放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/01/04 鷲野 弘明

データ番号   :030108
心筋シンチグラフィー用注射剤:ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(Tc-99m)注射液
目的      :ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液の特徴の説明
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :99mTc
応用分野    :医学、診断

概要      :
 心筋シンチグラフィー用注射剤は、心臓疾患の診断を目的とする診断用医薬品で、我国ではヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液など三種類ある。ここで紹介する注射液は、静脈内投与後心筋局所血流に応じて速やかに心筋内に分布し、投与後早期より心筋シンチグラムが得られる。本剤の集積機序は、201TlCl注射液と異なるが、心筋梗塞や狭心症など心筋血液循環障害の診断に同じく有用である。

詳細説明    :
 心筋シンチグラフィー用注射剤は、心臓疾患の診断を目的とする診断用医薬品である。我国では、現在塩化タリウム(201Tl)注射液(以下201TlCl注射液)、ヘキサキス(2-メトキシブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液(以下99mTc-MIBI注射液)及びテトロホスミンテクネチウム(99mTc)注射液の三種類が製造販売されている。三種の製剤は、各々化学的には異なるが臨床的有用性は概ね同じであり、いずれも静脈内に注射されると心筋局所血流に応じて速やかに心筋内に分布し、鮮明な心筋シンチグラムが得られる。ここでは、99mTc-MIBI注射液について説明する。201TlCl注射液については、別レコードを参照されたい。
 
 99mTc標識心筋シンチグラフィー用注射剤の開発は、1982年マサチューセッツ工科大学のDavisonとハーバード大学のJonesによる99mTc標識イソニトリル錯体の研究に始まる。99mTc-MIBI注射液は、その中で最も優れた特性を有する化合物であり、最初に開発上市された99mTc標識心筋シンチグラフィー用注射剤となった。心筋シンチグラフィーは、特に心筋梗塞の診断に有用であり、負荷心筋シンチグラフィーでは、負荷心電図に比べ狭心症をより鋭敏にかつ特異的に診断できると言われている。99mTc-MIBIは、標識用キット及び調製済みの注射液として流通しており、標識用キットは緊急検査時にその場で注射液を調製(99mTc標識)して使用できる。
テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5keVでシンチグラフィーに適している。
 
 
1. 99mTc-MIBI注射液の組成
 
 本注射液は、水性の注射液で、99mTcをヘキサキス(2-メトキシブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)の形で含む。注射液の組成や特徴は表1に、化学構造を図1に示した。

表1 ヘキサキス(2-メトキシブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液の組成・性状
--------------------------------------------------------------------------------------
組成   ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム
     テクネチウム-99m(検定日時において)          600 MBq/2 ml
     塩化第一スズ(二水塩)                  37.6μg/2 ml
     塩酸 L-システイン(二水塩)               500μg/2 ml
性状   無色澄明の液
pH   5.0〜6.0
浸透圧比 約1 (0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
--------------------------------------------------------------------------------------


図1 ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)の化学構造

 
2. 99mTc-MIBI注射液の効能又は効果
 
(1) 心筋血流シンチグラフィーによる心臓疾患の診断
(2) 初回循環時法による心機能の診断
 
 
3. 99mTc-MIBI注射液の用法及び用量
 
(1) 心筋血流シンチグラフィーによる心臓疾患の診断
通常、成人には本注射液370〜555 MBqを肘静脈より投与し、投与後30分以降にガンマカメラの検出器を被験部に向けて撮像し、心筋血流シンチグラムを得る。画像は、心臓の動きに同期させ(心電図同期)、プラナー像よりSPECT装置を用いた2次元断層像として得た方が好ましい。
 
(2) 初回循環時法(ファーストパス法)による心機能の診断
通常、成人には本注射液740 MBqを肘静脈内に急速投与し、投与直後より心RIアンギオグラムを得る。必要に応じ、収集したデータより駆出分画を算出する。また、心電図に同期させてデータ収集を行い、拡張末期像及び収縮末期像を得る。
なお、投与量は、年齢・体重及び検査方法により適宜増減する。
 
 
4. 99mTc-MIBI注射液の薬効薬理
 
 99mTc-MIBIは、脂肪親和性の1価カチオン化合物であり、投与後速やかに心筋に取り込まれる。心筋細胞への集積は、201TlClが心筋細胞膜上のNa+-K+ ATPase系による能動輸送であるのに対し、99mTc-MIBIは受動拡散である。99mTc-MIBIは、Tl-201と同様に心筋局所の冠動脈血流量に比例して取り込まれ、その取り込み率は安静時血流の2.5〜3.0倍の血流量まで比例する。心筋抽出率(冠動脈血流により心筋内に流入する放射能のうち心筋組織に取り込まれ保持される割合)は約66%であり、201TlClの約80%に比べて低いが、201Tlclと同様に冠動脈血流量を反映した心筋シンチグラムを与える。
 
心筋細胞内に取り込まれた99mTc-MIBIは、細胞内のミトコンドリアの膜電位に応じて細胞内にトラップされる。血流低下による酸素不足は、ミトコンドリアの機能低下〜膜電位低下を引き起こし、細胞の99mTc-MIBIトラップを困難にする。それ故、99mTc-MIBIはTl-201と同様生きている細胞に選択的に滞留する特性を有すると考えられる。
 
 
5. 99mTc-MIBI注射液の体内動態
 
 99mTc-MIBIは、静脈内投与されると直ちに全身に分布するが、特に骨格筋・心筋・肝臓・腎臓などに分布する。健常人の心筋への集積は、投与後直ちに始まり5分後で平均1.4%投与量(安静時)、2時間後で平均1.1%投与量(安静時)であり、心筋に良く保持されていた。血中からの消失は速やかであった。肺や肝臓への集積は、経時的に比較的速く減少し、投与5分後の心/肺比は2.0以上、投与1時間後の心/肝比は1.0以上であった。排泄臓器は腎臓及び肝胆道系であり、投与後24時間までに25.4%投与量(安静時)が尿中に排泄され、糞便中にも排泄が見られた。
なお、99mTc-MIBIは体内で分解されることなく排泄される。
 
 
6. 99mTc-MIBI注射液の臨床適用
 
 各種心臓疾患患者を対象にした臨床試験の結果、以下の疾患で本注射液の有用性が認められた。
急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞、安静時狭心症、労作性狭心症、異型狭心症、心臓弁膜症、心筋症、先天性心疾患。
以下に臨床例を示す。


図2 労作性狭心症患者の例。 労作性狭心症患者における心筋血流イメージである。運動負荷時では、明瞭な集積低下が認められるが(矢印)、安静時では血流が回復しているのが分かる。

 
7. 99mTc-MIBI注射液の副作用
 
 臨床試験の際、本注射剤が投与された612人について安全性を評価した結果、一過性の口内苦味感や金属臭などの異常味覚や異常臭覚が認められた。

コメント    :
 99mTc標識心筋シンチグラフィー製剤は、本来201TlClの欠点(ガンマ線エネルギーがやや低く画質が劣る)を補うべく開発された製剤である。しかし、現在の99mTc製剤は、いずれも201Tlを越える薬理学的特性を有していないため、201TlClを完全に置き換えるに至っていない。

参考資料1 Reference 1:
放射性医薬品基準 ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.38-39

キーワード:画像診断, 放射性医薬品, ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液, 心臓, 心筋梗塞, 狭心症, 局所心筋血流, 心筋シンチグラフィー,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, hexakis(2-methoxyisobutylisonitrile) technetium(99mTc), heart, myocardial infarction, angina pectoris, local myocardial perfusion, myocardial scintigraphy
分類コード:030502, 030301, 030403

放射線利用技術データベースのメインページへ