超高速CTの臨床応用

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1998/03/26 山本　和高データ番号　　　：030043 超高速CTの臨床応用目的　　　　　　：超高速CTを用いる心臓、血管、肺などの画像診断法の紹介放射線の種別　　：エックス線放射線源　　　　：電子ビーム(130kV,640mA)-Wによる制動X線応用分野　　　　：医学、診断概要　　　　　　：　電子ビームCTでは、最短1スライス0.05秒の超高速スキャンが可能である。通常のCTと異なり、動きによるアーチファクトの影響を受けないので、拍動している心臓でも鮮明なイメージを得ることができ、冠動脈の石灰化など様々な心疾患の画像診断に有用であり、心拍出量など多くの心機能の評価、息止めに協力が得られない小児などの胸部～上腹部のCT検査で良好なイメージが得られ、肺換気や腎血流といった機能的な情報を得ることが可能である。詳細説明　　　　：　通常のCT装置では、1回のスキャンに必要な時間は最短で1秒程度であり、その間に心臓は約1回拍動するので、心臓自体やその周囲は動きによるモーション・アーチファクトのために良好なイメージが得られず、CT検査の対象にはできなかった。電子ビームCT(electron beam tomography、EBT)では、電子銃から飛び出した電子ビームが磁場により屈曲され、検査台下部に半円状に配置されたターゲットリング(W)を照射し、制動X線を発生させる。図1にEBT装置の概念図を示す。図1　超高速CTの構成図（原論文1より引用）　電子銃、偏向電磁石、タングステンターゲットリング、Ｘ線検出・処理部、患者テーブルおよび水冷機能を持つガントリーで構成されている。通常のCT装置と異なり機械的な動きを伴なわず、電磁石の磁場調節という電気的操作でX線を多方向から発生できるため、最短1スライス0.05秒の超高速スキャンが可能となった。このため心臓の拍動や呼吸性移動、被験者の体動といった動きによるモーション・アーチファクトの影響を受けない高画質のCT像を得ることができる。　図2に臨床例を示す。図2　スキャンスピード0.1秒のCT像。（原論文1より引用）　図2は、スキャンスピード0.1秒の超高速CT像であり、胸水(矢印)の貯留と共に、通常のCTでは描出困難な右冠動脈(矢頭)や僧帽弁(小矢印)の石灰化も明瞭に認められ大動脈弁も描出されている。超高速CTで検出された冠動脈の石灰化量は、冠動脈造影検査における冠動脈病変の程度と強い相関を示すことが知られており、冠動脈疾患のスクリーニングや経過観察に有効な非侵襲的検査法である。　図3に、超高速CT像から再構成された心臓の3次元的イメージを示す。図3　超高速CT画像より再構成した心臓の三次元的画像。（原論文1より引用）　冠動脈狭窄症の治療前(a)には、左冠動脈前下降枝に狭窄部(矢印)が認められるが、経皮経管的冠動脈拡張術(PTCA)による治療後(b)には正常に拡張した冠動脈が描出されている。　冠動脈狭窄や閉塞に対するバイパスグラフトやPTCAなどの治療後の経過観察に利用されている一般的な侵襲的な冠動脈造影検査に代わって、拡張された血管の開存の有無の評価に非侵襲的な超高速CTの利用が期待される。ただし超高速CTでは中枢の太い血管の評価は可能であるが、末梢の血管がどこまで正確に診断できるかが問題となる。　心臓の収縮拡張の状態を評価することも容易で、心拍出量、心容積、心筋の厚さ、心筋壁運動等の多くの心機能パラメータを定量的に計測することができる。ムービー表示による動態観察では右心系も左心系と同様に表示され心エコー検査よりも優れている。動脈内から造影剤を注入して繰り返しスキャンすることにより局所心筋の血流分析も可能であり、超高速CTは心臓に対する画像検査法として極めて有用な方法である。　心臓以外への応用としては、まず心臓の拍動の影響を受ける周囲の臓器や組織に対して有用で、胸部大動脈(特に、上行大動脈)の解離性動脈瘤の診断や、肺門部のリンパ節転移の評価などが報告されている。　通常のCTでは、胸部や上腹部の撮影には、被験者がCT撮影のタイミングに応じて息止めしないと呼吸性移動によるアーチファクトが現れるが、超高速CTでは、乳幼児など息止めに協力の得られない患者でも、呼吸移動によるアーチファクトのない鮮明なイメージを得ることができる。逆に、呼吸をしながら連続的にスキャンを行い、肺野のCT値の変化より局所の肺機能を評価したり、胸壁や大血管に接している腫瘤の、呼吸に伴う位置の変化より侵潤の有無を診断することも行われている。また、造影剤によるCT値の変化を分析することにより、腎皮質の局所血流の評価も可能である。　このように高速で繰り返して画像を得ることにより、形態的な診断ばかりではなく、局所の血流や生理的な機能の評価も診断することが可能となっている。コメント　　　　：　頭部など固定することができモーション・アーチファクトの無い部位のCT像の画質は通常のCTの方が優れている。しかし、心臓や胸部大血管などの疾患にはEBTは極めて優れた検査法であり、これにより侵襲的な血管造影検査は省略される傾向にある。　EBT装置を製作しているのはイマトロン社のみで、通常のCTに比較すると高価で、台数が非常に限られており、あまり普及はしていない。高齢化社会に伴い冠動脈疾患の患者数は増加し、超高速CT検査の必用性は高まるものと思われるが、MRIにおいても心臓及び冠動脈のイメージングが試みられており、両者の今後の進歩には注目すべきものがある。原論文１ Data source 1：超高速Ｘ線ＣＴ　IMATRON Electron Beam Tomography ㈱イマトロン・ジャパン促販パンフレットキーワード：超高速CT(ultrafast CT)、電子ビームCT(electron beam tomography, EBT)、心疾患(heart diseases)、冠動脈疾患(coronary artery disease)、機能診断(functional diagnosis) 分類コード：030102,030401
放射線利用技術データベースのメインページへ