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作成: 1996/12/01 鷲野 弘明

データ番号   :030020
脳血流シンチグラフィ用注射剤
目的      :脳血流シンチグラフィ用注射剤の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :123I,99mTc,133Xe
応用分野    :医学、診断

概要      :
脳血流シンチグラフィ用注射剤は、局所脳血流評価を目的とした診断用医薬品で、我国では塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液など4種類が製造販売されている。本注射液は、静脈内注射後局所脳血流に比例して脳内に分布し、鮮明な脳血流シンチグラムを与える。脳血流シンチグラフィは、X線CTでは検出困難な急性期脳梗塞や様々な病態における局所脳血流障害を画像化し、脳虚血・脳梗塞の診断等に極めて有用である。
 

詳細説明    :
 脳血流シンチグラフィ用注射剤は、局所脳血流の評価を目的とした診断用医薬品である。我国では、塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液(123I-IMP注射液)、[N,N'-エチレンジ-L-システイネート(3-)]オキソテクネチウム(99mTc)ジエチルエステル注射液(99mTc-ECD注射液)、エキサメタジムテクネチウム(99mTc)注射液(99mTc-HMPAO注射液)、キセノン(133Xe)吸入用ガスの4種類が製造販売されている。
 いずれの注射液も、静脈内注射後あるいは吸入後局所脳血流に比例して速やかに脳内に分布し、鮮明な脳血流シンチグラムが得られる。脳血流シンチグラフィは、X線CTでは検出困難な急性期脳梗塞や様々な病態における局所脳血流障害の程度と広がりを示し、脳虚血・脳梗塞の診断及び治療効果判定に極めて有用である。123I-IMP注射液中のヨウ素-123(123I)は、159 keVのγ線を放出するためシンチグラムを描くのに適しており、半減期(13.2時間)が短くβ線を放出しないため被検者の被曝も少ないという利点を有している。このレコードでは、123I-IMP注射液について説明する。99mTc-ECD注射液や99mTc-HMPAO注射液については、別レコードを参照されたい。
 
1. 塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液の組成
 本注射液は、水性の注射剤で、123Iを塩酸N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミンの形で含む。注射液の組成や特徴は、表1に示した。

表1 塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液の組成・性状(原論文2より引用)
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組成   塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)
     123Iとして(検定日時において)              111M Bq/ml
     塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン     0.45 mg/ml
     添加物 アスコルビン酸-リン酸緩衝液       0.034ml/ml
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性状   無色澄明の液
pH   4.0~7.0
浸透圧比 約 1(0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. 123I-IMP注射液の効能又は効果
 局所脳血流シンチグラフィ。
 
3. 123I-IMP注射液の用法及び用量
 通常、成人には本注射液37~222 MBqを静脈内に注射し、投与後15~30分後より被検部にシンチレーションカメラを向け撮像もしくはデータを収録し、脳血流シンチグラムをとる。画像は、プラナー像よりSPECT装置を用いて2次元断層像として得た方が好ましく、末梢動脈血中の放射能と装置で実測した脳内放射能を相互較正することにより、局所脳血流値を算出できる。投与量は、年齢、体重により適宜増減する。
 
4. 123I-IMP注射液の薬効薬理
 本注射液の血液脳関門透過~脳集積の機序は、脳内での血管内/脳実質組織間のpH勾配、脂質/水分配係数並びに脳及び脳内毛細血管内膜に局在する相対的非特異的な高容量アミン結合部位への親和性などの作用が複合している。
 
5. 123I-IMP注射液の体内薬物動態
 本注射液は、静脈内に投与された後速やかに血液中から消失し、まず肺に集積し、次いで脳、肝臓に集積する。脳へは最初速やかに集積して1.5時間で8.5 %投与量となり、以後緩やかに減少する(有効半減期7.8時間)。尿中への累積排泄率は、0~6時間で1.6 %、24時間で27.9 %であった。
 
6. 123I-IMP注射液の臨床適用
 臨床試験において、有効と報告された適応症は次のとおりである。脳梗塞(急性期、慢性期)、脳動脈閉鎖・狭窄、TIA(一過性脳虚血発作)、RIND(可逆性虚血性神経学的脱落症状)、脳内出血、くも膜下出血、モヤモヤ病、脳動静脈奇形など。
 臨床試験464例中423例(91.2%)において診断に有効な情報が得られた。代表的なシンチグラムの例を図1に示す。


図1 脳虚血患者の123I-IMP SPECT像  a) EC-ICバイパス手術前(上段、中段):123I-IMP SPECTの早期像では大脳右半球に大きな低血流領域を認められたが(上段:early)、後期像では完全な放射能再分布を認めた(中段:delayed)。これは、低血流量領域の脳組織がまだ生きていることを示唆する。 b)EC-ICバイパス手術後(下段):脳動脈バイパス手術後8日目で施行された123I-IMPの再検査では、右半球の脳血流が手術前と比較して30 %増加した。この患者は、その後臨床的症状が消失した。(原論文1より引用)


7. 123I-IMP注射液の副作用
 臨床試験及び使用成績調査Ⅰ(全11,558例)において副作用が認められた例はなかった。現在までに副作用自発報告において、痙攣、血圧低下、発疹、紅斑状皮疹、小丘疹、注射部発赤、かゆみ、胸痛が各1件、嘔気が2件報告されている。

原論文1 Data source 1:
パーヒューザミン注、放射性医薬品基準 塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液
日本メジフィジックス株式会社
パンフレット

原論文2 Data source 2:
放射性医薬品基準 塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年7月), p.124-125

参考資料1 Reference 1:
Hill,T.C. et al.
J. Nucl. Med., 23,p.191-195, 1982

参考資料2 Reference 2:
Kuhl,D.E. et al.
J. Nucl. Med., 23,p.196-203, 1982

参考資料3 Reference 3:
松田 博史 他
核医学, 21,p.1587-1596,1984,22:p.9-18,1985

参考資料4 Reference 4:
田崎 義昭
脳卒中, 6,p.269-275, 1984

参考資料5 Reference 5:
塩崎 宏 他
核医学, 22,p.229-232, & p.449-458, 1985

参考資料6 Reference 6:
比嘉 敏明 他
核医学, 22,p.415-421, 1985

参考資料7 Reference 7:
Winchell,H.S. et al
J. Nucl. Med., 21,p.940-946, 1980

参考資料8 Reference 8:
関 宏恭 他
金沢大学十全医学会雑誌, 95,p.279-294, 1986

キーワード:放射性医薬品, 塩酸 N-イソプロピル-p-ヨードアンフェタミン(123I)注射液, 脳血流シンチグラフィ, 脳梗塞, 脳虚血, radiopharmaceutical, 123I-IMP, brain perfusion scintigraphy, brain infarction, brain ischemia
分類コード:030301,030401,030502,040204

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