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作成: 1998/02/25 戸板 孝文

データ番号   :030049
上咽頭癌の放射線治療
目的      :上咽頭癌に対する放射線治療の実際
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :直線加速器
応用分野    :医学、治療

概要      :
 上咽頭癌は、我が国では比較的まれな疾患である。鼻閉・鼻出血のほか、耳閉感、頸部リンパ節の腫大が発見の契機となることが多い。上咽頭癌は、早期から進行例まで放射線治療が第一選択の治療法となる。5年生存率(治癒率)は、発生の初期に治療した場合60-90%、後期で20-40%と報告されている。

詳細説明    :
 上咽頭癌は中国南部等の東南アジア地方(特に中国広東省)に多く認められ、我が国では比較的まれな疾患である。疫学的にはニトロソアミンを含む香料入りのタバコ、遺伝子、EBウイルスの感染などが言われてはいるがはっきりしない。上咽頭癌は他の頭頚部癌と同様に男性に多く、男女比はほぼ3:1と言われている。また、他の頭頚部癌に比し、比較的低年齢層の患者が多い。15-20%は30才以下であり、10才台も希ではない。ここで、喉頭、咽頭の場所を明確にするために図1にその模型図を示す。


図1 喉頭咽頭 喉頭・咽頭部位を示す模型図

 喉頭は、下咽頭と重なっているが声帯は喉頭に含まれ、この声帯による発声機能の他、気道の確保と気管内への誤嚥防止の機能を有している。喉頭癌が進行するとこれらの機能障害が起こる。
 癌の発生部位により症状は様々であるが、上咽頭は鼻、耳とのつながりがあるため鼻閉感、鼻出血、耳閉感が、病院を訪れるきっかけなる症状で主訴になることが多い。特に、長く続く難治性の中耳炎は注意を要する。これはちょうど耳と鼻の奥をつなぐ耳管という細い管の入り口にできる上咽頭癌では耳管閉塞により中耳炎を起こし、難治性となる。専門医でないと見つかりにくいことが多い。また、上咽頭は頭蓋底に近いため、比較的容易に頭蓋底を破壊し、頭蓋内に進行することもある。このような場合には、様々な脳神経症状を伴う。頚部リンパ節転移の頻度は高く、頚部の腫脹を主訴として受診し、検査により原発巣(もともと癌が発生した部位)が発見されることも希ではない。
 治療前の検査としては、後鼻鏡検査、ファイバースコープ検査による視診と生検、頭頸部CT・MRIのほか、遠隔転移の有無の確認のための胸部X線検査、骨シンチ、腹部エコーまたはCTが不可欠である。
 上咽頭は鼻腔の奥の頭蓋底に接する位置にあり病巣を手術的に完全切除することが困難であること、また未分化癌あるいは低分化型の扁平上皮癌が多く放射線の感受性が高いことより、早期から進行例まで放射線治療が第一選択の治療法となっている。
 腫瘍の進展範囲を十分に含むようにして放射線治療が始まる。まず、シェルとよばれる顔の型を取る。シミュレーターという装置で放射線をかける範囲を設定しこのシェルに描くのである。以前は顔に直接照射野を描かれていたために対外的にストレスを感じる人が多かったが、シェルの使用により少なくともこのストレスは減少した。図2に放射線治療前後のX線写真を示す。


図2 喉頭咽頭 上咽頭癌の放射線治療前後のX線像 a)照射前 b)照射後

 照射前の写真2a)では、矢印の部位に癌が見出される。この部分に直線加速器(リニアック)からのX線を照射する。この放射線治療は約6-8週間かけて行ない、線量は合計60-70Gy程度にする。1日1回週5回の照射が標準的だが、1日2回週10回(一日多分割照射)で行なわれることもある。放射線治療の範囲(照射野)は2段階にわけて行なう。はじめの4-5週間(第1段階)は原発巣(上咽頭)のみならず頸部全体に対し治療を行なう。頸部リンパ節転移がない場合にも頸部全体の治療(予防照射)が必要である。引き続く3週間(第2段階)は原発巣に絞った狭い範囲に放射線治療を行なう。照射治療後には2b)の写真で示すように癌が消滅していることが判る。
 上記リニアックによる放射線治療以外に原発巣に対する治療を、鼻から管をのどの奥に挿入してその中に線源を導入して上咽頭のみを照射する腔内照射法で行う場合もある。頸部リンパ節転移がある場合にはその部位に絞って電子線の照射を行なう。後述する副作用のため治療の継続が苦痛となる場合があるが、担当医師が継続可能と判断すれば治療休止はできるだけ避けるべきである。治療期間の延長は治癒率の低下につながるとされている。
 放射線治療の副作用は、治療中におこるものとして、口腔・咽頭の粘膜炎、味覚障害、唾液分泌減少、皮膚炎等がある。粘膜炎並びに皮膚炎は治療終了後数週間以内に改善する。味覚障害は6カ月から1年以上残る場合がある。唾液分泌減少は程度の差はあるが半永続的に認められる。
 放射線治療後に頸部リンパ節転移の残存が疑われる場合、摘出手術が行なわれることがある。遠隔転移による再発が少なくないことより、化学療法の併用が試みられることがある。その有用性を示す無作為臨床試験結果がいくつか欧米より報告されているが、現時点において標準的治療としてはまだ確立していない。
 放射線による治療効果は、治療後の5年後における生存率(5年生存率:治癒率)で評価されている。この5年生存率は上咽頭癌の発生初期に治療した場合で60-90%、後期では20-40%と報告されている。

コメント    :
 上咽頭癌は、他の頭頸部癌と比較して放射線感受性が高く、局所進行例でも放射線治療での制御が約半数に期待できる。同様に、径の大きいリンパ節転移も放射線治療での制御が半数以上で可能である。固形癌の一つである上咽頭癌の放射線治療への化学療法併用は、治療成績の向上が最も期待されている方法である。

キーワード:上咽頭癌、nasopharyngeal cancer, 放射線治療、radiotherapy、直線加速器、X線照射、電子線照射、
分類コード:030201,030402

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