放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/10/22 内田 博

データ番号   :040172
ポジトロンCT(PET)に使用されるシンチレータ
目的      :ポジトロンCT(PET)に使用されるシンチレータの要求特性及び主なシンチレータ
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子
放射線源    :11C(L-Met.:185-1480MBq), 13N(NH3:18-370MBq), 15O(H2O:11-37MBq), 18F(FDG:11-37MBq)
線量(率)   :11C(32μGy/MBq), 13N(13μGy/MBq), 15O(4.3μGy/MBq), 18F(115μGy/MBq)
利用施設名   :放射線医学総合研究所、京都大学医学部など全国にある約30ヶ所のポジトロン核医学施設
応用分野    :核医学診断、薬物動態研究、放射線計測

概要      :
 PET (Positron Emission Tomography)装置において、感度や高速性の観点から固体シンチレーション検出器が採用されている。そのシンチレータ特性として、検出効率が高いこと、発光量が多くかつ蛍光減衰時間が短いこと、加工性が良いこと、さらに価格が安いこと等、ほとんど全てに渡って優れた特性が要求されている。ここでは、PETで使用されてきた主な5つのシンチレータについて紹介する。

詳細説明    :
 PET装置においては、比較的エネルギーの高いガンマ線(消滅ガンマ線:511keV)が同時計数により検出されるため、感度が高くかつ高速性が得られるシンチレーション検出器が採用されてきた。検出器特性には、高計数率特性や偶発同時計数ノイズ除去のための高い時間分解能が要求され、さらに体内からの散乱線除去のためエネルギー分解能が良いことも望まれる。
 そこで、これらの要求を満たすシンチレータとして、検出効率の点から密度が高く原子番号が大きい(光電吸収比が高いこと)こと、高速性や高エネルギー分解能の点より発光量が多く蛍光減衰時間の短いことが望まれる。また、近年のシステムでは多層化・高分解能化により多量のシンチレータを微細で細長い形状のものを稠密に並べる必要から、取り扱い易さ、加工性、さらには価格も重要な選定要因となっている。
 表1にPET用検出器に用いられている代表的なシンチレータの特性を示す。

表1 PET用検出器に使用される主なシンチレータの物理特性
================================================================================
                          NaI:Tl      BGO        GSO         LSO       BaF2
                                   Bi4Ge3O12  Gd2(SiO4)O  Lu2(SiO4)O
--------------------------------------------------------------------------------
Density (g/cm3)            3.67      7.13        6.71       7.35       4.89
Effective atomic no.        51        75          59         66         54
Radiation length (cm)      3.07      1.13        1.5        1.23       2.05
Relative light yield       100        15          20         72        5/26
Decay time (nsec)          230      60/300      60/600       40       0.8/620
Peak wavelength (mm)       410       480         430        420       220/320
Refractive index           1.85      2.15        1.85       1.82       1.49
Melting point (℃)         651       1050        1900       2150       1280
Hygroscopic                Yes        No          No          No      (Slight)
================================================================================
 NaI:Tlは、発光量が多く比較的安価なため、シンチレーション検出器に最も一般的に使用されている。1975年に初めてワシントン大学で製作されたPETのプロトタイプにはNaI:Tlが用いられた。その後市販用PETにも採用されたが、低い検出器感度や潮解性による取り扱いにくさからその後はBGOに取って代わられた。しかし、近年普及型PET 装置としてPET/SPECTが実用化されつつあり、再びこの分野での利用が復活した。
 BGO(Bi4Ge3O12)は、発光量がNaI:Tlの8%(現在は改良され15%)と低いが、非常に重いため同時計数時の検出感度としてはNaI:Tlに比べ十倍で、潮解性もなく加工し易い利点も持ち、PETの高感度・高分解能化を可能にした。ちなみに、開発当初、装置の空間分解能は約20mmであったが現在では3mm以下の装置も開発されている。1979年にモントリオール神経研究所でBGOを用いた初めてのPETが製作され、現在では性能向上と価格低下もあり市販されているほとんどの装置でBGOが採用されている。
 GSO:Ce(Gd2(SiO4)O:Ce)は、我が国で開発されたもので、BGOと比べ検出感度ではやや劣るが、発光量(20%)が多く減衰時間(60nsec)が短いことから、PET用検出器として期待された。しかし、価格が高いことや時間分解能がそれほど改善できないことからPETにはほとんど採用されなかった。
 LSO:Ce(Lu2(SiO4)O:Ce)は、最近開発されたもので、GSOのGdを Luに置き換えたものである。発光量(75%)が多く、減衰時間(40nsec)も短く、しかも検出効率の点からもBGOとほとんど遜色なく非常に優れたシンチレータである。しかし、発光量の温度依存性が非常に大きいこと、均一な特性の結晶を製造することが難しいこと等、まだ開発途上とも考えられる。最大の問題はLuが希少物質のためGSOよりさらに高価なことである。現在、UCLA大学で開発された小動物用高解像力PETにのみ用いられている。なお、その優れた特性を利用してDOI(Depth-of-Interaction)検出器への応用開発が活発に行われている。
 BaF2は、紫外部(220nm)に非常に早い成分(0.6nsec)が存在するため、高速の検出器が可能である。この高速性を用い飛行時間差を利用したTOF-PET(Time of Flight PET)に採用された。しかし、得られた時間分解能は400psec程度(位置分解能に換算して6cmほど)であったため、直接イメージングに時間情報を使用するに至らず、信号対雑音比や計数率特性向上を目的として使われた。しかし、BaF2はBGOに比較して検出効率が悪いため、解像力や感度特性が低く、現在はほとんどTOF-PETの開発は行われていない。最近、高速の光電子増倍管の開発やシンチレータ形状の工夫により、時間分解能160psecの検出器プローブが開発され、これをアレイ状にして対向配置した簡易型イメージング装置が開発されている。

コメント    :
 現在PETは、これまでの高機能を要する脳機能解明などの研究分野での利用の一方、癌診断のような一般臨床分野での利用が普及しようとしており、それぞれの分野に合った装置及びシンチレータの開発が不可欠のように思われる。また、新たにDOIという新しい検出器開発が始まり、シンチレータ自身の特性改良ばかりでなく、シンチレータの幾何学構造やその組み合わせ等にも工夫が凝らされるようになり、シンチレータの成形加工/研磨技術、アレイの組み立て技術、反射材、光学結合剤など素材の開発も今後重要なキーテクノロジーと考えられる。

原論文1 Data source 1:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィー 1.原理と概要
野原 功全
放射線医学総合研究所 263-8555 千葉市稲毛区穴川4-9-1
Radioisotopes, vol. 42, p. 189-198 (1993).

参考資料1 Reference 1:
Cerium-doped Lutetium Oxyorthosilicate: A Fast, Efficient New Scintillator
C.L.Melcher and J.S.Schweitzer
Schlimberger-Doll Research, Old Quarry Rd., Ridgefield, CT 06877-4108
IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. NS-39, p. 502-505 (1992).

参考資料2 Reference 2:
Advantages and Limitation of LSO Scintillator in Nuclear Physics Experiments
Moszynski T., Ludziejewski K., Moszynska D., Wolski, et al.,
Soltan Institute for Nuclear Studies, PL 05-400 Swierk-Otwock, Poland
IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. NS-42, p. 328-336 (1995).

参考資料3 Reference 3:
Optimization of the Lead-tungstate Crystal / Photodetector System for High-energy physics
G.Yu.Drobyshev, A.A.Fyodorov, M.V.Korzhik, O.V.Misevich, et al.,
Institute for Nuclear Problems, Minsk, Belarus
IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. NS-42, p. 341-344 (1995).

参考資料4 Reference 4:
Precision Crystal Calorimetry in Future High Energy Colliders
R.Zhu
California Institute of Technology, Pasadena, CA 91125
IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. NS-44, p. 468-476 (1997).

参考資料5 Reference 5:
Investigation of GSO, LSO and YSO Scintillators using Reverse Avalanche Photodiodes
R.Lecomte, C.Pepin, D.Rouleau, A.Saoudi, et al.,
Department of Nuclear Medicine and Radiobiology, Universite de Sherbrooke, Sherbrooke, Quebec, Canad
IEEE Trans. NSS/MIC, vol. NS-44, p. 274-279 (1997).

参考資料6 Reference 6:
LualO3:Ce - A High Density, High Speed Scintillator for Gamma Detection
W.W.Moses, S.E.Derenzo, et al.,
Lawrence Barkley Laboratory, University of California, Berkeley, CA 94720
IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. NS-42, p. 275-279 (1995).

参考資料7 Reference 7:
Development of Ce doped Gd5SiO5 Scintillator for Use inγ-ray Derectors
H.Ishibashi, et al.
Tsukuba Research Lab., Hitachi Chemical Co., Ltd.
Hitachi Chemical Co., Ltd., Technical report, No.8 (1987-1).

参考資料8 Reference 8:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィー 2.最近の装置と検出器
山下 貴司
浜松ホトニクス(株)中央研究所, 434-8601 浜北市平口5000
Radioisotopes, vol. 42, p. 237-243 (1993).

参考資料9 Reference 9:
最近のポジトロン・エミッション・トモグラフィ(PET)
村山 秀雄
放射線医学総合研究所 263-8555 千葉市稲毛区穴川4-9-1
放射線, vol. 24, No. 2 (1998).

キーワード:シンチレータ、ヨウ化ナトリウム、ビスマスジャーマナイト、ゲルマニュウムサルファイト、ルテシュウムサルファイト、フッ化バリウム、ポジトロン、消滅ガンマ線、同時計数、ガンマ線検出器、ポジトロン・エミッション・トモグラフィ
scintillator, NaI, BGO, GSO, LSO, BaF2, positron, annihilation gamma-rays, coincidence counting, gamma-detector, positron emission tomography
分類コード:030301, 030403, 040304

放射線利用技術データベースのメインページへ