作成: 1997/03/31 遠藤 啓吾
データ番号 :030009
体外核医学検査
目的 :血中の微量物質濃度の測定を体外試験管中で行う検査法の紹介
放射線の種別 :ガンマ線
放射線源 :放射性同位元素
応用分野 :医学、農学、分析学
概要 :
125I-標識抗原が抗体と特異的に結合することを利用して、血中に極微量にしか存在しないホルモンや腫瘍マーカー、ウィルス等の濃度測定を行う。本検査法をラジオイムノアッセイと呼び、放射性同位元素から出てくる放射線を検出することおよび抗原・抗体反応の高い特異性を利用することから高い検出能、優れた定量性を示すことを特徴とする。体外核医学検査は、内分泌疾患診断には欠かせないものとなっている。
詳細説明 :
ラジオイムノアッセイ(RadioImmunoAssay-RIA)は、1959年米国のバーソンとヤローにより発見された技術で、放射性同位元素(RadioIsotope-RI)である125Iで標識した抗原が抗体と特異的に結合することを利用した測定法である。抗原・抗体反応に基づくため、非常に感度が高く、特異的で、RIAは微量物質の濃度の測定に欠かせないものとなった。例えば、糖尿病疾患での血中インスリン濃度の測定やバセドウ病患者での甲状腺ホルモン濃度の測定は、現在RIAにより行われており、内分泌疾患診断の進歩に貢献している。
癌患者では腫瘍マーカーと呼ばれる癌細胞から分泌される癌関連抗原の血中濃度が上昇していることが知られている。腫瘍マーカーとしては,αフェトプロテイン(α-fetoprotein-AFP)(肝臓癌など用)、癌胎児性抗原(CarcinoEmbryonic Antigen- CEA)(大腸癌、肺癌など用)、CA19-9(膵臓癌)、CA125(卵巣癌)、CA15-3(乳癌)などが有名で、RIAによる血中腫瘍マーカー濃度の測定が行われている。ここで、体外(インビトロ)核医学検査の種類を表1にまとめて示す。
表1 インビトロ核医学検査方法の種類
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・ラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay-RIA)
・レセプターアッセイ(Radioreceptor assay-RRA)
・イムノラジオメトリックアッセイ(Immunoradiometric assay-IRMA)
・Radioallergosorbent test(RAST)
・飽和分析法(Reserve saturation analysis-DSA)
・競合法蛋白結合能測定法(Competitive binding radioassay-CPBA)
・遺伝子プローブ法
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モノクローナル抗体産生の技術の確立により、希望する抗原と反応する抗体を自由に作成できるようになった。しかもモノクローナル抗体は大量に経済的に産生できるなど、理想的なものである。モノクローナル抗体が利用されるようになると、体外核医学検査もこれまでの125I-標識抗原を用いるラジオイムノアッセイ(競合法RIAとも呼ばれる)から、125I-標識抗体を用いるイムノラジオメトリックアッセイ(ImmunoRadioMetric Assay-IRMA)(サンドイッチ法RIAとも呼ばれる)に徐々に変化した。RIAとIRMAの違いを簡単に図1に示した。
図1 ラジオイムノアッセイ(RIA)とイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)の違い(原論文1より引用)
IRMAの原理は、目的とする抗原を125I-標識抗体ともう1つの抗体ではさみつけるようにして測定する。これまでの125I-標識抗原を用いる競合法に基づくRIAに比べて、測定感度、特異性がさらに増し、しかも術者にとって操作は簡便で、多数の検体を処理できるため、今ではIRMAが主流となった。その他RIAとよく似た測定法で、レセプターアッセイ(RRA)やアレルゲンを用いたRASTと呼ばれる測定法もよく利用されている。
ホルモンや神経伝達物質は、それぞれの受容体(レセプター)に結合してはじめてその作用を発揮する。その受容体結合は特異的で、しかもその結合親和定数は高い。従って125I-標識したホルモンや、125I-標識神経伝達物質が受容体に特異的に結合することを利用した、RRAが行われるようになった。RIAが抗原・抗体反応を利用した免疫反応なのに対し、RRAは、受容体への結合を利用した生物反応と考えることができる。
このRRAは、PET、SPECTでの受容体イメージングの基礎研究に欠かせない。まず体外(インビトロ)でRI標識ホルモンあるいはRI標識神経伝達物質の受容体への結合を試験管内で行い、次いで同じRI標識物質を用いて体内(インビボ)での動物実験、臨床応用へ移行する。この受容体イメージングは核医学の独壇場で、他の画像診断にはない核医学の高い測定感度、特異性を最もよく反映したものである。
一方、RIAがRIを用いない免疫測定法、いわゆるnon-RIAと呼ばれる体外検査法に変わる傾向も認められる。これは表2に示すように、体外核医学検査用の放射性医薬品の販売金額の増加にかかわらず核医学検査を行っている施設数が年々減少していることから十分考えられる。
表2 放射性医薬品販売金額及び核医学施設数の推移(原論文1より引用)
a) 放射性医薬品販売金額の推移(単位 百万円)
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年度 H2 H3 H4 H5 H6
区分
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体内診断用 24,732 27,264 30,945 34,665 38,181
体外診断用 29,508 29,165 26,588 25,785 23,496
合計 54,240 56,429 57,533 60,450 61,677
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b) 核医学施設数の推移
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年度 H2 H3 H4 H5 H6
区分
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体内診断用 1,144 1,150 1,167 1,176 1,181
体外診断用 644 581 501 443 402
合計 1,271 1,253 1,256 1,258 1,257
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これはきびしい放射線管理やRI廃棄が頭を悩ませる問題でり、法規制に関係することによるものである。
コメント :
RIAとnon-RIAを比べると、non-RIAはRIを用いないだけで、RIAと測定原理、測定感度、特異性、得られる測定値、健康保険点数も同じである。厳しい放射線管理、低レベル放射性廃棄物の処分の問題から、RIAの減少傾向は続くものと思われる。
原論文1 Data source 1:
インビトロ核医学検査とRI内用療法
遠藤 啓吾、徳永 真理
群馬大学医学部
臨床放射線 41: p337-342(1996)
キーワード:ラジオイムノアッセイ、ホルモン、腫瘍マーカー、アレルギー、受容体イメージング、レセプターアッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、モノクローナル抗体
radioimmunoassay, hormone, tumor marker, allergy, receptor imaging, radioreceptor assay, immunoradiometric assay, monoclonal antibody.
分類コード:030303, 030504, 030403,040301