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作成: 2010/12/27 中原 健裕

データ番号   :030306
冠動脈CTによる狭心症の診断
目的      :CTの冠動脈疾患診断への応用
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :エックス線

概要      :
 近年CTは技術の進歩により、循環器領域で本格的に応用されるようになった。CTの一番の利点としては、冠動脈狭窄の有無を非侵襲的に短時間に診断できることである。現在当院で主に使用しているものは、最速で0.3秒未満、被ばく量も著しく少なく撮影可能である。まだ弱点はあるものの、現時点ですでに冠動脈CTはかなり普及しており、日常臨床において狭心症が疑われる患者の診断に非常に有用な道具となっている。

詳細説明    :
 近年の画像診断の進歩によって、心筋梗塞や狭心症など循環器疾患における非侵襲的診断法の重要性は著しく向上し、多くの疾患や病態において画像診断法は大切な役割を果たしている。中でも特に目覚ましい進歩を遂げたものに冠動脈CTがある。
 CTは急速に進歩し、64列CTが2004年に開発され、撮影時間が10秒程度となったことから、循環器領域で本格的に応用されるようになった(参考資料1)。CTに搭載する検出器を増やす多列化により短時間で広い範囲を撮影できるようになり、心臓のように動いている臓器にも使われるようになった。その他、ガントリーの高速化による時間分解能の向上(デジタルカメラに例えるならば、シャッタースピードが速くなる)と空間分解能の向上(画素数が上がり、細かいところも見えるようになる)も寄与している。
 その後もCTは進歩を続け、今日紹介するものは、128列CTにX線管球−検出器を2対搭載しており、最速で0.3秒未満で撮影可能となり、患者の放射線被ばく量も著しく少なくなった。


図1 最先端CT装置。左が128列CTにX線管球―検出器を2対搭載した機種。右の二つが64列CT。

 CTの一番の利点は、心臓カテーテル検査をおこなわなくても冠動脈狭窄の有無がわかることである。図2の症例は労作時胸痛で来院した典型的な狭心症の症例である。冠動脈CTでは白矢印の部分に狭窄がある(細くなっている)ことが一目瞭然である。また、逆にこれまでの研究の結果から、CTで冠動脈に狭窄がないと証明されれば、狭心症の可能性は、まず無いとして良いと考えられている(参考資料2)。


図2 狭心症の一例の冠動脈CT(VR像表示)。心臓を体の正面から見た状態であるので、向かって左に見えるものが右冠状動脈(みぎかんじょうどうみゃく)である。向かって右に見えるものが左冠状動脈(ひだりかんじょうどうみゃく)であり、手前に向かうものが左冠状動脈前下行枝(ぜんかこうし)、回り込むものが左冠状動脈回旋枝(かいせんし)である。冠動脈CTにより左冠状動脈前下行枝が狭窄している(白矢印:狭くなっている)ことがわかる。

 冠動脈CTで得られる画像とその評価は、胸痛の精査で施行した冠動脈CTをみるとわかりやすい(図3)。左右の冠状動脈とも狭い部分が見られ、石灰化病変も散見される。VR(Volume Rendering像)と言われる三次元画像は、冠状動脈のところどころが狭くなっている。VR像は全体像の把握や患者説明などには適するが、色合いを自由に変えることができるので、詳細な診断はできない。


図3 別の狭心症の症例冠動脈CT(VR像表示)。左右の血管の所々に動脈硬化性病変を認め、細くなっていることが分かる。この中でも、最も狭くなっているところが黄矢印の部位である。

 次に、右冠状動脈が狭くなった黄矢印の部分に注目して、冠状動脈を一つの平面に伸ばしたCPR(Curved Planar Reconstruction)像(図4左)を見ると、白く大きな石灰化病変の手前に冠動脈内にせり出したソフトプラークを認める。この部分の長軸方向に直交する断面(cross-section像)をみると(図4右)、血管内に多量のプラークが沈着し、血管の内腔が狭小化していることがわかる。


図4 図3と同じ症例。冠動脈を一つの平面に伸ばしたCPR像とその断面像であるcross-section像。図3の黄矢印に対応した部位にはソフトプラークを認め、その断面像であるcross-section像で狭窄を把握できる。

 プラーク性状の判断に関しては、撮影条件により多少異なるが(参考資料2)、CT値が低ければ低いほど、脂質成分に富んだプラークと言えると考えられている。本症例でも、ソフトプラークのCT値は40H.U.程度であり、脂質に富んだプラークの可能性が考えられた。このようなCT値の低い、脂質に富むプラークは破綻して急性冠症候群・急性心筋梗塞になる可能性が高いと考えられている。
 現時点のCTの弱点として、冠動脈CTでは石灰化の強いプラークでは、石灰化周囲が暗く見えてしまうため評価できない(under−shooting)事などが挙げられている。図3で示した症例でも大きな石灰化プラークにより狭窄率の判定が困難な部位もあったが、今後のCTの進歩で克服されることを期待している。
 CTを用いて、冠状動脈の狭窄を正確に把握することができるようになった。しかし、冠動脈が単に狭いからとはいっても、心筋虚血が引き起こされるか、つまり胸痛などの症状の原因となるか判断は難しい。侵襲的に冠動脈内の血圧の変化を測定する(Fractional Flow Reserve)方法もあるが、カテーテルやワイヤーを挿入する際に血管壁を傷つけてしまう可能性は否めない。
 非侵襲的に心筋虚血を評価するにあたり、現時点で最も科学的根拠が豊富なのは心筋シンチグラフィである(その他にもMRIや負荷エコーなどもあり、行われている)。心筋シンチグラフィで広範囲の虚血が認められた場合、薬物療法に加え、カテーテルインターベンション(主にカテーテルを用いて、狭窄部位を風船で膨らませ、ステントを留置する手技)を行う意義があり、生命予後を改善できる(より長生き出来る)ことが、1万人を超える患者を対象にした臨床研究(参考資料3)をはじめ、多くの研究で明らかとなった。逆に言えば、広範囲な心筋虚血が証明されないとカテーテルインターベンションを行う意義が少ないという訳である。
 CTでも心筋虚血評価の試みはなされているが、2010年の時点では、心筋シンチグラフィの科学的根拠を超えることはできていない。ただし、心筋シンチグラフィは、検査の時間がかかる、救急患者への対応は難しいなどという欠点がある(詳細は別レコードを参照されたい)。確かに現時点でもCTのみですべてがわかるわけではなく、多角的な面から狭心症の診断・治療を行う必要がある(参考資料4)ものの、短時間に冠動脈の狭窄評価ができる冠動脈CTの有用性は高く、普及してきたともいえる。

コメント    :
 冠動脈CTが普及し、狭心症が疑われる患者の診断に非常に有用な道具となってきた。しかし、現時点でもCTのみですべてがわかるわけではなく、多角的な面から狭心症の診断・治療を行う必要があるものの、狭心症の診断における冠動脈CTの役割は一層大きくなっていくものと考えられる。

参考資料1 Reference 1:
心臓血管疾患のMDCTとMRI 
栗林幸夫、佐久間肇
慶應義塾大学、三重大学
心臓血管疾患のMDCTとMRI

参考資料2 Reference 2:
Imaging of coronary atherosclerosis by computed tomography
Stephan Achenbach1* and Paolo Raggi**
*Department of Cardiology,University of Erlangen,Ulmenweg 18,91054 Erlangen,Germany;**Emory Cardiac Imaging Center,Emory University School of Medicine,1365 Clifton Road NE,AT-504,Atlanta,GA 30322,USA
European Heart Journal (2010) 31,1442-1448

参考資料3 Reference 3:
Comparison of the Short-Term Survival Benefit Associated With Revascularization Compared With Medical Therapy in Patients With No Prior Coronary Artery Disease Undergoing Stress Myocardial Perfusion Single Photon Emission Computed Tomography
Rory Hachamovitch,Sean W.Hayes,John D.Friedman,Ishac Cohen,Daniel S.Berman
Dr Hachamovitch is presently at the Cardiovascular Division,Department of Medicine,Keck School of Medicine,University of Southern California,Los Angeles.
Cedars-Sinai Medical Center,University of California Los Angeles School of Medicine,Los Angeles,Calif.
Circulation.2003;107:2900-2906

参考資料4 Reference 4:
冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008年度合同研究班報告)
日本循環器学会
Circulation Journal Vol.73,Suppl.III,2009 1019-1089

キーワード:冠動脈CT、狭心症、動脈硬化、プラーク、石灰化プラーク、脂質に富んだプラーク、診断、心筋虚血、
Cardiac CT,Angina pectoris,Atherosclerosis,plaque,calcified plaque,lipid rich plaque,diagnosis,cardiac ischemia
分類コード:030102,030401,030301

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