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作成: 2001/11/26 豊田圭子
データ番号 :030220
頭部・頭頸部の画像診断における最新X線CT技術
目的 :頭部・頭頸部の画像診断における多列検出器CTの有用性についての紹介
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :X線管
利用施設名 :東京慈恵会医科大学,他
応用分野 :医学、診断
概要 :
最新のX線CT技術の大きな話題として,多列検出器CT(multidetector-row CT以下MDCT)の登場がある。MDCTは体軸方向に複数列の検出器を持ち、1回転で複数のスライス像が得られる装置である。また1回の回転時間は0.5秒なので、撮像時間は大幅に短縮される。さらにより薄いスライス撮影も可能になり、微細構造も描出できる。以下MDCTの臨床応用として頭部・頭頸部領域の診断につき紹介する。
詳細説明 :
1. 頭部領域における多列検出器CTの臨床応用
頭部領域においては主にCT angiographyとして応用され、動脈瘤の検索に有用である。症例を図1に示す。
図1 前交通動脈瘤例 a)MDCTによるCT angiography (Maximal Intensity Projection像) 前交通動脈に動脈瘤を認める。 b)血管造影像 CT angiographyと一致して動脈瘤が確認される。
通常我々は頭部・頭頸部領域のCT angiographyに関しては4列x1mmコリメーションで撮影し、1.25mmの再構成横断像を作成している。再構成間隔の設定により再構成画像の枚数は異なり、一般的に再構成間隔が小さいと再構成スライス枚数は多くなる。MDCTでは撮像時間が短縮化され、静脈還流の画像への影響が減少したため、シングルスライスヘリカルCT(以下SHCT)と比べると静脈と動脈の重なりの少ない画像が得られる。CT angiographyは血管造影に比べ、非侵襲的であり、またMR angiographyのような乱流の影響も受けない。さらに動脈壁の石灰化などの情報も得られる。SHCTでの報告では動脈瘤の大きさでは3mm以上の動脈瘤の検出が可能とされているが、MDCTではそれを凌駕することが予想される。非侵襲性、簡便性の点ではMR angiographyが優れるが、前述した理由により、MR angiography後の精査としてCT angiographyを行う。
2.頭頸部領域における多列検出器CTの臨床応用
頭頸部領域は解剖学的定義では頭蓋底から胸郭入口部をさす。複雑微細な解剖構造を持ち、狭い空間の中に、空気(気道)、脂肪(間隙など)、軟部組織(唾液腺、咽頭、喉頭、甲状腺、筋組織など)、および骨(頭蓋底、頚椎)の解剖が凝縮されている。このようにX線吸収値の大幅に異なる解剖構造が近接し、嚥下運動、および義歯等金属に由来する様々なアーチファクトが出現することがあるが、MDCTにより高分解の画像が任意方向から再構成可能となり、この領域における画像診断の有用性がより高まっていくものと期待される。
1) 副鼻腔
副鼻腔領域は副鼻腔炎の評価目的でCTが行われることが多い。近年は内視鏡下鼻内手術の発達に伴い詳細な術前評価が求められ、横断像のみならず冠状断像は必須である。MDCTでは、撮像範囲を眼窩から下顎までとすると7-8cmの範囲となり、撮像時間は約10秒程度で終了できる。得られた横断像から冠状断を再構成する。
2)下咽頭・喉頭
下咽頭・喉頭領域は、副鼻腔と同様に気道と接する領域であり、また、微細病変の描出が要求されるためMDCTが有用と考えられる。粘膜病変は内視鏡で観察されるので画像診断の役割は少ないが、甲状腺や声門下への浸潤等の進達度診断は内視鏡による観察では困難で、CTあるいはMRIによる評価を必要とする。我々はMDCTでヨード造影剤を用い、横断像、冠状断像をルーチンに作成している。
図2 喉頭癌例 a)軸位断 b)冠状断 軸位断像で声門上部から声門下部にわたる腫瘤性病変を認める。声門下では輪状軟骨の破壊を伴い、腫瘤は頸部腹側の皮下に浸潤している。冠状断で腫瘤の連続性が明瞭である。
撮像は副鼻腔領域同様に4列1mmコリメーションで行っている。再構成冠状断は頭尾方向の腫瘍の進展を診断するのに有用である。MDCTは、喉頭の動き(発声時、バルサルバ負荷時など)の評価にも応用が期待され、さらに仮想内視鏡像の作成も容易である。
3) 側頭骨
頭頸部においてMDCTが最も有用と考えられるのは、耳小骨や顔面神経などの複雑で微小な解剖の描出が要求される側頭骨領域である。我々はこの領域はより高精細な4列x0.5mmコリメーションで撮像を行っている。
図3 耳小骨横断像 アブミ骨の前脚、後脚および卵円窓が明瞭に描出されている。
MDCTでは再構成画像により3次元的表示が容易で、耳小骨のみの切り出しも可能なため、鼓室内おける靭帯の固着や耳小骨の奇形など、画像表示が従来困難とされていた疾患についても描出できるようになった。
3. おわりに
MDCTにより詳細な解剖学的評価と病変の進展範囲の評価が可能となった。ただし付随する問題として、スライス枚数が増大する結果生じる、莫大なデータの処理および保管の問題がある。
コメント :
多列検出器CTは1998年に登場し、日米をはじめとして世界に急速に普及している。従来のCT装置では被検者の体軸方向に1列の検出器が配列され、1スキャンごとに1スライスの画像が得られるが、多列検出器CTは体軸方向に複数列の検出器を持ち、1回転で複数のヘリカル画像が得られるCT装置である。また、1回の回転時間は0.5秒で撮像時間の大幅な短縮をもたらしている。さらにより薄いスライス撮影も可能になったことより、微細な構造も描出できるようになった。
最細スライス厚は現在のところ0.5mmで、これはX軸Y軸Z軸方向が同様の空間分解能を得られることを意味し(等方向性ボクセルデータ)、対象の向きによる歪みやアーチファクトの少ない再構成画像が得られる。したがって多断面変換(multiplanar reconstruction :MPR)や3D画像の画質および画像の客観性を向上させることになる。
原論文1 Data source 1:
わかりやすい3次元画像処理の基礎;等方向性ボクセルの利点について
佐藤嘉伸
大阪大学大学院医学系研究科付属バイオメディカル教育センター機能画像診断学研究部
画像診断 20.499-508,2000
原論文2 Data source 2:
マルチスライスの臨床応用 神経放射線領域における役割
片田和廣
藤田保健衛生大学衛生学部
臨床放射線45,487-493,2000
原論文3 Data source 3:
多列検出器CT (multidetector row CT) 頭頸部と骨軟部への臨床応用
豊田圭子、福田国彦
東京慈恵会医科大学放射線医学講座
Digital medicine 1,99-104,2000
キーワード:コンピュータ断層法,computed tomography, 多列検出器CT,Multidetctor-row CT,マルチスライスCT,multislice helical CT,頭部,head,CTアンジィオグラフィ,CT angiography, 頭頸部,head and neck, 副鼻腔,paranasal sinus, 下咽頭,hypopharynx,喉頭,larynx, 側頭骨,temporal bone, 多断面変換, multiplanar reconstruction
分類コード:030102, 030101
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