作成: 1999/01/04 鷲野 弘明
データ番号 :030103
肺血流シンチグラフィー用注射剤:テクネチウム大凝集人血清アルブミン(Tc-99m)注射液
目的 :テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液の特徴の説明
放射線の種別 :ガンマ線
放射線源 :99mTc
応用分野 :医学、診断
概要 :
テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液は、局所肺血流の診断に用いられる放射性医薬品である。本注射液は、静脈内に投与され、右心内で血流と完全に混合した後肺の毛細血管床に一時的に補足される。投与後直ちにガンマカメラで撮像することにより、肺局所血流量に応じたシンチグラムが得られる。肺血流の状態を非侵襲的に診断することができ、肺塞栓などの診断に有用である。
詳細説明 :
テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液(99mTc-MAA注射液)は、局所肺血流の診断を目的とする診断用放射性医薬品である。 肺血流の評価には、これ以外にもクリプトン-81mジェネレータが発売されているが、ここでは99mTc-MAA注射液(以下、本注射液)について説明する。
99mTc-MAA注射液の有効成分は、99mTcで標識された人血清アルブミンの凝集粒子で、粒子径10〜60μmである。この粒子は、静脈内に投与されると、右心内で血流と完全に混合した後肺の毛細血管床に補足されて一過性の微小塞栓を生成する。微小塞栓の分布は肺局所血流量に応じ、投与後直ちにガンマカメラで撮像することにより、肺血流シンチグラムが得られる。この画像より、肺塞栓など肺動脈血流状態の異常を非侵襲的に診断することができる。
テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5keVでシンチグラフィーに適している。
1. 99mTc-MAA注射液の組成
本注射液は、水性の注射液で、99mTcをテクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)の形で含む。本注射液の組成・性状を表1に示す。
表1 テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液の組成・性状(原論文1より引用)
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組成 テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc) 0.9 mg/ml
99mTcとして(検定日時において) 92.5 MBq/ml
添加物 ベンジルアルコール 0.015 ml/ml
性状 白色〜淡黄色の懸濁液
pH 4.5〜6.0
浸透圧比 約1.5 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
粒子径 10〜60μm 90 %以上
100μm以上の粒子を含まない
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2. 99mTc-MAA注射液の効能又は効果
各種肺疾患並びに肺循環障害を併発する心疾患の肺血流分布異常部位の診断。
3. 99mTc-MAA注射液の用法及び用量
本注射液をよく振り混ぜた後、通常、成人には37〜185MBqを肘静脈内に注射し、注射直後より胸部をガンマカメラで撮像することにより肺シンチグラムを得る。投与量は、年齢・体重により適宜増減する。
4. 99mTc-MAA注射液の体内動態
本注射液は、肘静脈内に投与されたのち右心内で血流と完全に混合され、肺の毛細血管に送られる。大凝集アルブミンは、毛細血管床に補足されて一過性の微小塞栓を生じ、その分布は肺局所血流量に比例する。本注射液の粒子は適度の微細化性を有しており、撮像に必要な時間肺に滞留後、微細化されて排泄される。投与後24時間までに、投与放射能量の約26%が尿中に排泄される。一方、糞便中への排泄は24時間で0.6%にすぎない。
5. 99mTc-MAA注射液の安全性
粒子数及び粒度分布:注射液中の大凝集人血清アルブミン濃度は0.9mg/mlであり、粒子数は30万〜60万個/mlである。粒度分布は、10〜60μmの粒子が90%以上、100μm以上の粒子を含まない。Weibelの計算によれば、ヒト正常肺には300〜500μm径の筋性小動脈が10万〜20万個あり、その各々が50〜300μm径の小動脈を100個、10〜50μm径の細動脈を2,000個、10μm以下の毛細血管を20万個含むという。本注射液2mlを投与した場合、その中に含まれる粒子数は60万〜120万個であり、これらがすべて1個ずつ肺毛細血管を閉塞すると仮定しても、ヒト正常肺毛細血管床の150〜600分の1しか閉塞せず、肺血行動態の阻害は起こらない。上田らは、実際に投与する量の2,000倍以上の大凝集人血清アルブミンをイヌに投与して初めて肺動脈圧の上昇をみたと報告している。
抗原性:大凝集人血清アルブミンの抗原性は否定されており、小川らによれば、ウサギを用いた実験で通常の投与量では問題にならないことが立証されている。
6. 99mTc-MAA注射液の臨床適用
臨床試験において本注射液が有効と報告された適応症は、次のとおりである。
(1) 各種肺疾患
肺癌、気管支拡張症、肺のう腫性疾患、慢性肺気腫、気管支炎、気管支喘息、肺結核、肺繊維症、肋膜炎 ほか
(2) 肺循環障害を併発する心疾患
弁膜症、心疾患による肺水腫、中隔欠損、炎症 ほか
臨床例として、リンパ造影後の脂肪塞栓の症例を図1に、肺動脈の腫瘍塞栓の症例を図2に示す。
図1 リンパ造影後の脂肪塞栓の症例(男性 56歳)(原論文1より引用)
膀胱癌の診断で油性ヨード造影剤lipiodol ultrafluide 14 mlをKinmonth法により両足背リンパ管内に注入した。24時間後の胸部X線像では、左鎖骨上窩静脈角近傍に造影剤が見られ、X線像上明らかではないが肺野全体に多発性微小塞栓を来していると考えられる。
図2 肺動脈の腫瘍塞栓の症例(女性 25歳)(原論文1より引用)
軟骨肉腫により肺動脈に腫瘍塞栓を認めた例である。胸部X線像(正面断層像)では、両肺野に散在する小円形陰影があり、両肺動脈は蛇行し狭小化していた。本注射液による肺血流シンチグラフィーを行ったところ、左肺野は血行が停止し、右肺野に多発性の楔状の血流欠損をみとめた。
7. 99mTc-MAA注射液の副作用
本注射液に起因すると考えられる重篤な副作用が認められた例はなかった。
原論文1 Data source 1:
ラングシンチTc-99m注 -放射性医薬品基準 テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液-
日本メジフィジックス株式会社
薬剤パンフレット、1992年3月改訂版
参考資料1 Reference 1:
ラングシンチTc-99m注 -放射性医薬品基準 テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液-
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.112-113
参考資料2 Reference 2:
大柳 光正 他
核医学 vol.16, p.927-931, 1979
参考資料3 Reference 3:
上田 英雄 他
最新医学 vol.20, p.1718-1726, 1965
参考資料4 Reference 4:
小川 弘 他
薬学雑誌 vol.86, p.20-26, 1966
キーワード:画像診断, 放射性医薬品, テクネチウム大凝集人血清アルブミン(99mTc)注射液, 肺,肺塞栓, 肺癌, 肺血流,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, 99mTc-macroaggregated human serum albumin, 99mTc-MAA, lung, pulmonary embolism, lung cancer, pulmonary blood flow
分類コード:030502, 030301, 030403