ソマトスタチン受容体発現腫瘍の画像診断

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作成： 2000/11/10 白神　宜史データ番号　　　：030202 ソマトスタチン受容体発現腫瘍の画像診断目的　　　　　　：ソマトスタチンレセプターを発現する腫瘍の¹¹¹In-Octreotideによる核医学画像診断放射線の種別　　：ガンマ線放射線源　　　　：¹¹¹In、⁹⁹^mTc 応用分野　　　　：医学、診断概要　　　　　　：　¹¹¹In-ペンテトレオチドは、ソマトスタチンのアナログペプチドに、キレート剤であるDTPAを介して¹¹¹Inを標識した放射性医薬品である。消化管ホルモン産生腫瘍は、ソマトスタチンレセプターを高密度に発現する。そこでソマトスタチンレセプターに¹¹¹In-ペンテトレオチドが特異的に結合する性質を利用して、腫瘍を検出する画像診断薬である。核種を⁹⁹^mTcに置き換えた診断剤や、⁹⁰Yおよび¹⁸⁸Re標識治療薬の検討も進んでいる。詳細説明　　　　： 1. はじめに　ソマトスタチンは、14個のアミノ酸からなる内因性のペプチドである。ある種の腫瘍、たとえばカルチノイド、ガストリノーマ、インスリノーマなどの消化管ホルモン産生腫瘍は、ソマトスタチンレセプター(hSSTR)を高密度に発現している。そこで、ソマトスタチンをRIで標識して、hSSTRをターゲットとする腫瘍イメージング用の放射性医薬品の開発が試みられた。以下に、最初に製品化に成功した¹¹¹In-ペンテトレオチド、およびその後の研究開発の進展について説明する。 2. ¹¹¹In-ペンテトレオチド　¹¹¹In-ペンテトレオチド(¹¹¹In-DTPA-D-Phe-Octretide)は、ソマトスタチンのアナログペプチドであるOctreotide(図1)にDTPAと呼ばれるキレート剤を介して¹¹¹In標識した放射性医薬品である。図1　オクトレオチドの構造（原論文1より引用）　欧米ではhSSTRの画像化を目的に既に市販されており、本邦でも臨床試験が実施されている。hSSTRには5種類の異なるサブタイプ(hSSTR1～5)があり、腫瘍細胞では、主にhSSTR2が発現していることが知られている。世界で最初に商品化された¹¹¹In-ペンテトレオチドは、hSSTR2のほかhSSTR5に強い親和性を有することが示されている。臨床において、¹¹¹In-ペンテトレオチドが腫瘍のステージングおよび転移巣の検出に大変有用であるのは、主にhSSTR2に対する結合によると考えられている。 3. ⁹⁹^mTc標識ソマトスタチンアナログ　放射性核種¹¹¹Inは必ずしもイメージングに最適な核種ではないため、より汎用性のある⁹⁹^mTc標識ソマトスタチンアナログの開発を目指して引き続き種々の研究が行われた。その中のひとつが⁹⁹^mTc-P829と呼ばれる化合物である(図2)。図2　⁹⁹^mTc-P829の構造（原論文1より引用） ⁹⁹^mTc-P829は、N3S型のキレートによりTcと安定に結合する(5価のTcOに対して、3個のN原子と1個のS原子が配位する)。また⁹⁹^mTc-P829は、hSSTR2, hSSTR5に加えてhSSTR3にも強い親和性のあることが示された。 4. ¹¹¹In-ペンテトレオチドの臨床成績　消化管ホルモン産生腫瘍、カルチノイド、インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ソマトスタチノーマ、等を有する23症例を対象として国内20施設で臨床試験が実施された。製剤111MBqを静脈内投与し、4、24および48時間後に全身像、プラナー像およびSPECT像を撮像した。腫瘍は4時間後像に早くも陽性描画され、24時間後にさらにコントラストが明瞭になった。症例ごとの正診率は、ガストリノーマ：100%、カルチノイド：77.8%、インスリノーマ：40.0%であった。また部位ごとの陽性率もガストリノーマ：100%、カルチノイド：83.3%、インスリノーマ：55.6%と良好で、直径1cm以下の小さな腫瘤も検出された。図3に多発性のカルチノイド症例の画像を示す。肝臓への異常な集積を認めるほか、左胸部、骨盤部および大腿部に陽性のスポットが多数確認された。図3　多発性カルチノイド症例(45歳、男性)の¹¹¹In-ペンテトレオチドによる全身像。a) 投与後4時間像。肝臓に異常な放射能の集積を認める。加えて、左鎖骨, 左胸骨、骨盤部および大腿部などに陽性スポットが描出されている。b) 24時間後の正面像。肝臓内に複数の異常集積部位が確認された。c) 24時間後の全身像。腫瘤の描出は更に明瞭になったが、消化管への放射能の移行も認められる。（原論文2より引用）消化管ホルモン産生腫瘍はいずれも稀な疾患であるが、病巣の局在診断は容易でない。根治療法は病巣の完全切除であるが、多発性の場合や、遠隔転移があると手術を行っても十分な効果は期待できない。従来の画像診断では病巣の存在を全身的に確認するのが困難であった。¹¹¹Inペンテトレオチドは、消化管ホルモン産生腫瘍に高密度に存在するソマトスタチン受容体と結合する新しい放射性医薬品である。腫瘤への集積機序が明確であり、全身検索が可能である。また、オクトレオチドの治療効果の予測・判定にも有用性が高いと考えられる。 5. 今後の展開　最近の研究によれば、ソマトスタチンレセプターに結合した¹¹¹In-ペンテトレオチドは、細胞内に取り込まれ(internalization)、リソゾームにて¹¹¹In-DTPA-D-Pheにまで分解され、蓄積することがわかった。そこで、標識する放射性核種をアルファまたはベータ線放出核種、たとえば⁹⁰Y、¹⁸⁸Reあるいは²¹³Biに置き換えれば、RI治療も可能になると考えられる。本邦では、¹¹¹In-ペンテトレオチドの臨床的有用性を確認するために、追加の臨床試験を実施中である。国内での早期承認が期待される。一方、⁹⁹^mTc-P829は、臨床試験にて消化管ホルモン産生腫瘍に加えて、肺癌のイメージングにも有用であることが期待されている。¹¹¹In-オクトレオチドとの適応疾患の違いは、⁹⁹^mTc-P829のhSSTRのサブタイプに対する親和性が、より広いスペクトルを持っていることによると考えられる。コメント　　　　：　¹¹¹In-ペンテトレオチドは、ペプチドをはじめて放射性医薬品に実用化した点で、先見性のある優れた研究・技術である。これに習って、その後、腫瘍に限らず、炎症などでも多数のペプチド製剤が研究されるようになった。また、ソマトスタチンに関しても、放射性核種を⁹⁹^mTcに置き換える試みや、アルファまたはベータ線放出核種を使った治療への応用にも広く展開されている。原論文１ Data source 1： Small peptides radiolabeled with ⁹⁹^mTc J. Lister-James, B.R. Moyer and T. Dean Diatide Inc Q. J. Nucl. Med. 1996; 40: 221-33. 原論文２ Data source 2： ¹¹¹In-DTPA-D-Phe-octreotideの消化管ホルモン産生腫瘍を対象とした第Ⅲ相臨床試験山本和高、石井靖、古館正従、伊藤和夫、塚本江利子、金丸龍之介、遠藤啓吾、平野恒夫、田中孝司、荻野良郎、宇野公一、久保篤司、橋本順、日下部きよ子、牧正子、佐々木康人、瀬戸光、利波紀久、石垣武男、中川毅、松下智人、小西淳二、阪原晴海、長谷川義尚、池窪勝治、渡邊祐司、濱本研、増田康治、中條政敬、中別府良昭、鳥塚莞爾福井医科大学放射線科、ほか核医学1995; 32: 1269-1280. 参考資料１ Reference 1： Peptide receptor imaging and therapy Dik Kwekkeboom, Eric P. Krenning and Marion de Jong Department of Nuclear Medicine, University Hospital Rotterdam J Nucl Med 2000; 41: 1704-1713 . 参考資料２ Reference 2： New radiopharmaceuticals for receptor scintigraphy and radionuclide therapy I. Virgolini, T. Traub, M. Leimer, C. Novotny, T. Pangerl, S. Ofluoglu, E. Halvadjieva, P. Smith-Jones, J. Flores, S.R. Li, P. Angelberger, E. Havlik, F. Andereae, M. Raderer, A. Kurtaran, B. Niederle, R. Dudczak Department of Nuclear Medicine, University of Vienna, Austria Q. J. Nucl. Med. 2000; 44: 50-8. キーワード：¹¹¹In-ペンテトレオチド,、¹¹¹In-pentetoreotide、オクトレオチド、octreotide、インジウム-111、¹¹¹In、テクネチウム-99m、⁹⁹^mTc、核医学、nuclear medicine、放射性医薬品、radiopharmaceuticals、シンチグラフィ、scintigraphy、カルチノイド、carcinoids、ソマトスタチン、somatostatin 分類コード：030301, 030302, 030501, 030502
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