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作成: 2005/12/12 陣崎 雅弘
データ番号 :030278
治療方針の策定に役立つ腎腫瘍の画像診断−最近の進歩と可能性−
目的 :腎腫瘍の鑑別診断の最近の進歩
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :X線管
応用分野 :医学、診断
概要 :
腎腫瘍の鑑別診断は嚢胞性腫瘍に関してはBosniak分類があり、治療方針を決定する上で非常に有用である。一方、充実性腫瘍に関しては腎癌の頻度が高いために基本的には手術が施行されてきた。その中には良性腫瘍も含まれ不要な手術が施行されてきたが、術前での鑑別は困難と考えられてきた。近年、画像病理対比の積み重ねにより充実性腫瘍の鑑別診断の研究も進み、CTを中心とした治療方針に役立つ鑑別法が確立しつつある。
詳細説明 :
腎嚢胞性腫瘍の鑑別は、嚢胞壁および隔壁の厚さ・不整度・増強効果の有無、石灰化の程度,内容液の性状などをチェックポイントとしたBosniak分類により治療方針が決定されている。腎充実性腫瘍は、従来はほとんどが腎癌で手術が第一選択であった。しかし、近年の画像診断の進歩により小腎腫瘍が偶然見つかる頻度が増加してきた。小腎腫瘍においては良性腫瘍の占める頻度が30%程度との報告もあり、不要な手術が施行される確率が高くなってきている。診断においてはCTの果たす役割が大きい。
1)腎癌の画像所見
腎腫瘍の鑑別を考えていくにあたり、腎癌の呈する多様な画像所見を理解しておく必要がある。腎癌は組織型ごとに所見は異なる。最も頻度の高い淡明細胞型はCTの造影早期に不均一な濃染するピークを形成する。嫌色素型は造影早期相に均一な中等度のピークを形成する。乳頭型は漸増するパターンを呈する。乳頭型は比較的均一であることが多い。また、腎癌は一般的に超音波もしくはMRのT2WIで偽被膜を有する傾向がある。
図1 腎癌の典型像。CT造影早期相(a)でも後期相(b)でも不均一である(矢印)。単純CTでも不均一であった。
2)腎癌以外の手術の対象とならない疾患の画像所見
良性腫瘍で一番頻度の高い血管筋脂肪腫は、CTで脂肪濃度を検出することで診断が容易にできる。
課題は、脂肪の少ない血管筋脂肪腫、平滑筋腫、腺腫、リンパ腫、転移などを画像から確実に疑って不要な手術を避けることである。これらの疾患はいずれも、経過観察もしくは化学療法でよく、手術が第一選択とはならない。脂肪に乏しい血管筋脂肪腫や平滑筋腫は単純CTで高濃度、T2WIで低信号を呈する傾向があり、造影後も均一な造影像を呈する。また、腺腫のうちの後腎腺腫、リンパ腫も同様の傾向を持つ。腎以外に原発巣があって、腎に偽被膜を持たない腫瘍があった場合には転移を疑う必要がある。以上のような所見を認めた場合には生検の適応になると思われる。
腺腫のうち最も頻度の高いオンコサイト−マはT2WIで低信号にはならず、しかも偽被膜を持つので腎癌との鑑別は難しい。
図2 手術の対象にならない疾患の画像(脂肪に乏しい血管筋脂肪腫)。単純CT(a)で均一な高濃度で、造影像(b)も均一である(矢印)。
3)鑑別の可能性と限界
生検でどこまで診断できるかが重要な鍵になる。血管筋脂肪腫、後腎腺腫、リンパ腫、転移などはいずれも生検で診断可能である。オンコサイトーマは基本的に疑うことができるが嫌色素型腎癌との鑑別が生検標本で難しいことが限界の大きな理由である。オンコサイトーマの病理診断が生検で可能になれば腺腫の術前の診断は向上すると思われる。生検による播種のリスクは極めて低いが、基本的には腎癌以外の疾患が疑われる場合に行うということが重要である。
また、腎腫瘍のサイズが小さい場合や石灰化が強い場合に充実性か嚢胞性かの判断が画像上難しい場合がある。これらは indeterminate mass と呼ばれ、基本的には経過を見ることになる。
コメント :
上記のような観点から小腎腫瘍の画像所見を的確に評価した場合、生検の適応になるのは5%未満程度と思われ頻度は多くはない。しかし、それにより不要な手術を避けられるという意味では重要性が高い。また、indeterminate massesという病態が存在することも認識しておく必要がある。しかし、これらのチェックポイントを認識しておけば、病理診断名を言い当てることができるわけではないが、多くの場合で治療方針を誤らないですむと思われる。
以上の内容は最新の技術を紹介したものではないが、従来の技術を用いた画像病理対比の長年の積み重ねの結果、最近になって臨床現場で有用に活用できるようになったので、ここに紹介した。
原論文1 Data source 1:
小腎腫瘤の鑑別診断
陣崎雅弘
慶應義塾大学放射線診断科
泌尿器外科 16: 103-112, 2003
原論文2 Data source 2:
Angiomyolipoma: imaging findings in lesions with minimal fat.
Jinzaki M, Tanimoto A
Department of Diagnostic Radiology, Keio University School of Medicine
Radiology 205: 497-502, 1997
原論文3 Data source 3:
Double-phase helical CT of small renal parenchymal neoplasms: correlation with pathologic findings and tumor angiogenesis.
Jinzaki M, Tanimoto A
Department of Diagnostic Radiology, Keio University School of Medicine
J Comput Assist Tomogr 24: 835-842, 2000
キーワード:腎腫瘍、腎臓、腎細胞癌、血管筋脂肪腫、オンコサイトーマ、後腎性腺腫、コンピュータ断層撮影、マルチスライスCT
renal tumor, kidney, renal cell carcinoma, angiomyolipoma, oncocytoma, metanephric adenooma, Computed Tomography (CT), Multidetector-row CT
分類コード:030102, 030103, 030106, 030107
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