放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/02/12 鷲野 弘明

データ番号   :030070
腎機能シンチグラフィー用診断剤:メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(Tc-99m)注射液
目的      :メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :99mTc
応用分野    :医学、診断

概要      :
 メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)注射液は、腎機能診断に使用される放射性医薬品である。本注射液は、静脈内に投与されると投与後速やかに血液中から消失し、代謝されずに腎尿細管より能動的に尿中排泄される。腎・尿路シンチグラムやレノグラムの解析により、腎血流・腎実質機能・尿路の通過障害・腎尿路系の形態などが非侵襲的に診断できる。
 

詳細説明    :
 
 腎機能シンチグラフィー用注射剤は、腎臓の排泄機能及び尿路疾患の診断を目的とする診断用医薬品である。我国では、2,3-ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)(以下99mTc-DMSA)、ジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc)(以下99mTc-DTPA)、o-ヨウ化ヒプル酸ナトリウム(123I)(以下123I-OIH)、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)(以下99mTc-MAG3)が腎機能診断剤として使用されて来た。今日では、1990年代に上市された最新世代の99mTc-MAG3が多く利用されている。
 
 99mTc-MAG3は、静脈内投与後速やかに尿中に排泄される。腎・尿路シンチグラムあるいは腎臓の時間-放射能曲線(レノグラム)の解析により、腎血流・腎実質機能・尿路の通過障害・腎尿路系の形態などを非侵襲的に診断できる。
 テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5 keVでシンチグラフィーに適している。我が国で製造販売されている99mTc-MAG3注射液(以下本注射液)について説明する。
 
 
1. 99mTc-MAG3注射液の組成
 
 本注射液は、水性の注射液で99mTcをメルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウムの形で含む。99mTc-MAG3の推定化学構造式を図1に示す。


図1 99mTc-MAG3の推定化学構造式(原論文1より引用)

 本注射液の組成・性状を次に示す。
組成
  メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)
  99mTcとして(検定時において)             370 MBq/ml
  メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン       0.15 mg/ml
  添加物  無水塩化第一スズ               0.045 mg/ml
       日局アスコルビン酸                5 mg/ml
性状
  微黄色透明の液
  pH 7.0〜10.5
  浸透圧比 約0.7(0.9%塩化ナトリウム溶液に対する比)
 
 
2. 99mTc-MAG3注射液の効能又は効果
 
 シンチグラフィー及びレノグラフィーによる腎臓及び尿路疾患の診断。
 
 
3. 99mTc-MAG3注射液の用法及び用量
 
 通常、成人には本注射液200〜555 MBqを肘静脈内に注射する。投与前よりシンチレーションカメラ検出器を腎臓〜尿路に向けてセットし、投与直後から連続的に撮像して動態画像を得る。撮像後データ処理装置で腎臓カウントの時間変化を時間-放射能曲線(レノグラム)として得る。投与量は、年齢、体重及び検査目的により適宜増減する。
 
 
4. 99mTc-MAG3注射液の薬効薬理
 
 血液中の不要物が腎臓から尿中に排泄されとき、排泄には動脈圧による腎糸球体限外ろ過と尿細管分泌の二経路がある。血中不要物は、その性質に応じて、どちらか一方あるいは両方の経路で尿中へ移行する。図2a)に、腎臓における血中不要物の排泄機構を模式的に示す。


図2 腎臓における尿の排泄機構(a)及びレノグラム(b)(原論文1より引用)

 99mTc-DTPAは、糸球体ろ過(RPF)によって排泄されるトレーサーであり、99mTc-MAG3や123I-OIHは糸球体ろ過(RPF)に加え尿細管における能動輸送(GFR)により高率に尿中排泄されるトレーサーである。このため、投与初期の99mTc-MAG3の腎取り込みは、99mTc-DTPAより3倍速い。図2b)に、正常者のレノグラムを示す。
 左右の腎で99mTc-MAG3が最高カウントに達する時間は、左腎/175.0±16.3秒(3例の平均値)、右腎/168.3±20.5秒であった。腎カウントがピークカウントの半分になる時間は、左腎/226.7±12.5秒、右腎/226.7±17.0秒あり、これは123I-IOHの値に近い。 99mTc-MAG3は、静脈内投与後速やかに尿細管に取り込まれ、能動的に尿中に排泄される。
 
 投与初期の99mTc-MAG3の腎集積は、有効腎血漿流量や有効腎血流量を反映し、尿中排泄は腎本来の排泄機能を反映する。従って、99mTc-MAG3の腎・尿路における動態を、経時的撮像(シンチグラム)あるいはレノグラム解析(図2b)により明らかにすれば、腎血流・腎実質機能・尿路の通過障害・腎尿路系の形態などを非侵襲的に診断できる。
 
 
5. 99mTc-MAG3注射液の体内薬物動態
 
 本注射液を健康な成人男子に静脈内投与したとき、99mTc-MAG3は投与後急速に血中から消失し、高率かつ速やかに尿中に移行する。血中消失の様相は二相性を示し、初期相の消失半減期は3.2±0.5分、後期相の消失半減期は18.6±4.8分で、尿中累積排泄率は、投与後30分/76.8±0.4%、 90分/91.7±0.1%、3時間/95.9±0.2%、6時間/97.1±1.0%及び24時間/98.0±1.0%であった。本注射液は、投与後24時間までにほぼ全量が尿中に排泄される。
 
 99mTc-MAG3と血清蛋白質の結合率は、限外ろ過分析では80〜90%であり、電気泳動分析では2%以下であった。これらの結果から、99mTc-MAG3は、血清蛋白質と静電的相互作用でごく弱く結合していると考えられる。血液中の放射化学的成分は、本注射液の有効成分99mTc-MAG3と同じであり、投与後30分の尿中放射化学的成分も同様であった。99mTc-MAG3は、生体内では代謝されることなく尿中へ排泄される。
 
 
6. 99mTc-MAG3注射液の臨床適用
 
 以下の腎・尿路疾患で有効性が認められた。糸球体腎炎、尿路通過障害(水腎症を含む)、腎・尿路結石、糖尿病性腎症、腎血管性高血圧症、腎腫瘤性病変(嚢胞を含む)、高血圧性腎症、ネフローゼ症候群、腎不全、移植腎など。
 図3に尿路通過障害症のシンチグラムを示す。


図3 水腎症を伴う右下部尿管結石患者のシンチグラム(a,b)及びレノグラム(原論文1より引用)

 3a)は1画面あたり収集時間が3秒/フレームの血流画像であり、3b)は収集時間を所定時間域に広げた経時画像である。左腎は正常で、右腎に機能障害が認められる。即ち、投与直後の血流画像及び経時画像より血流障害が、4分以降の経時画像より尿路通過障害が明らかである。この患者は、右腎の水腎症及び尿管結石と診断された。
 
 
7. 99mTc-MAG3注射液の副作用
 
 臨床試験で本注射液が投与された619例において、本注射液に起因する副作用や臨床検査値の異常変動は認められなかった。

コメント    :
 腎機能シンチグラフィー用注射剤は、歴史的に見て131I-OIH、99mTc-DMSA、99mTc-DTPAが最初で、次に123I-OIHが開発された。99mTc-MAG3は、最新世代に属し、今日最も汎用される腎機能診断剤である。核医学診断剤は投与量が極微量であるため、投与量が多いX線CT用尿路造影剤と比較すると、腎臓病患者の低下した腎機能に負担をかける可能性が低いという特徴を持つ。

原論文1 Data source 1:
MAGシンチ注 - 放射性医薬品基準 メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)注射液
日本メジフィジックス株式会社
販促パンフレット(1995年6月)

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc)注射液
(社) 日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度版)p.104-105,平成8年版,p26-27,92-93,

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, 99mTc-MAG3, 腎臓, レノグラム, 有効腎血漿流量, 腎炎, 腎尿路結石,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, mercaptoacetylglycylglycylglycine technetium(99mTc), kidneys, renogram, effective renal plasma flow, nephritis, nephrolithiasis
分類コード:030502, 030301, 030403

放射線利用技術データベースのメインページへ