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作成: 2006/11/22 大野良治
データ番号 :030285
悪性胸膜中皮腫の画像診断
目的 :CT, MRIによる悪性胸膜中皮腫の画像診断
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :エックス線管
概要 :
アスベスト曝露関連胸部疾患は肺および胸膜の腫瘍性,非腫瘍性疾患に分けられる。アスベスト曝露関連悪性腫瘍としては肺がん及び中皮腫があげられるが,低濃度曝露者においても発症し,予後不良な悪性胸膜中皮腫が現在問題になっている。胸部単純写真やCTにおいて中皮腫は早期であれば胸水や胸膜肥厚として認められ,進行すると腫瘤として認められる。また,CT及びMRIは病期診断に有用であり,現在様々な研究が進んでいる。
詳細説明 :
一般にアスベストによる人体への影響は主に胸膜に対するものと肺実質に対するものに分けられる。アスベスト曝露関連悪性腫瘍として悪性胸膜中皮腫と肺がんがあげられ、現在職業曝露のみならず,傍職業曝露及び近隣曝露にても発症し,少量曝露にても発症する危険性を有する悪性胸膜中皮腫への関心が高まっている。
悪性中皮腫の胸部単純写真及びCT所見としては,原因不明の片側性胸水,びまん性胸膜肥厚,胸膜外徴候陽性の結節または腫瘤が挙げられる。慢性線維化膿胸や慢性化した出血性胸水などに代表されるびまん性胸膜線維症との鑑別を要し,縦隔胸膜の肥厚,胸膜肥厚の厚さ,石灰化の有無によって鑑別されるが,しばしば困難である。また,一般に悪性胸膜中皮腫の早期発見は胸部単純写真による検診のみでは困難であり,読影に際してはアスベスト曝露歴を重要な情報とし,曝露が疑われた場合には慎重な読影の必要がある。また,悪性胸膜中皮腫の画像診断では現時点では単純写真における病変の拾い上げが重要であり,微細な病変も多いことから以前撮影された画像との比較読影の徹底と胸水・胸膜肥厚に対する要精査率の上昇を考慮する必要がある。そして悪性中皮腫の可能性がある受診者にはCT, MRI及び外科的生検等の精査を積極的に勧めることが肝要である。
現在,画像診断の進歩は目覚しく,特にMulti-slice CT(MSCT)の出現により任意の方向からの画像の再構築が可能になっている。これに伴い従来の横断像のみでは判断に苦慮する症例にも病変の存在,広がりなどの情報がえられる。また,MRIにおいても任意方向からの撮影が可能であり,良好な組織コントラストの面から病変の存在,広がりの同定が容易になってきている。これらの最新の画像診断は特に中皮腫の臨床TNM診断におけるT因子診断に有用である。胸膜中皮腫のT因子診断においてT1は“臓側胸膜の病巣浸潤に関係なく,同側の壁側胸膜に浸潤する腫瘍であり,T1aは同側の臓側胸膜浸潤なく,T1bは同側の臓側胸膜浸潤ある”とされ,軽微な胸膜肥厚として認められる場合が多い(図1)。
図1 64歳男性,悪性胸膜中皮腫(T1)
胸部MSCT(縦隔条件)においてびまん性の胸膜肥厚を認め,胸膜生検によりT1の悪性胸膜中皮腫と診断された。
T2は“同側の胸膜表面に浸潤し,融合性臓側胸膜腫瘍(裂溝を含む),横隔膜の筋肉への浸潤,肺実質への浸潤のいずれか1つを伴う腫瘍”とされ,Multi-slice CTによるmulti-planar reconstructed image (MPR image)あるいはMRIによる矢状断像による観察で評価が容易である(図2)。
図2 70歳男性,悪性胸膜中皮腫(T2)
胸部MSCT(縦隔条件)にて びまん性胸膜肥厚を認めるとともに,縦隔胸膜肥厚と不整な胸膜外徴候陽性の腫瘤を認める(矢印)。しかし,明らかな縦隔臓器への浸潤は認められず,手術にて縦隔組織への浸潤も認められず,T2と診断された。
T3は“同側の胸膜表面に浸潤し,胸内筋膜への浸潤,縦隔脂肪への浸潤,胸壁の軟部組織に浸潤する孤立性腫瘍病巣および心膜非貫通性浸潤を伴う腫瘍”とされ,局所的進行がんではあるが腫瘍切除は可能と考えられ,CTあるいはMRIによる評価が重要である(図3)。
図3 62歳男性,悪性胸膜中皮腫(T3)
胸部MSCT (縦隔条件)にて腫瘍は胸膜を超え,肋骨の破壊は伴わないものの,胸壁筋肉内へ浸潤し,T3と診断された。
T4においては“同側の胸膜表面に浸潤し,胸壁の軟部組織への散在性,または多病巣性浸潤,いずれかの肋骨への浸潤,横隔膜を越える腹膜への浸潤,縦隔のいずれかの臓器への浸潤,対側胸膜への直接浸潤,脊柱への浸潤,心膜の内部表面への浸潤,細胞診陽性の心浸出液,心筋層への浸潤及び腕神経叢浸潤のいずれか1つを伴う腫瘍”とされ,局所的進行がんであるが,外科切除は不可とされており,MPR imageあるいはMRIによる局所浸潤の評価が有用である(図4)。
図4 57歳男性,悪性胸膜中皮腫(T4)。胸部MSCT (冠状断MPR像)にて左胸膜のびまん性肥厚を認めるとともに,横隔膜の肥厚も認め,T2以上の悪性胸膜中皮腫と疑われた。しかし,胸部MRI(STIR冠状断像)にて左胸膜のびまん性肥厚に一致した高信号を認めるとともに,高信号は横隔膜を越えて腹膜に広がることから,悪性胸膜中皮腫の腹膜への進展が疑われ,T4と診断された。確認のため,胸膜生検と同時に腹膜生検が施行され,上皮型の悪性胸膜中皮腫と診断されるとともに,腹膜への浸潤も確認された。
アスベスト曝露関連疾患の中でも低濃度曝露でも発症し、特に予後不良な悪性腫瘍である悪性胸膜中皮腫に対しては常に注意を払うことが我々医療に携わるものに今後求められる。検診時の比較読影の徹底を行うとともに胸水,胸膜肥厚に対する要精査率をあげることにより早期発見を試みる必要があると考えられる。悪性胸膜中皮腫が疑われた受診者がいた場合には積極的に16列以上のMSCT, MRIにてT因子診断を行うとともに,外科的生検等の精査を勧めることが肝要である。
コメント :
悪性胸膜中皮腫の画像診断においては胸部単純写真などによる検診時の比較読影を徹底し、胸水,胸膜肥厚に対する要精査率をあげることにより早期発見を試みる必要がある。早期発見には高空間分解能或いは高組織分解能を有する画像診断法が必要である。また,胸膜中皮腫の広がりは三次元的であり,多断面での観察が必要であることから被曝線量を低減し,サブミリの分解能を有する最小のコリメーターを有するMSCTは必要である。さらに,高コントラスト分解能を有するものの検査時間のかかるMRIにおいては高空間分解能及び検査時間の短縮を可能とするParallel imagingを併用する事が必要である。診断能向上のため,MSCT及びMRIにおいて積極的な造影剤の併用が望まれる。
原論文1 Data source 1:
Malignant pleural mesothelioma: evaluation with CT, MR imaging, and PET
Wang ZJ, Reddy GP, Gotway MB, Higgins CB, Jablons DM, Ramaswamy M, Hawkins RA, Webb WR
University of California
Radiographics 2004; 24:105-119
原論文2 Data source 2:
The role of imaging in malignant pleural mesothelioma
Marom EM, Erasmus JJ, Pass HI, Patz EF Jr
Duke University Medical Center
Semin Oncology 2002; 29:26-35
原論文3 Data source 3:
CT and MR in pleural disease
McLoud TC
Harvard Medical School
Clinical Chest Medicine 1998; 19:261-276
キーワード:肺、胸膜、アスベスト、胸膜中皮腫、胸部単純写真、コンピューター断層撮影、核磁気共鳴画像、造影剤
Lung, Pleura, Asbestos, Mesothelioma, Chest radiograph, Computed tomography, Magnetic resonance imaging, Contrast-media
分類コード:030102,030106
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