骨転移の核医学的診断と治療

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作成： 1999/03/22 遠藤　啓吾データ番号　　　：030023 骨転移の核医学的診断と治療目的　　　　　　：骨転移の骨シンチグラフィによる診断と疼痛緩和法についての紹介放射線の種別　　：ベータ線,ガンマ線放射線源　　　　：⁹⁹^mTc,⁸⁹Sr 応用分野　　　　：医学、診断、治療概要　　　　　　：　乳癌や前立腺癌は骨転移を起こしやすく、かつ患者の生存期間も比較的長期にわたるために骨性疼痛に悩まされる期間も長い。骨転移の診断は、⁹⁹^mTcで標識したリン酸塩を用いた骨シンチグラフィで行われる。⁸⁹Srは、カルシウムイオンと類似の挙動を示し、骨へ移行し、骨転移巣の骨代謝の亢進している部分に高率に集積し、長期にわたって保持され、骨痛の緩和に効果がある。詳細説明　　　　：　我が国の死亡率の第一位は癌であり、4人に1人が癌で死亡している。癌の多くはその末期に骨転移を起こす、とくに乳癌や前立腺癌は骨転移を起こしやすく、かつ患者の生存期間も比較的長期にわたるために骨性疼痛に悩まされる期間も長い。骨転移の診断は、⁹⁹^mTcで標識したリン酸塩を用いた骨シンチグラフィで行われる。先ず我が国の核医学検査に関して、最近1年間あたりの各種検査件数を表1に示す。表1　我が国の核医学検査の1年間あたりの検査件数（原論文1より引用） ---------------------------- 　骨　　 50万件　心臓　 50万件　脳　　 25万件　腫瘍　 24万件　肺　　 6万件　その他 31万件 ---------------------------- 　合計　 186万件 ---------------------------- 　検査総数は、186万件でその内骨検査は心臓と並んで最高の件数となっている。また、この骨検査の90%以上は、悪性腫瘍の骨転移の有無を知るために行われる。　 1.骨転移の診断　乳癌及び前立腺癌による多発性骨転移の骨シンチグラムを図1に示す。図1　多発性骨転移の骨シンチグラム　a)乳癌による多発性骨転移　b)前立腺癌による多発性骨転移（原論文2より引用）　図1a)の正面像において、右乳癌部(①→)に⁹⁹^mTcの強い集積が認められ、他の部位における集積(②→)は多発性の骨転移である。図1b)においては、前立腺癌部(①→)以外に全身骨への強い転移(②→)があることがわかる。このように骨シンチグラフィで異常が見出されれば、単純骨X線検査、あるいはMRI検査を行い、異常がなければ「骨転移なし」と診断し、他の検査は当然行わない。　ここで骨シンチグラフィで陽性像を呈する病変が、すべて骨転移とは限らず、骨折、骨腫瘍や骨髄炎などの炎症の場合もある。したがって、骨シンチグラフィは、骨転移の診断の感度は高いが、骨転移のみを示すと言うような特異性は低い。　骨転移の全てが、骨シンチグラフィで陽性像を呈するわけでもない。たとえば、甲状腺癌、胃細胞癌などの骨融解性の骨転移を来す腫瘍では、骨シンチグラフィで陰性像を来す場合が多い。後者の場合、骨転移の診断が困難であり患者が痛みを訴えて初めて、同部への転移が見つかることが多い。　 2.骨転移疼痛の治療　疼痛に対する治療は、これまでホルモン療法、化学療法等が行われてきたが十分な効果は得られていない。また、鎮痛剤、麻薬の使用、神経ブロック療法などの対処療法が多く行われている。さらに、放射線外照射も行なわれているが局所療法であり、全身多発性の骨転移では適応し難い。　全身の骨転移による骨痛の治療を目的に、これまで放射性同位元素(RI)による内用療法が行われている。表2にRI内用療法で用いられる核種と治療効果などについて示す。表2　骨転移による骨痛緩和に対するRI内用療法（原論文2より引用） ------------------------------------------------------------------------------------- 　　核種　　　　　標識物半減期 β線 γ線治療効果副作用 ------------------------------------------------------------------------------------- ⁸⁹Sr（ストロンチウム） - 50日　　 1.46 - 50～90% ± ³²P （リン）　　　　　 - 14日 1.71 - 50～90% ++ ¹¹⁷Sn（スズ）　　　　　 DTPA 13日 0.16 158 ? ? ¹⁵³Sm（サマリウム）　　 EDTMP 46時間 0.84 103 80% ± ¹⁸⁶Re（レニウム）　　　 HEDP 90時間　 1.07 137 80% ± ------------------------------------------------------------------------------------- 　⁸⁹Srは、最近用いられるようになったRIである、³²Pは古くから用いられ骨転移部に集積し、骨痛の緩和に効果があるが、副作用が強いためあまり使われなくなった。また、その他のRIについては、研究がスタートしたばかりである。　⁸⁹Srは、塩酸塩として静注された場合、カルシウムイオンと類似の挙動を示し、骨へ移行する。骨転移巣の骨代謝の亢進している部分に高率に集積し、長期にわたって保持される。一方、血中ではほとんどが血漿中にあるが、投与後速やかに消失し、24時間後には投与量の5%以下になる。骨以外の組織に分布した⁸⁹Srの約90%は腎臓から、残りは腸管等から抽出され、尿排出と同時に排出されるため投与後4日までに大部分が消失する。従って、骨以外の組織・臓器への被曝は少なく、正常骨髄への被曝量は骨病変部の1/10程度と考えられる。なお、疼痛に対する除痛効果の機序や効果持続期間等については、まだ明らかではないが、臨床的に疼痛緩和が認められかつ安全に治療できているのが現状である。コメント　　　　：　核医学法による癌の骨転移の診断の特徴として次の4点がある。①早期に骨転移か検出できる、②全身への転移がわかる、③全身骨のX線写真の撮影よりも患者の放射線被曝が少ない、④骨転移のみならず骨折や良性骨腫瘍でもRI集積が見られる。なお、④は骨転移診断に対する誤診の原因ともなる。　⁸⁹Srを用いた疼痛治療では、副作用がほとんどなく、かつβ線のみを放出するので、患者の入院は必ずしも必要ではなく外来治療が可能であると言う利点がある。原論文１ Data source 1：核医学検査の実際遠藤　啓吾、井上　登美夫群馬大学医学部日本医師会雑誌特別号(生涯教育シリーズ47　生体・機能検査のABC) 120(8),pp.S2-S16,1998 原論文２ Data source 2： ¹⁸F-FDGと⁸⁹Srによる骨転移の核医学診断と治療遠藤　啓吾群馬大学医学部骨転移　病態・診断・治療　13(1),pp.1-7,1997 キーワード：骨転移、bone metastasis,骨シンチグラフィ,bone scintigraphy,テクネチウム99mリン酸化合物,⁹⁹^mTc-polyphosphate,乳癌,mammary cancer,前立腺癌,prostatic cancer,疼痛除去,pain elimination,ストロンチウム-89,⁸⁹Sr 分類コード：030301,030401,030501
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