菌の現状と展望 5.食品
林 徹
農林水産省食品総合研究所、茨城県つくば市観音台2-1-2
RADIOISOTOPES, Vo.47, No.4 p.60 (1998)
原論文2 Data source 2:
照射食品の安全性と栄養適性
世界保健機関
World Health Organization
照射食品の安全性と栄養適性、コープ出版(1996)
キーワード:放射線、照射、食品、殺菌、殺虫、発芽抑制、ガンマ線、電子線、照射食品
radiation, irradiation, food, disinfection, disinfestation, sprout inhibition, gamma-ray, electron beam, irradiated food
分類コード:020498