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作成: 1997/12/26 山本 和高
データ番号 :030033
肝胆道シンチグラフィが役にたつ病種
目的 :肝胆道シンチグラフィが有用となる疾患の種類を紹介する。
放射線の種別 :ガンマ線
放射線源 :Tc-99m
応用分野 :医学画像診断、臨床検査、
概要 :
肝胆道シンチグラフィ製剤は、肝実質細胞に取り込まれ、速やかに胆道系に排泄される。黄疸の強い症例においても肝、胆嚢、肝内胆管〜総胆管の全体像を描出することができる。超音波検査、CT、磁気共鳴画像(MR)等による描出法よりも形態学的な分解能は低いが、機能的情報も同時に得られる。コントラストが高いので、肝移植後の評価、胆汁漏出の検出、胆道閉鎖症の診断などに有用で、また、肝細胞癌の陽性描画にも用いられる。
詳細説明 :
肝胆道シンチグラフィ用製剤は、99mTc iminodiacetic acid (IDA)系の化合物と99mTc pyridoxylidene amino acid化合物があり、血中より肝実質細胞に取り込まれ、速やかに胆道系に排泄される。黄疸の強い症例においても、血清ビリルビンに対する低い拮抗性のために、肝、胆嚢、肝内胆管〜総胆管の全体像を描出することができる。
超音波検査、CT、磁気共鳴画像(MR)等による描出法よりも形態学的な分解能は低いが、肝細胞機能、胆道系の形態と通過時間、胆嚢の機能・形態を知ることができる。得られた画像のコントラストが高いので、肝移植後の評価、胆汁漏出の検出、胆道閉鎖症の診断などに有用である。また、肝細胞癌に長時間集積し、その陽性描画にも用いられる。
1. 方法
日本では99mTc pyridoxylidene amino acid化合物系の一種、99mTc-PMT(Pyridoxal-5-methly-triptophan)のみが使われている。通常、空腹時に99mTc-PMT 185MBqを静注し、60分後まで上腹部前面像を連続的に撮像する。斜位像を追加したり、必要に応じて経時的に24時間後まで撮像することもある。図1に99mTc-PMT静注後1a)5分、1b)15分、1c)30分および1d)45分の腹部前面像を示す。
図1 正常の肝胆道シンチグラム(原論文1より引用)
肝細胞に取り込まれた99mTc-PMT(1a)が、胆道系に排出され総胆管(1b矢印)から腸管(十二指腸)へ移行しており(1c矢印)、最後に胆嚢(1d矢印)に集結していることから、肝胆道は正常に機能していることが判る。
2. 黄疸の診断
総胆管などの閉塞による黄疸の患者では、胆管の拡張が超音波検査で認められるので肝胆道シンチグラフィの必要性は小さい。体質性黄疸はまれな疾患であるが、その鑑別診断には99mTc IDA化合物の方が適している。
乳児黄疸の原因である乳児肝炎と胆道閉鎖症の鑑別診断には、形態学的検査法の有用性が乏しく、肝胆道シンチグラフィの意義が高い。腸管への排泄像が認められれば、胆道閉鎖症は否定できる。乳児肝炎も重篤な症例では肝からの排泄が非常に遅れるので、少なくても24時間後までは観察する必要がある。また。尿中に排泄される放射能が増加するので、腹部に付着した尿によるアーチファクトを腸管への排泄と間違わないように注意する。
3. 急性胆嚢炎
急に激しい腹痛を起こす急性腹症の一因である急性胆嚢炎では、総胆管は描出されるが、胆嚢は描出されない。もし、胆嚢が描出されれば急性胆嚢炎は否定的であり、他の原因を考慮に入れるべきである。肝内胆管が結石や腫瘍などで閉塞すると、閉塞部より末梢の肝区域の描出不良、排泄遅延といった異常所見が認められる(segmental biliary obstruction)。
4. 肝移植後の評価
肝実質細胞が強く障害されると、血中に遅くまで放射能が残存し、肝からの放射能の洗い出しが遅れ、胆道系の描出低下や遅延がみられる。そこで、心プールや肝の放射能の時間的な変化を定量的に評価することにより、移植肝の機能評価、拒絶反応の検出に利用される。また、胆管の腸管への吻合部の手術後の通過性の評価にも用いられる。
5. 胆汁漏出
外傷や手術などが原因となって、胆汁が直接肝外へ漏出すると、腹水の貯留や腹膜炎などを併発し、漏出部を閉鎖するための外科的処置が必要な場合もある。肝胆道シンチグラフィはコントラストが高いので、微量の胆汁漏出も明瞭に描出することができる。また、連続的に撮像すれば漏出部位の診断や、胆汁の漏出程度の推定も可能である。図2に99mTc-PMT静注後2a)5分、2b)30分および2d)60分の腹部前面像を示す。
図2 肝細胞癌の切除術後の胆汁漏出(原論文1より引用)
肝細胞癌の手術後には、若干肝臓が変形している(2a)、60分後(2c)には左上部に胆汁の漏出が明瞭に認められる。
6. 肝細胞癌
肝細胞癌は、肝実質細胞由来の悪性腫瘍で、少しは99mTc PMTを取り込む機能があるが、正常の肝細胞と異なり排泄されないので放射能が残存する。超音波検査等で発見された腫瘤性病変の性状診断に有用であるが、肝腺腫、限局性結節性過形成といった良性腫瘤にも集積が認められるので注意が必要である。肝外の転移病巣の検出には有用性が高く、肝外の病巣に異常集積が認められれば肝細胞癌の転移と診断できる。また、肝細胞癌でTc-99m PMTを取り込まないものは、より悪性度が高いと考えられ予後の悪いことが報告されている。
7. その他
胆嚢の収縮機能の異常や、胆管が十二指腸に接合する部分を取り巻いて胆汁の流出を調節しているOddi括約筋の機能異常があると、腹痛などの症状を起こすことがあるが、肝胆道シンチグラフィはこれらの病態の評価にも有用である。また、胆汁の胃内への逆流の有無や、その程度の診断にも用いられる。
コメント :
肝胆道シンチグラフィは、超音波検査、ヘリカルCT、MR等の 進歩によりその有用性は低下しているが、肝と胆道系の全体的な形態学的、機能的情報を非侵襲的に得ることができ、対象となる症例数は限られているが、胆道閉鎖症や肝外胆汁漏出の診断には不可欠な画像検査法である。日本でも、新しい99mTc IDA系の化合物が使用できるようになることが望まれる。
原論文1 Data source 1:
肝・胆道シンチグラフィー
山本 和高
福井医科大学
すぐに役立つ画像診断の基本 V.腹部、pp.133-138, 1992,医薬ジャーナル(大阪)
キーワード:肝胆道シンチグラフィ,hepatobiliary scintigraphy,Tc-99m ピリドキシル-5-メチルトリプトファン,Tc-99m PMT,黄疸,jaundice,胆道閉鎖症,biliary atresia,急性胆嚢炎,acute cholecystitice,肝移植,liver transplantation,肝細胞がん,hepatocellular carcinoma
分類コード:030301,030502
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