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作成: 2000/02/11 野本 由人

データ番号   :030147
肺門部早期癌の腔内照射療法
目的      :肺門部早期癌に対する小線源を用いた気管支腔内照射法
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :192-Ir線源
応用分野    :医学、放射線治療

概要      :
 肺癌に対する治療法として外科療法、放射線治療、および化学療法などがあるが、早期の肺門部肺癌には外科治療ができない場合、放射線治療が選択される。外部照射の他に、気管支の内腔に存在する癌に対して有効に放射線を照射する方法として気管支腔内照射がある。照射線源として192-Irが用いられ、現在低線量率線源と高線量率線源が利用されているが、それぞれ使用法が異なる。

詳細説明    :
 近年、肺癌は増加傾向にあるが、そのなかで早期肺癌は内視鏡的早期肺癌といわれ、内視鏡で確認できるが、胸部単純X線写真では指摘できない癌とされる。X線でみえないので、間接撮影などの集団検診では発見されず、喀痰細胞診陽性患者に対して丹念に気管支鏡検査を行ってはじめて病巣が確認できることが多い。進行癌とは異なり腫瘍径が小さく、リンパ節転移もないので、手術をはじめとする治療の成績は良好である。治療法の第一選択は手術であるが、高齢であったり、心肺機能が低下していて全身麻酔に耐えられない場合、あるいは術後肺機能の著しい低下が予測される場合などに放射線治療が適用される。抗癌剤による化学療法は通常行う必要はない。
 放射線治療の方法としては、高エネルギーX線による外部照射が従来行われてきた。体外から深部の腫瘍に対して照射する方法で、比較的広い範囲の治療が可能である一方、空間的線量分布は必ずしも良好ではない。もう一つの放射線治療法として、気管支腔内に放射性同位元素である小線源を挿入して内部から癌病巣に照射する気管支腔内照射法がある。外部照射に比べ小さな範囲に高線量を投与できるという特徴(図1)がある。


図1 小線源(Ir-192)の線量分布図(原論文1より引用)

 小線源治療はRa-226 に端を発し、子宮頸癌や食道癌などでは外照射との組み合わせで、ほぼ標準化された治療法である。肺癌については気管支に挿入するには線源径が大きく、一般には行われていなかった。しかしながら近年、小経のIr-192線源が開発され、気道の閉塞を起こすことなく線源を気管支に挿入することが可能になった。 気管支腔内照射法は、1980年代中頃より欧米で施行され始めた。Ir-192の高線量率線源を使用し、あらかじめ患部に挿入されたカテーテル内にアフターローデイング法で機械的に線源を送り込むもので、当時は根治性よりも癌の進行による様々な症状、すなわち気道狭窄による呼吸困難や、癌病巣からの出血による血痰の改善などを目的としていた。
 本邦においては、不破らが早期肺癌の治療を目的として、低線量率Ir-192を用いた気管支腔内照射を開始した。気管の輪状軟骨付近にアプリケーターを通過させるためのチューブを治療期間中常時留置し、照射の際には、これを通してアプリケーターを患部に挿入して、アプリケーター内に用手的に、低線量率Ir-192ワイヤーを送り込む方式である。画期的であったのは、線源が気管支壁に密着しないようにアプリケーター(図2)を翼状にし、気道を確保しつつ線源を気管支の中央に位置させる方法を開発したことである。


図2 低線量率気管支腔内照射用アプリケーター (原論文2より引用。 Reproduced from Raditherapy and Oncology, 45(1997), 33-37, Figure 1 (p.54), Yoshihito Nomoto, Kazufusa Shouji, Shun Toyota, et al., High dose rate endobronchial brachytherapy using a new applicator; Copyright(1997), with permission from Elsevier Science.)

 上述の欧米での方式では、カテーテルが気管支壁に密着した部分で過線量となり、障害が発生する事例もみられたが、このアプリケーターを用いることで管腔臓器である気管支に対して理想的な線量分布が得られ、優れた治療成績をおさめている。
 その後、我が国にも第二世代のremote afterloading systemとして小経の高線量率Ir-192線源を有する装置(Ir-RALS)が普及しはじめた。不破らの方法は低線量率線源の生物学的特徴をいかしたものであるが、一回の治療時間が数時間に及ぶことや、気管にチューブを挿入するなどの観血的な手技を伴うこともあり、限られた施設でおこなわれてきたが、Ir-RALSが全国的に普及するにあたり、これを用いて気管支腔内照射を行う方法が工夫された。気管支鏡を用いて患部に線源移送チューブを挿入し、このチューブを留置したまま気管支鏡を抜去して、翼のついたアプリケーターをチューブに被せるように挿入する方法である(実際にアプリケータが挿入された状態のX線写真を図3aに示す)。通常の気管支鏡検査と同様な手技で施行でき、高線量率ゆえに短時間で照射ができる。また、専用の治療計画装置を用いて、気管支各部位の内径に合わせて線量分布(図3b)を作成することが可能である。さらに、遠隔操作で行うため医療従事者の被曝がない。


図3 (a)高線量率気管支腔内照射の線量分布図 (原論文2より引用。 Reproduced from Raditherapy and Oncology, 45(1997), 33-37, Figure 3 (p.36), Fig.2(p.35), with permission from Elsevier Science, (b)右下葉支に挿入されたアプリケータ )



コメント    :
 肺癌はもともと気管支の内腔側の上皮から発生するので、気管支腔内に線源を挿入する腔内照射は理にかなった方法といえる。また早期肺癌はX線写真に写らない小さな病巣とされているので、病巣に集中的に照射できる空間的線量分布をもつ小線源治療の最もよい適応である。高線量率線源をもちいる方法は医療従事者の被曝がないため、今後も普及すると予測されるが、生物学的特性からは過照射による有害事象の発生も懸念されるため、臨床的に至適線量を検討していく必要がある。

原論文1 Data source 1:
Iridium thin wireを用いる気管支腔内照射用アプリケーターの使用経験
不破 信和、森田 皓三、 奥村 恵利子、 伊藤 善之
愛知県がんセンター放射線治療部
日本医学放射線学会雑誌、48(2), pp217-219, 1988

原論文2 Data source 2:
High dose rate endobronchial brachytherapy using a new applicator
Yoshihito Nomoto, Kazufusa Shouji, Shun Toyota, et al.
Department of Radiology, Mie University, School of Medicine
Raditherapy and Oncology, 45, pp33-37, 1997

キーワード:肺癌、lung cancer, 内視鏡的早期肺癌、roentogenographically occult lung cancer, 放射線治療、radiotherapy, 小線源治療、brachytherapy, 線量率、dose rate, イリジウム線源、Ir-192, 気管支、bronchus, 
気管支鏡、bronchoscopy
分類コード:030203

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