作成: 1999/01/04 鷲野 弘明
データ番号 :030109
腎臓シンチグラフィー用注射剤:ジメルカプトコハク酸テクネチウム(Tc-99m)注射液
目的 :99mTc-DMSA注射液の特徴の説明
放射線の種別 :ガンマ線
放射線源 :99mTc
応用分野 :医学、診断
概要 :
2,3-ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液は、腎臓疾患の診断を目的とする放射性医薬品である。本注射液は、静脈内投与されると腎臓の尿細管細胞に高率に取り込まれ、腎皮質に選択的に集積し、安定してそこに留まる。99mTc-DMSAによる腎臓シンチグラフィーは、腎腫瘍・のう腫の検出、腎梗塞など腎血管性病変の診断、水腎症などの残存腎機能検査に有用である。
詳細説明 :
腎臓シンチグラフィー用注射剤は、腎臓疾患の診断を目的とする放射性医薬品である。我が国では、ここに述べる2,3-ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)(以下99mTc-DMSA)のほか、特に腎排泄機能・腎尿路系疾患の診断剤としてジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc) (以下99mTc-DTPA)、o-ヨウ化ヒプル酸ナトリウム(123I)(以下123I-OIH)、メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンテクネチウム(99mTc) (以下99mTc-MAG3)が使用されている。
腎臓の核医学診断は、歴史的には1950年代に遡る。1956年Borghraefは203Hg-chlormerodrinが腎臓に集積することを明らかにし、McAfee & Wagnerがこれを用いて腎臓シンチグラフィーに成功した。それ以後、203Hg-chlormerodrinは腎機能診断に使用されるようになったが、203Hgは物理的半減期が長い(46.9日)、ベータ線を放出する、投与量の1/4は腎臓に長期間滞留するなどの欠点のため、体内被曝が大きかった。1974年、Linらは、テクネチウム-99m(99mTc)で標識したDMSAが203Hg-chlormerodrinと非常に良く似た挙動を示し、腎臓に安定した高い集積を示すことを報告した。99mTc-DMSAは、静脈内投与されると腎臓に皮質に選択的に集積し安定してそこに留まる。99mTc-DMSAによる腎臓シンチグラフィーは、腎腫瘍・のう腫の検出、腎梗塞など腎血管性病変の診断、水腎症などの残存腎機能検査に有用である。
テクネチウム-99m(99mTc)は、原子炉で生産される99Moより生成する物理的半減期6.01時間の放射性核種で、β線を放出せず、放出γ線のエネルギーは140.5keVでシンチグラフィーに適している。ここでは、我が国で製造販売されている2,3-ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液(以下本注射液)を例に説明する。
1. 99mTc-DMSA注射液の組成
本注射液は、水製の注射液で、99mTcを2,3-ジメルカプトコハク酸テクネチウムのの形で含む。本注射液の組成を表1に示した。
表1 ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液の組成・性状(参考資料1より引用)
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組成 ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)
99mTcとして(検定日時において) 185 MBq
2,3-ジメルカプトコハク酸 1.1 mg
添加物 無水塩化第一スズ 0.38 mg
日局アスコルビン酸 0.70 mg
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性状 無色澄明の液
pH 2.0〜3.5
浸透圧比 約0.5(0.9 %塩化ナトリウム溶液に対する比)
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2. 99mTc-DMSA注射液の効能又は効果
腎シンチグラムによる腎疾患の診断。
3. 99mTc-DMSA注射液の用法及び用量
通常、成人には本注射液37〜185MBqを肘静脈内に投与する。投与後1時間以上経過した後、シンチレーションカメラ検出器を腎臓に向けて撮像し、腎シンチグラムを得る。投与量は、年齢、体重により適宜増減する。
4. 99mTc-DMSA注射液の薬効薬理
99mTc-DMSAは、静脈内に投与後、速やかに腎尿細管上皮細胞に取り込まれ、高率(90%)に腎皮質に集積し、かなり長期間蓄積・停留する。従って、のう腫や水腎の存在する場合あるいは腫瘍によってfunctioning tubular massが圧排されている場合、欠損像として形態異常を示す。
5. 99mTc-DMSA注射液の体内動態
血清クレアチニン値2.0mg/dlを越えない成人4例について試験した結果、本注射液の血中クリアランス曲線は、投与後1時間までほぼ1相性の指数関数的減少を示し、投与後1〜24時間までは2ないし3相性の減少を示した。尿中排泄率は、最初の1時間で4.15±2.05 %、15時間で19.10±0.57 %であった。
血中から消失した99mTc-DMSAがすべて腎臓に移行すると仮定し、血中消失曲線と尿中排泄曲線から腎臓集積を推定すると、投与後1時間で投与量のほぼ50 %、5時間以降でほぼ70 %が腎臓内に蓄積すると考えられた。
6. 99mTc-DMSA注射液の臨床適用
臨床試験において本注射液が有効であると報告された疾患は、次のとおりである。
対象疾患:腎腫瘍、慢性腎炎、急性腎炎、腎奇形、腎盂腎炎など
以下に臨床例を示す。
図1 急性腎盂腎炎患者における99mTc-DMSAシンチグラフィーの例(後面像)
この患者は、尿路感染による急性腎盂腎炎と診断された。シンチグラフィーで左側腎臓上部の集積低下が確認され、この部位が障害を受けていることが確認された。 (原論文1より引用。 Reprinted by permission of the Society of Nuclear Medicine from: Arnello F, et al. Overall and single-kidney clearance in children with urinary tract infection and damaged kidneys; Journal of Nuclear Medicine. 1999;40:52-55, Figure 2 (p.55).)
図2 腎盂尿管移行部閉塞患者における99mTc-DMSAシンチグラフィーの例(後面像(A)及びSPECT像(B)) 99mTc-DMSA SPECTは、腎皮質の欠損を検出する目的で施行され、近位尿細管組織における膜輸送機能(排泄機能)や腎血流量に応じた集積像を与える。左右の腎組織における99mTc-DMSA集積量を各々独立に定量することで、腎機能に関する実際的な指標が得られる。この症例は、片側性の腎盂尿管移行部閉塞(腎臓からの尿の流失障害で、腎盂尿管移行部における尿の流れの閉塞障害)である。左腎は、閉塞のため肥大し腎皮質は薄くなっている。 (原論文2より引用。 Reprinted by permission of the Society of Nuclear Medicine from: Groshar D, et al. Quantitative SPECT of 99mTc-DMSA uptake in kidneys of infants with unilateral ureteropelvic junction obstruction: Assessment of structural and functional abnormalities; Journal of Nuclear Medicine. 1999;40:1111-1115, Figure 2 (p.1113).)
7. 99mTc-DMSA注射液の副作用
臨床試験及び副作用頻度調査(全10,538例)において副作用が認められた例はなかった。
コメント :
腎機能シンチグラフィー用注射剤は、歴史的に見て131I-OIH、99mTc-DMSA、99mTc-DTPAが最初であり、次に123I-OIHが開発され、99mTc-MAG3が最新世代の診断剤である。各々の製剤は、異なった特性を持つ。99mTc-DTPAは、腎集積後もっぱら糸球体ろ過によって尿中に排泄されるが、131I-OIH、123I-OIH及び99mTc-MAG3は腎集積後糸球体ろ過と尿細管分泌によって速やかに尿中排泄される。一方、99mTc-DMSAは、腎皮質に特異的に集積し尿中排泄は遅い。これらのことから、腎排泄機能や尿路系の診断には、99mTc-DTPAや99mTc-MAG3が使用される。なお、99mTc-DMSAの場合、錯体形成条件を変えることにより、Tcの原子価が異なった99mTc-DMSA異性体を調製することができる。この異性体は、腫瘍に集積する性質を持ち、現在研究が行われている。
原論文1 Data source 1:
Overall and single-kidney clearance in children with urinary tract infection and damaged kidneys
F.Arnello, H.R.Ham, M.Tondeur & A.Piepz
J. Nucl. Med. 40, p.52-55, 1999
原論文2 Data source 2:
Quantitative SPECT of 99mTc-DMSA uptake in kidneys of infants with unilateral ureteropelvic junction obstruction: Assessment of structural and functional abnormalities
D.Groshar, M.Wald, B.Moskovitz, E.Issaq & O.Nativ
J. Nucl.Med. 40, p.1111-1115, 1999
参考資料1 Reference 1:
キドニーシンチTMキット - 放射性医薬品基準 ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液調製用
日本メジフィジックス株式会社
1986年12月改訂版
参考資料2 Reference 2:
放射性医薬品基準 ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集(平成7年度), p.106-109
参考資料3 Reference 3:
Borghraef et al.
J. Clin. Invest.vol 35, p.1056, 1956
参考資料4 Reference 4:
McAfee et al.
Radiology vol 75, p.820, 1960
参考資料5 Reference 5:
Lin et al.
J. Nucl. Med. Vol 15, p.34, 1974
キーワード:画像診断, 放射性医薬品, ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc)注射液, 腎臓, 腎癌, 腎炎, レノグラム,
diagnostic imaging, radiopharmaceutical, 99mTc-DMSA, kidneys, renal cancer, nephritis, renogram
分類コード:030502, 030301, 030403