作成: 1997/08/08 武部 雅汎
データ番号 :040080
イメージングプレートによる放射線画像
目的 :輝尽発光を利用した高感度放射線分布の計測と応用
放射線の種別 :エックス線,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,重イオン
放射線源 :60Co線源(200Ci)、241Am線源(100Ci)
フルエンス(率):1x109/cm2・s(60Co), 3x106/cm2・s(241Am), 1x109/cm2・s(重イオン)
利用施設名 :東北大Co-60照射室、日本原子力研究所高崎研究所AVFサイクロトロン
照射条件 :室温、大気中
応用分野 :表面汚染検査、X,ガンマ線放射線画像、中性子放射線画像、自然放射能分布計測
概要 :
輝尽発光体を用いた放射線検出器(イメージングプレート)は2次元放射線分布計測器として、高い感度、広い測定範囲、高い空間分解能などの特長を有する。また、殆どあらゆる種類の放射線に感度を有すること、測定できる放射線のエネルギー範囲が広い事が知られ、線種弁別方法も種々提案されている。しかし放射線照射後の時間とともに輝尽発光強度が減衰するなどの欠点を残し、定量的計測に問題を抱えている。
詳細説明 :
輝尽発光体はある波長範囲の光を受けると電子をFセンターに捕獲する。次に第一の波長より長い波長の光で刺激すると捕獲された電子が伝導体に励起され正孔と再結合し、特定の波長で発光する。富士写真フィルム工業と化成オプトニクスによって開発された輝尽発光体BaFBr:Eu2+はほぼ可視光領域の光刺激により、390nm付近で発光する。この発光メカニズムについてはすでに明らかにされ、図1のようなエネルギーレベル図が発表されている。
図1 BaFBr:Eu2+輝尽性蛍光体の輝尽発光メカニズム。実線と破線はそれぞれ放射線情報のメモリ過程と読み出し過程を示す。(原論文2より引用)
この発光体は放射線にも感度を有し、第一の刺激光と同様に電子を捕獲し記憶する。これに第二の光(市販の装置ではHe-Neレーザー633nmの光)で刺激すると390nmで発光する。この光を計測することで放射線強度分布を知ることができる。これがイメージングプレート(IP)である。その特長の一つは感度が従来から使用されてきたX線フィルムと比較すると2桁程度高い。その理由は、(1)X線フィルムではフィルムベースの着色等によりS字特性を有するが、IPではそれがない。(2)X線フィルムでは保存期間中受けた自然放射線によるバックグラウンドノイズは蓄積するが、IPでは使用直前に消去できる。(3)フィルムでは銀塩結晶を独立分散させる必要があるが、IPでは結晶を密度高く詰め込むことができる等である。またX線フィルムでは計測可能強度範囲がおおよそ3桁程度であるが、IPは5桁の範囲で線量と比例している。この広い測定範囲と高い感度を有するため森氏らは野菜などに含まれる極微量自然放射能の分布画像を得ることに成功している。また森氏らは種々の放射線に対する感度を標準線源を用いて比較している。
読み取り装置BAS2000(富士写真フィルム工業)による結果を表1に示す。
表1 各種放射線に対する感度.(原論文3より引用。 (社)応用物理学会及び著者のご承認に基づき、武部 雅汎、応用物理第65巻, 601-607 (1996)、表19 (Data source 3, pp.603)から転載したものです。)
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IP感度
Average(PSL)intensity per single incidence at an exposure time of 1h
(PSL/particle)
α-ray Am-241 0.245±0.032
β-ray Sr-90(Y-90) 0.148±0.005
Ca-137 0.107±0.014
Pm-147 0.032±0.001
C-14 0.012±0.001
BAS2000によるdata
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ここで用いているPSL強度は市販計測器に表示される輝尽発光の信号強度であって物理量としては明らかではない。
さらに、IPの特長として、ほとんどあらゆる放射線に感度を有することが確認されている。すなわちα線、β線、γ線、電子線、陽子、酸素、炭素、ネオン、アルゴン、クリプトンなどの重イオン荷電粒子線、それにコンバーターを使って中性子も可能である。また最近はGdなどを輝尽発光体に混ぜた中性子画像用のIPも開発されている。そのほかIPは電子顕微鏡、X線回折にも利用されている。
表面保護層の無いIPも開発され、トリチウムでラベルしたオ−トラジオグラフィには不可欠の手段となっている。表面保護層のある通常のIPでも450nm付近から短い光にも感度を有するが、保護層のない物は更に紫外線領域まで感度があり、エキシマレーザーなどのビーム内強度分布計測等にも応用されている。
また、画像を読み取るのに化学操作を必要とせず、ただちにデジタル画像として計算機処理ができる点も有用である。しかし致命的な問題は放射線照射後その信号強度が時間とともに減衰し、特に温度が高いとその減衰が大きいことである。
また、現在市販計測器は放射線の線種弁別ができないいわば白黒画像であるが、これに線種弁別機能を付加しようとする試みがいくつか提案されている。放射線画像を計測する際に、吸収体を挟んで、その減衰から線種を知る方法、画像読み取りの際、線種によって2次、3次の読み取り信号強度が異なることを利用するなどがある。その他IPには空間分解能を上げる目的で青い色に着色してあるものがあるが、この色素の光吸収効果で、図2のように線種により励起スペクトル(読み出し光による輝尽発光強度分布)に違いが現れる。
図2 各種放射線の励起スペクトル.(原論文3より引用。 (社)応用物理学会及び著者のご承認に基づき、武部 雅汎、応用物理第65巻, 601-607 (1996)、図9 (Data source 3, pp.606)から転載したものです。)
このスペクトルの違いを利用する試みもある。このスペクトルの違いは混入色素の光吸収により波長によって読み出せるIPの深さが異なることを利用しているもので、線種のみに現れるのではなく、同一線種であればエネルギーの違いを示すことも明らかにされている。
コメント :
放射線の2次元分布を計測する手段としては、従来にない利点を多く有する技術であるが、記憶信号量が時間減衰する重大な欠点がある。この点に関しては現在改良が進められている。また線種弁別、エネルギー計測の可能性も有するので、これらが加わればさらに有用な手段となる。例えば、中性子画像でγ線の妨害を低減できる。またエネルギー弁別が利用できれば、オートラジオグラフィーで同時2標識画像などが可能となる。またこの輝尽発光体は蛍光体としてもZnSと同程度に発光し、減衰時間も700nsと速く、輝尽発光と併用することでさらに多くの利用が考えられる。
原論文1 Data source 1:
自然放射能の花 ーイメージングプレートによる測定ー
森 千鶴夫、小井土 伸吾、鈴木 智博、宮原 諄二、高橋 健治
名古屋大学工学部 〒464-01 名古屋市千種区不老町、富士写真フィルム 〒258 神奈川県足柄郡開成町宮野台 798
Radioisotopes, 44, 433-439 (1995)
原論文2 Data source 2:
イメージングプレートとその応用
宮原 諄二
富士写真フィルム 〒258 神奈川県足柄郡開成町宮野台 798
固体物理, vol.30, 72-78 (1995)
原論文3 Data source 3:
放射線計測器としてのイメージングプレート
武部 雅汎
東北大学工学部 〒980-77 仙台市青葉区荒巻
応用物理, vol.65, 601-607 (1996)
キーワード:イメージングプレート、輝尽発光、放射線検出器、自然放射能、粒子弁別
imaging plate, photostimulated luminescence, radiation detector, natural
radioactivity, particle discrimination
分類コード:040301, 040302, 040303