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作成: 2004/01/19 望月 輝一

データ番号   :030250
マルチスライスCTによる心機能評価
目的      :マルチスライスCTを用いた新しい心機能評価法についての紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :医用エックス線装置
応用分野    :医学、診断

概要      :
 被検者の頭足方向(Z軸方向)の多数の検出器を有するマルチスライスCTは、一回転で多数の体軸横断面が撮影できる。X線管球・検出器システム(ガントリ−)の回転スピ−ドの高速化及び再構成アルゴリズムの開発により、一横断画像を得るための時間分解能(カメラのシャッタ−スピ−ドに相当)が短縮し、拍動する心臓を鮮明な画像で描写することが可能となった。約10秒〜30秒の息止め造影CTにより得られたデ−タを用いて、心臓軸断面や3次元画像の動画が作成でき、心臓の運動や機能の評価が可能である。

詳細説明    :
 従来のCTでは拍動する心臓はモ−ションア−チファクト(ブレ)のため、鮮明な画像が得られずCT検査の対象になり難かった。拍動する心臓を対象にブレの無い画像を撮るためには、その動きに対して十分に早いシャッタ−スピ−ド(時間分解能)で写真を撮る必要がある。従来から、50〜100m秒の時間分解能を有する特殊な超高速CT(電子ビ−ムCT=EBT,electron beam CT)を用いた冠動脈・心臓のイメ−ジングがされていた。近年、被検者の頭足方向(Z軸方向)の多数の検出器を有するマルチスライスCTが発売され、最新の16(32,40)列のマルチスライスCTのガントリ−回転スピ−ドは0.5〜0.375秒となり、その180度分のデ−タで一横断像を再構成する方法を用いると、時間分解能は0.25〜0.19秒となる。更に180度分のデ−タをZ軸方向の他の検出器で分け合う、丁度パッチワークのような再構成法、即ちマルチセクター再構成法を併用すると、理論上は100m秒以下の時間分解能で画像再構成が可能である。16列マルチスライスCTを用いるた場合、臨床例現場では0.25〜0.15秒程度の時間分解能で撮像されており、比較的動きの少ない拡張末期や収縮末期像はブレ(モーションアーチファクト)のない画像が得られる。
拡張末期や収縮末期のみならず、一心周期に対して多時相 (約10時相)の再構成を行い、各々の時相のデータを心臓軸または3Dで再構成を行い、それらをワークステーション上で時相順にコマ送り(ページング)を行えば、心臓軸断面および3Dの動画像が作成される。即ち心臓の壁運動や壁収縮といった動き(心機能)が観察できる。
図1に動画作成の基となる多時相抽出の原理を示す。これらの動画はワークステーション上でリアルタイムにインターアクティブに任意の断面、任意の方向から観察可能である。



図1 1心拍に対して10相の画像再構成を行う際のシェーマ(ある体軸横断面)。 心電図(1心拍)は時間軸に対応する。時間分解能が1心拍に対して十分短くないので、時相と時相の間はオーバーラップしている。即ちある再構成が終わらないうちに次の時相の再構成を始める。この10相のイメージをワークステーション上でコマ送りを行えば、体軸横断面の動画が作成される。頭側から足側にかけて心臓全体を含む時相別の体軸横断像データセットを抽出し、心臓軸の断面や3D画像を時相別に再構成し、それらをコマ送りすれば、心臓軸の断面や3D画像の動画が作成される。


図2に心臓長軸2断面及び短軸像の動画像を観察するワークステーションのプラットフォーム(拡張末期と収縮末期)を示す。図3に10時相の左室容量を測定し横軸に一心拍、縦軸に左室容量をプロットした左室ボリュームカーブを示す。
左室ボリュームカーブに加えて、左室全体の局所壁運動(%-shortening)および壁収縮(%-Wall Thickening)は心臓核医学でお馴染みの一枚のBull's Eyeマップとしても表現できる。



図2 任意の断面でインターアクティブに動画の観察が可能なワークステーション。拡張末期像(左)と収縮末期像(右)。 左上:体軸横断面、左中央:体軸前額断面、左下:体軸矢状断面、右上:心臓長軸前額断面、下中央:心臓長軸矢状断面、下右:心臓短軸断面




図3 左室容量曲線 横軸の10相が1心拍に相当。縦軸が左心室の体積(容量, ml)。 1心拍10相の左室の収縮を表す。



コメント    :
マルチスライスCTの登場で時間分解能が向上したことで鮮明な冠動脈・心臓のイメージングが可能となった。しかも一心拍の多時相の画像再構成をすることにより心臓の任意の断面および3Dで動画として観察が可能となった。各種の心機能の定量評価も可能とである。強調しておきたいのは、これらの基データは冠動脈のイメージングに使用したものを流用できる点であり、即ち、僅か10〜30秒の息止め造影CTから得られるものであり、被検者には心機能解析のための追加被曝を必要としない点である

参考資料1 Reference 1:
Two-and three-dimensional CT ventriculography : a new application of helical CT
Mochizuki T,Murase K,Higashino H,et al
Am J Roentgenol 174:203-208,2000

参考資料2 Reference 2:
Clinical usefulness of the cardiac multi detector row CT
Mochizuki T,Higashino H,Koyama Y,et al
Comput Med Imaging Graph 27:35-42,2003

参考資料3 Reference 3:
Assessment ofleft ventricular volumes using multi detector row tomography(MDCT):phantom and humen studies
Hosoi S,Mochizuki T,Miyagawa M,et al
Radiation Medicine 21:62-67,2003

参考資料4 Reference 4:
Assessment of coronary artery and cardiac function using multidetector CT
Mochizuki T,Hosoi S,Higashino H,et al
Seminars in Ultrasound CT and MRI 25:in press 2004 


キーワード:マルチスライスCT,心機能,左室壁運動, 左室壁収縮, 左室容量計測, 左室容量曲線,コンピュ−タ断層法,心臓,診断,multislice CT,cardiac function,left ventricular wall motion,left ventricular systolic thickening,left ventricular volume assessment,left ventricular volume curve,computed tomography,heart,diagnosis
分類コード:030102,030401,0300704

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