脳脊髄液腔シンチグラフィー用注射剤：ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(In-111)注射液

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作成： 1999/01/04 鷲野　弘明データ番号　　　：030102 脳脊髄液腔シンチグラフィー用注射剤：ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(In-111)注射液目的　　　　　　：ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(¹¹¹In)注射液の特徴の説明放射線の種別　　：ガンマ線放射線源　　　　：¹¹¹In 応用分野　　　　：医学、診断概要　　　　　　：　¹¹¹In-DTPA注射液は、脳脊髄液腔内を流れる脳脊髄液の動態診断に使用される放射性医薬品である。本注射液は、通常腰椎穿刺により脊髄腔に投与され、脳脊髄液の循環に乗って腔内に分布する。これを撮像することにより得られる脳脊髄液腔シンチグラフィーは、非侵襲的に脳脊髄腔の形態及び脳脊髄液の動態が把握できるため、水頭症、髄液漏などの脳脊髄疾患の診断に有用である。詳細説明　　　　：　　脳脊髄液腔シンチグラフィー用注射剤は、脳脊髄腔(=脳槽)の形態及び脳脊髄液の流れを画像化しその異常を非侵襲的に診断する放射性医薬品である。我が国では、ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(¹¹¹In)注射液(以下¹¹¹In-DTPA注射液)が使用されている。　　脳脊髄液腔を画像化する放射性診断剤は従来数多く検討されたが、¹¹¹In-DTPAは、①髄液内で代謝されない、②血液脳関門を通過しない、③非脂溶性・非拡散性　などの特徴から、ほぼ理想的と言われる。¹¹¹In-DTPA注射液は、各種の水頭症、髄液漏及び様々な脳脊髄疾患の診断に有用である。　　インジウム-111(¹¹¹In)は、サイクロトロンで生産される物理的半減期2.81日の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは171,245 keVでシンチグラフィーに適している。以下、我が国で販売されている¹¹¹In-DTPA注射液(以下本注射液)を例に説明する。　　 1. ¹¹¹In-DTPA注射液の組成　　本注射液は、水性の注射液で、¹¹¹Inをジエチレントリアミン五酢酸インジウムの形で含む。本注射液の組成・性状を次に示す。　組成　　　インジウム-¹¹¹(検定日時において)　　　37 MBq/ml 　　　　　ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)　　　　　51.6 μg/ml 性状　　　無色澄明の液　　　　　　　　　　　　　pH　7.0～8.0 浸透圧比　約1 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比) 　　 2. ¹¹¹In-DTPA注射液の効能又は効果　　脳脊髄液腔シンチグラフィーによる脳脊髄液腔病変の診断。　　 3. ¹¹¹In-DTPA注射液の用法及び用量　　通常、成人には本注射液18.5～37MBqを主に腰椎穿刺により脊髄腔内に投与する。投与後は、患者を腹臥位で安静に保つ。成人では、投与後3、6、24時間後、必要に応じて48および72時間後にシンチレーションカメラ検出器を頭頚部に向け、前後左右及び頭頂部より撮像する。脊髄液腔内に異常が予想される場合には、30分～1時間後に撮像するなど撮像時間を調整する。なお、投与量は、年齢・体重により適宜増減する。　　 4. ¹¹¹In-DTPA注射液の薬効薬理　　脳脊髄液は、主に側脳室壁の脈絡叢から分泌され、第三脳室～中脳水道を経て第四脳室に下行し、そのLuschka孔及びMagendie孔よりくも膜下腔に出る。その後大部分はC.magna(大槽)を上行し、各脳槽とBasal cistern(脳底脳槽群)に注ぎ大脳表部を巡り、上矢状部のくも膜絨毛によって吸収され上矢状静脈に入る。一部の脳脊髄液は、下行し脊髄くも膜下腔を巡り再び上行し大槽に達するが、更に一部は脊髄で吸収され硬膜下静脈に入ると言われる。これらの循環は、第三循環と呼ばれ、脳脊髄系の機械的保護とともに代謝機能もつかさどることが考えられている。　腰椎穿刺により脊髄くも膜下腔に注入された本注射液は、脊髄くも膜下腔を上行して大槽に達し、脳脊髄液循環に従って分布吸収されるため、経時的にシンチグラムを撮像することにより、脳脊髄液循環動態を画像化できる。(図1参照) 　　 5. ¹¹¹In-DTPA注射液の体内動態　　腰椎穿刺によりヒト脊髄液腔内に投与された¹¹¹In-DTPA注射液は、5時間及び12時間の二相性の半減期で脳槽に移行する。一部は脊髄液腔で吸収されるため、投与初期に放射能が血中に出現する。脳槽に移行した¹¹¹In-DTPAは、髄液流に従って脳槽を上行し、上矢状洞から吸収され、半減期26時間で静脈相に移行する。移行の様子を示した模式図を図1に示す。図1　正常脳槽シンチグラフィの模式図（原論文1より引用）　血中放射能は、投与後3時間で最高値を示すが、その時点では脳槽に移行した¹¹¹In-DTPAは上矢状洞に達していないため、血中放射能は脊髄静脈洞からの吸収によるものと考えられる。血中放射能は、以後6時間まで半減期2時間の急速な消失を示し、その後半減期約15時間で緩やかに消失し、腎臓より尿中に排泄される。　¹¹¹In-DTPA注射液を投与してから3時間後の正常脳槽シンチグラムを図2に示す。図2　正常脳脊髄腔シンチグラム（原論文1より引用）　経時的な全身シンチグラフィーより、¹¹¹In-DTPAの脊髄液腔から脳槽～血中～膀胱への移行は明らかであり、それ以外の正常臓器への分布は特に認められない。　　 6. ¹¹¹In-DTPA注射液の臨床適用　　本注射液による脳脊髄腔シンチグラフィーは、次のような疾患の診断に利用されている。　 (1) 水頭症(特に正常圧水頭症)の診断及びシャント術の適用判定 (2) 髄液漏の診断 (3) 髄液シャント開存の判定 (4) 脊柱の各種疾患(椎間板ヘルニア・外傷性損傷)、脊髄腫瘍などによる脊髄液の通過障害判定 (5) 外傷性腕神経叢損傷の診断(引き抜き損傷と節後損傷の判定) (6) 交通性くも膜のう包、孔脳症、髄膜瘤あるいは脊髄小脳変性症の診断 (7) くも膜炎、くも膜下出血、脳内表在性腫瘍(特に頭蓋底腫瘍)の診断 - 放射能分布の局所的欠損、ブロックないし減少として診断される (8) 各種先天性奇形を伴った髄液循環障害の診断 (9) 脳腫瘍、脳梗塞、外傷性損傷などにより二次的に生じる髄液循環障害の診断　　以下に臨床例を図3に示す。図3　脳槽シンチグラム　　a)正常圧水頭症患者の症例(男子 53歳)　b)髄液耳漏患者の症例(男子 30歳)（原論文1より引用）　a)は、脳内手術後の正常圧水頭症患者で、6時間後の画像にて著明な脳室逆流(→)が認められ、48時間後でもなお放射能の側脳室残留が認められた。このように長時間(48時間)側脳室に放射能が残留する例では、シャント手術による改善率が高い。　b)は、髄液耳漏及び正常圧水頭症を呈する症例で、6時間後で著明な脳室逆流と左下部(→)に耳漏が見られる。　 7. ¹¹¹In-DTPA注射液の副作用　　臨床試験及びその後の調査(全8670例)において報告された副作用は全10例であり、発熱、頭痛などであった。原論文１ Data source 1：インジウムDTPA(¹¹¹In)注 -放射性医薬品基準ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(¹¹¹In)注射液 - 日本メジフィジックス株式会社薬剤パンフレット、1990年8月改訂版参考資料１ Reference 1：インジウムDTPA(¹¹¹In)注 -放射性医薬品基準ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(¹¹¹In)注射液 - (社)日本アイソトープ協会インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.118-119 キーワード：画像診断, 放射性医薬品, ジエチレントリアミン五酢酸インジウム(111In)注射液, 脳, 脊髄, 脳脊髄液, 水頭症, 脳脊髄液腔シンチグラフィー, diagnostic imaging, radiopharmaceutical, 111In-DTPA, brain, spine, cerebrospinal fluid, hydrocephalus, cisternography 分類コード：030502, 030301, 030403
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