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作成: 1998/11/16 山内 良麿
データ番号 :040124
カリフォルニウム252 中性子源
目的 :カリフォルニウム252中性子源による中性子の発生とその応用
放射線の種別 :中性子,重イオン
放射線源 :カリフォルニウム252 中性子源
フルエンス(率):8.6x104/s
線量(率) :3x10-12Gy/s
利用施設名 :ルーカスハイツ研究所、ベティス原子力研究所、ギーセン大学放射線研究所、エルランゲンニュールンベルク大学物理学研究所
照射条件 :大気中
応用分野 :放射線計測、放射線物理、核医学
概要 :
252Cfは有用な中性子源で、その中性子スペクトルはほぼマクスウエル分布になリ、中性子標準断面積として利用される。ここでは温度パラメーター、核分裂片あたりの平均の放出中性子数、分裂片の平均の質量、エネルギー等の中性子源としての特性についての概略とその利用法の一例を述べる。
詳細説明 :
最近カリフォルニウム252(252Cf)が中性子源として利用されるようになってきた。252Cfは原子番号98で半減期2.65yの元素で、238U等からの多重中性子捕獲によって作られる。252Cfは、235U等が入射粒子によって核分裂を起こすのに対して、それ自体で自発核分裂を起こして、中性子を発生させる。252Cfからの中性子スペクトルは近似的にマクスウエル分布 N(E)∝E1/2exp(-E/T) に従うことが知られている。ここでTは温度パラメーターであって、平均エネルギーに関係する量で 〜1.4MeVの値をとる。
ルーカスハイツ研究所のJ.W.Boldmanらは、252Cfの自発核分裂に伴う核分裂片と放出中性子を同時に計測して、飛行時間法により252Cfからの中性子スペクトルを0.124-15.0MeVのエネルギー範囲で測定した。中性子検出器は0.124-0.266MeVのエネルギー領域では6Liグラスシンチレーターを、1.0-15.0MeV領域はNE102プラスチックシンチレーターを用いた。この測定の結果はT=1.42MeVであった。
図1に1.0-10.0MeVのエネルギー範囲での中性子エネルギーに対する252Cfからの中性子スペクトルの実験値とマクスウエル分布との比を示す。この図からマクスウエル分布との比が 〜1になっていることが明らかである。
これに先立ち、ウエステイングハウスのベティス原子力研究所のL.Greenらも同様に252Cfからの中性子スペクトルの測定を行い、T=1.406MeVを得ている。ここでは中性子エネルギーの較正には、252Cfからの中性子を用いて炭素の全断面積の測定を行い、既知の鋭い共鳴ピークエネルギーをエネルギー標準として用いた(原論文2)。
図1 Corrected experimental data from experiment 7 relative to a Maxwellian distribution with T=1.42 MeV.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from Nucl. Sci. Engin., vol.93, 181-192 (1986), J.W.Boldman et al., Figure 10 (Data source 1, pp.188), Copyright (1986) by American Nuclear Society, La Grange Park, Illinois, USA.)
252Cfの核分裂の特性である分裂片質量に対する放出中性子の数、中性子放出前と後での分裂片質量、エネルギー、速度等のデータについては、ギーセン大学放射線研究所の報告がある。核分裂による中性子放出数を知るには核分裂片の速度とエネルギーの同時測定をすることが必要であり、2つの核分裂片の飛行時間とエネルギーをそれぞれ表面障壁型検出器で測定した。中性子は加速された分裂片から等方的に蒸発するので、初めの分裂片の平均の速度は見かけ上中性子放出によって変わらないという考え方のもとで、質量保存の法則と運動量保存の法則から分裂片からの放出中性子の数を求めた。その結果、軽い方の分裂片の平均の質量とエネルギーはそれぞれ106.16amuと102.54MeVで、重い方の分裂片の平均の質量とエネルギーはそれぞれ142.17amuと78.68MeVであった。
図2は、初めに或質量を持つ分裂片が平均何個の中性子を放出するかを示したものである。分裂片の質量が120amuと160amu付近で中性子の放出数が大きくなり、〜4個が放出されることが分かる。
図2 Prompt neutron number ν vs primary mass m* of fragment. The present results (○) are compared to direct neutron counting experiments[22-25].(原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., vol.190 (1981) 125-134, H.Henschel, A.KohnleE, H.Hipp, G.Gonnenwein: Absolute Measurement of Velocities, Masses and Energies of Fission Fragments from Californium-252(SF), Figure 2 (Data source 3, pp.132), Copyright (1981), with permission from Elsevier Science,Oxford,England.)
252Cfの核分裂片とその放出中性子の同時測定をすることによって、加速器を用いることなく中性子の飛行時間法による測定が可能である。応用例の一つとしてエルランゲンニュールンベルク大学のJ.Cubらは、8.6x104/sの核分裂を起こす252Cf中性子源を用いて、直径53mm、厚さ101mmのNE213中性子検出器の検出効率を0.8-13.0MeVの範囲で測定した。
図3に中性子エネルギーに対する検出効率の測定結果を示す。飛行距離3m、210hの測定時間では、測定精度は8MeV以下のエネルギー範囲で3%であった。
図3 Evaluated neutron efficiency for a NE213 detector and Monte Carlo simulation multiplied by 1.05 (solid line). The error bars contain statistical uncertainties only.(原論文4より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.A274 (1989) 217-221, J.Cub, E.Finckh, K.Gebhardt, K.Geissdorfer, R.Lin and J.Strate, The Neutron Detection Efficiency of NE213 Detections Measured by Means of a 252Cf Source, Figure 10 (Data source 4, pp.220), Copyright (1989), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)
コメント :
252Cfは、他のRI中性子源と異なり、特に飛行時間法による中性子測定が可能な点が大きな特徴であり、利点である。使用に当たっては、中性子スペクトルがほぼマクスウエル分布に従うので、高いエネルギー側では中性子強度が指数関数で急激に低下することを十分考慮する必要がある。
原論文1 Data source 1:
Measurements of the Prompt Fission Neutron Spectrum from the Spontaneous Fission of 252Cf
J.W.Boldman, B.E.Clancy, and D.Culley
Australian Atomic Energy Commission Research Establishment, Lucas Heights Research Laboratories, Private Mail Bag, Sutherland, NSW 2232, Australia
Nuclear Science and Engineering, vol.93, 181-192 (1986)
原論文2 Data source 2:
The Californium-252 Fission Neutron Spectrum from 0.5 to 13 MeV
L.Green, J.A.Mitchell, and N.M.Steen
Bettis Atomic Power Laboratory, Westinghouse Electric Corporation, West Miffin, Pennsylvania 15122, USA
Nuclear Science and Engineering, vol.50, 257-272 (1973)
原論文3 Data source 3:
Absolute Meeasurement of Velocities, Masses and Energies of Fission Fragments from Californium-252(SF)
H.Henschel*, A.KohnleE2*), H.Hipp2*) and G.Gonnenwein2*)
*)Strahlenzentrum der Universitat Giessen, Giessen, Fed. Rep. Germany. 2*)Physikal. Institut der Universitat Tubingen, Tubingen, Fed. Rep. Germany
Nuclear Instruments and Methods, vol.190 (1981) 125-134
原論文4 Data source 4:
The Neutron Detection Efficiency of NE213 Detections Measured by Means of a 252Cf Source
J.Cub, E.Finckh, K.Gebhardt, K.Geissdorfer, R.Lin and J.Strate
Physikalisches Institut, Universitat Erlangen-Nurnberg, Erwin Rommel Str. 1, D-8520 Erlangen, FRG
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A274 (1989) 217-221
キーワード:カリフォルニウム252、中性子源、自発核分裂、核分裂片、標準中性子スペクトル
californium 252, neutron source, spontaneous fission, fission fragment,standard neutron spectrum
分類コード:040205, 040301, 040302
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