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作成: 1998/02/12 鷲野 弘明

データ番号   :030069
肝機能シンチグラフィー用注射剤:ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(Tc-99m)注射液
目的      :ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :99mTc
応用分野    :医学, 診断

概要      :
 ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液は、肝機能診断に使用される放射性医薬品である。 本注射液は、肝実質細胞膜上に発現するアシアロ糖蛋白質受容体(ASGP-R)を介して肝細胞内に取り込まれる特性を有する。ASGP-R量は肝疾患で変動し、ASGP-R機能の変化から肝疾患重症度や肝予備能が診断されている。本注射液は、静脈内投与され、投与後速やかに血液中から消失し肝臓に集積する特徴がある。

詳細説明    :
 
 肝機能シンチグラフィー用注射剤は、肝臓の様々な機能の診断を目的とする診断用医薬品である。我が国では、テクネチウムスズコロイド(99mTc)、フィチン酸テクネチウム(99mTc)、N-ピリドキシル-5-メチルトリプトファンテクネチウム(99mTc)(以下99mTc-PMT)及びここに紹介するガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)(以下99mTc-GSA)が肝機能診断剤として使用されている。前二剤は一般に99mTc-コロイド製剤と呼ばれ、肝クッパー細胞に集積する特性を有する。99mTc-PMTは、肝実質細胞に取り込まれて肝臓から胆のうへ排泄され、肝胆道系の診断に使用される。99mTc-GSAは、肝実質細胞に取り込まれ肝疾患の重症度や肝予備能の診断に利用されている。
 
 99mTc-GSAは、生体内特に血液中で生成するアシアロ糖蛋白質と等価の99mTc標識合成糖蛋白質であり、肝実質細胞膜上に発現するアシアロ糖蛋白質受容体(ASGP-R)を介して肝細胞内に取り込まれる。99mTc-GSAを静脈内投与すると、投与後速やかに肝臓に集積する。テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5 keVでシンチグラフィーに適している。
 
 
1. 99mTc-GSA注射液の組成
 
 本注射液は、水性の注射液で、99mTcをガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウムの形で含む。本注射液の組成を次に示す。
 
組成  ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)
     99mTcとして(検定日時において)             185 MBq/ml
     ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸    3.0 mg/ml
     添加物 無水塩化第一スズ                   19 mg/ml
         日局アスコルビン酸                  88 mg/ml
性状  無色澄明の液
    pH  2.5〜4.0
浸透圧比 約1 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
 
 人血清アルブミンを原料に用いた合成糖蛋白質である99mTc-GSAの推定化学構造式を図1に示す。


図1 99mTc-GSAの推定化学構造式(原論文1より引用)

 
2. 99mTc-GSA注射液の効能又は効果
 
 シンチグラフィーによる肝臓の機能及び形態の診断。
 
 
3. 99mTc-GSA注射液の用法及び用量
 
 通常、成人には本注射液 185 MBqを肘静脈内に注射する。投与前よりシンチレーションカメラ検出器を肝臓に向けてセットし、投与直後から連続的に撮像してシンチグラムを得る。撮像後データ処理装置を用いて肝臓カウントの時間変化より肝機能指標や時間放射能曲線を得る。
 
 
4. 99mTc-GSA注射液の薬効薬理
 
 血清蛋白質は、アルブミン以外ほとんど糖蛋白質である。これら糖蛋白質は糖鎖末端にシアル酸をもつが、何らかのことでシアル酸が脱離すると(→アシアロ糖蛋白質)、ガラクトースが現れる。この状態となった糖蛋白質は、肝臓に速やかに回収され代謝される。回収は、肝実質細胞膜上に発現するアシアロ糖蛋白質受容体(ASGP-R)を介して行われる。ASGP-Rは、哺乳類の肝細胞に特異的に存在し、アシアロ糖蛋白質のガラクトース部分のみを選択的に認識する受容体である。人工的にガラクトースを結合させた99mTc-GSAのような蛋白質も同様に取り込まれる。回収機構の模式図を図2に示す。


図2 肝実質細胞におけるアシアロ糖蛋白質の取り込み(原論文1より引用)

 ASGP-Rは、正常な肝細胞で専ら機能し、肝癌細胞にはほとんど存在せず、肝硬変では減少する。そのため、99mTc-GSA注射液による肝シンチグラムは、生存する正常肝細胞の量を直接画像化したものであり、各小葉ごとの生存肝細胞の量及び分布領域が確認できる。99mTc-GSAの肝臓への集積速度は、投与GSA量が一定のとき肝のASGP-R量によって決まり、取り込み速度は肝実質細胞の機能状態を反映する。
 
 肝臓は、正常状態では実際に発揮している能力の2倍以上の能力を持つとされており、余裕部分に相当する潜在能力を肝予備能と言う。肝予備能は、肝疾患患者では病態の進行や手術など肝臓への負担が高まるとき、患者がそれにどれほど耐え得るか判断する指標となる。しかし、肝疾患に起因する肝予備能の低下が実際にあっても、発揮している肝機能が正常と変わらない場合、自覚症状や血液検査値の著しい異常を示さない例もある。
 99mTc-GSA注射液によるシンチグラフィーは、肝疾患における残存肝予備能を非侵襲的に診断しうる有効な検査法である。
 
 
5. 99mTc-GSA注射液の体内薬物動態
 
 本注射液を健康な成人男子に静脈内投与したとき、99mTc-GSAは投与後急速に血中から二相性に消失し肝臓に集積する。投与直後から24時間後までの主たる集積臓器は肝臓であり、シンチグラム上血液プール及び肝臓〜腸管と腎臓〜膀胱の排泄系以外の臓器への放射能集積を認めなかった。投与後24時間までの累積尿中排泄率は17〜28%、累積糞中排泄率は24〜46%で、主排泄経路は胆道〜糞系であった。
 血液中の放射化学的成分は、80%前後が99mTc-GSAと考えられる蛋白質成分であり、99mTc-GSAは血液中では安定に存在する。尿中放射化学的成分は、ほとんどが低分子成分であり、肝臓で分解されて生じた低分子成分が血液中に放出され尿中に排泄されたと考えられる。
 
 
6. 99mTc-GSA注射液の臨床適用
 
 以下の肝臓疾患で有効性が認められた。急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、アルコール性慢性肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸、肝腫瘍、その他の肝疾患。
 次に臨床例、および肝臓における放射能の時間変化を図3に示す。


図3 慢性肝疾患患者における肝機能重症度別の胸腹部前面シンチグラムと肝臓の時間-放射能曲線(原論文1より引用)

Case 1(軽症例)では、投与後5分で正常に近い肝集積と、淡い心臓血液プール(上部)が認められるが、30分後には心臓は消失し、肝臓の集積は良好であった。
Case 2(中等症)では、投与後5分で心臓と肝臓が同程度に描出され、肝臓への集積遅延が認められる。30分後になると、血液中の99mTc-GSAはようやく肝臓に集積し終わった状態にある。
Case 3(重症)では、投与後5分で心臓血液プールが強く、30分後でも残っている。それと同時に、肝臓への集積が著しく遅延している。
時間-放射能曲線では、シンチグラム所見を反映し、99mTc-GSAの肝臓への集積(縦軸)は肝機能障害が高度になるほど遅くなっている。
 
 
7. 99mTc-GSA注射液の副作用
 
 臨床試験で本注射液が投与された576例において、本注射液に起因する副作用は認められなかった。現在までの使用成績調査I(3,124例)では、嘔吐・吐き気が各1件報告されている。

コメント    :
 99mTc-コロイド製剤(99mTc-スズコロイド、99mTc-フィチン酸)によるシンチグラフィは、肝臓の網内系機能を反映した検査である。一方、99mTc-PMTは、肝胆道系疾患の検査に使用される。

原論文1 Data source 1:
アシアロシンチ注 - 放射性医薬品基準 ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液
日本メジフィジックス株式会社
促販パンフレット(1992年10月)

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)注射液
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年), p. 102-103、平成8年版,P.90-91

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, ガラクトシル人血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(Tc-99m), 肝臓, 肝予備能, アシアロ糖蛋白質受容体, 肝炎, 肝硬変,diagnostic imaging, radiopharmaceutical, technetium galactosyl human serum albumin diethylenetriaminepentaacetate(Tc-99m), Tc-99m-GSA,liver, hepatic reserve, asialoglycoprotein receptor, hepatitis, liver cirrhosis,
分類コード:030502, 030301, 030403

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