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作成: 1997/03/31 遠藤 啓吾

データ番号   :030010
RI内用療法
目的      :がん等の病気の治療法の説明
放射線の種別  :ベータ線,ガンマ線
放射線源    :131I, 89Sr, 32P
応用分野    :医学,治療

概要      :
 RIを用いた病気の治療はRI内用療法、あるいは核医学治療と呼ばれ、古くから行われている。特に放射性ヨウ素(131I)を用いた甲状腺疾患の治療は50年以上前から行われており、その歴史は核医学診断(インビボ核医学診断)よりもむしろ古いくらいである。131Iは海藻などの食物に含まれるヨウ素とまったく同じ体内挙動を示し、投与した131Iは甲状腺細胞に特異的に集積する。131Iの放出するβ線による細胞障害作用を利用してバセドウ病の治療、甲状腺癌の肺や骨転移に対する治療に131Iは今なお欠かせないものである。この他、32P, 89SrによるRI内用療法が行われているが、さらにレニウム(186Re)やイットリウム(90Y)、サマリウム(153Sm)などを用いた治療も検討されている。

詳細説明    :
 RI内用療法は、投与したRIが病変部に特異的に集積するが、正常部にはほとんど取り込まれないことを利用したものである。従って細胞障害性の強いRIを用いれば、病変部は放射線障害に陥るのに対し、正常細胞には障害を与えないため副作用なく全身の病気の治療を行うことができる。例えば131Iは甲状腺細胞に特異的に集積するため、131Iから出る放射線は甲状腺にしか影響を及ぼさない。このため甲状腺細胞だけが壊されることになる。しかも131Iがγ線とβ線を放出するがγ線は非常に少ないこと、半減期が8日であることなど、治療への条件を備えており、131Iの歴史は核医学の歴史といっても過言ではない。数年前、当時の米国ブッシュ大統領のバセドウ病が131Iにより治療されたのは有名である。図1にバセドウ病のRI治療前後の写真を示す。


図1 バセドウ病のRI治療効果。   放射性ヨウ素による治療前の甲状腺画像(左)では甲状腺は非常に大きくバセドウ病であることを示す。放射性ヨウ素による治療後10カ月の甲状腺の画像(右)では甲状腺は正常の大きさになっており治癒していることがわかる。(原論文1より引用)

甲状腺癌の肺・骨転移に対する治療は、バセドウ病の場合よりも大量の3.7〜4.5GBq程度の131Iを経口投与するため、RI治療病室への入院が必要となる。この131Iを用いた甲状腺疾患治療の成功に刺激され、表1に示すような数多くのRI内用療法が行われるようになりつつある。

表1 RI内用療法で使われる放射性医薬品(原論文2の表3,4を改変)
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    核種               半減期      疾患
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131I                    8日   バセドウ病,甲状腺癌
131I-MIBG(メタヨ-ドベンジルグアニジン) 8日  褐色細胞腫、神経芽細胞腫
32P                          14日  慢性赤血球増多症,胸水,骨転移
131Iー標識モノクローナル抗体      8日  悪性リンパ腫,乳癌,卵巣癌など
89Sr                        50日  骨転移による骨痛除去
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 最近注目されているのは、RIを用いた骨痛の治療である。前立腺癌、乳癌や肺癌は代表的な骨転移を来しやすい悪性腫瘍だが、骨転移による痛みは、癌末期では耐え難く、悲惨である。骨痛の治療は多くの病院では麻薬などによる対症療法されていることが多い。また放射線外部照射も行われ、治療効果はあるものの局所療法で、全身に多発した骨転移では適応しにくい。放射性ストロンチウム(89Sr)は半減期50日のβ線放出核種で、骨転移に集積する。そこで89Srは欧米で大規模な臨床治験が実施され、骨痛に対する有用性が証明された。我が国でも骨転移による骨痛に対して89Srの臨床治験がすでに終了しており、まもなく一般病院でも臨床応用されると期待される。例えば、4カ所の骨にがんが転移した場合、これらを同時に骨痛を治療することができる(図2)。


図2 RI内用療法の例。4ヶ所の癌の転移部位にRIを集積させることによりその治療を一度に行うことができる。

 

コメント    :
 手術、放射線外部照射とも局所療法なのに対し、癌のRI内用療法は全身に転移したがん細胞に集積したRIからの放射線でがん細胞に障害を与えようとするもので、外科治療や放射線治療などの局所治療とは異なる。むしろ抗がん剤による化学療法に近いといえよう。一方、抗がん剤はがん細胞のみならず正常細胞にも何らかの障害を与え、抗がん剤を投与された患者は副作用に苦しむことが多いのに対し、RI内用療法は副作用が少ない全身療法である。

原論文1 Data source 1:
日本核医学会、社団法人日本アイソトープ協会
核医学専門医があなたの疑問に答える。“核医学検査Q&A",p28-29(1996)

原論文2 Data source 2:
インビトロ核医学検査とRI内用療法
遠藤 啓吾、徳永 真理
群馬大学医学部
臨床放射線 41:337-342(1996)

参考資料1 Reference 1:
特集放射線治療、RIミサイル療法
遠藤 啓吾
群馬大学医学部
放射線と産業 71,34-38(1996)

キーワード:核医学,放射性ヨウ素,ストロンチウム-89,バセドウ病,甲状腺癌,骨痛,骨転移,
nuclear medicine therapy, radioactive iodine, strontium-89, Graves'disease, thyroid cancer, bone pain, bone metastasis
分類コード:030301,040202

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