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作成: 1999/12/11 鹿野 弘二

データ番号   :040194
サイクロトロンによる荷電粒子放射化分析
目的      :荷電粒子放射化分析による高純度材料中の極微量軽元素定量法の開発
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子,軽イオン
放射線源    :サイクロトロン(陽子7MeVと16MeV, 50μA, 重陽子8MeV, 20μA, 3He 21MeV, 10μA)
利用施設名   :NTT茨城研究開発センタ放射線施設 超小型サイクロトロン
照射条件    :前面をHeガス冷却、背面を水または液体窒素で間接冷却
応用分野    :材料科学

概要      :
 サイクロトロンを利用した荷電粒子放射化分析法は中性子放射化分析法で定量が困難なホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)などの軽元素の定量が可能である。数10μAの荷電粒子照射を可能にするとともに、軽元素から生成した13N、11C、18Fに対し除染係数が108以上で分離時間2半減期以内の不足当量分離法を開発し、sub-ppbレベルの軽元素分析を可能にするとともに、高純度化ニオブならびに鉄中のこれら4軽元素の定量に応用した。

詳細説明    :
 荷電粒子放射化分析法はサイクロトロンなどで加速した陽子(p)、重陽子(d)、ヘリウム-3(3He)を試料に照射し、軽元素の荷電粒子反応で生成する13N、11C、18Fの放射能を測定することによりこれら軽元素を定量する方法であり、半導体結晶など高純度材料中の極微量軽元素分析法の一つである。ここに紹介する研究では、生成する比放射能量の1桁以上の向上、共存元素からの妨害の評価、さらにより高い除染係数を有する迅速な化学分離の開発などの課題を検討し、sub-ppbレベルの正確な軽元素分析を可能にした。
 サイクロトロンで加速した7または16MeVのp、8MeVのdおよび21MeVの3Heをアルミニウム箔などで所定のエネルギーに減衰し、試料に照射する。照射電流値、照射時間はそれぞれ数〜数10μA、10〜30分である。試料は荷電粒子ビーム( < 10φ)が確実に照射されるサイズで、荷電粒子の飛程(〜0.1mm)より厚いことが必要とされ、通常20x20mm2、厚さ0.5〜1mmの板状のものが用いられる。比較標準試料には純度99.9%のホウ素焼結体、黒鉛、窒化ケイ素、溶融石英を用い、電流値0.5〜1μAで数分間荷電粒子を照射した。照射後、表面汚染を除去するため試料表面から約20μmを化学エッチした。
 表1に定量に用いる主な核反応と生成核種の核的性質を示す。13N、11C、18Fは半減期が約10〜110minで、いずれも陽電子崩壊し消滅γ線(511keV)を2本放出するため、二つの検出器からなる同時計数装置により放射能の経時変化を測定し、目的核種であることを確認のうえ放射能強度を求めた。非破壊分析にはエネルギー分解能の高いGe検出器とNaI(Tl)検出器を、また、マトリックスからの妨害放射能が大きく13N、11C、18Fの化学分離を併用する破壊分析ではNaI検出器に比べてより高い検出効率を持つBGO検出器を用いて同時計数を行った。
 軽元素濃度(Cx)は次式により算出した。
   Cx = (Ax/As)(Is/Ix)(Ss/Sx) F
ここで、Aは放射能強度、Iは照射電流値、Sは飽和係数であり、x, sはそれぞれ分析および比較標準試料を表す。また、Fは分析試料と比較標準試料に対する荷電粒子の阻止能の違いを補正する項で、F値を算出するための種々の近似法が提案されている(参考資料1に詳しい)。ここでは、励起関数と阻止能の数値積分の比を用いる数値積分(NI)法、飛程の比を用いる平均断面積(ACS)法を用いた。NI法が正確であるが、ACS法は励起関数が不明な核反応に対応できる点で優れている。

表1 Nuclear reactions and nuclear data.(原論文1より引用。 Reprinted, with permission of the copyrighter and the authors, from J. Radioanal. Nucl. Chem. Articles, vol.167, No.1, 81 (1993), K.Shikano et al., Table 1 (Data source 1, pp.84), Copyright (1993) by Akademiai Kiado.)
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Nuclear Reaction        Half-life         Decay mode        Q-value
                           (min)                              (MeV)
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10B(d,n)11C         20.38      β+        6.47
12C(d,n)13N                9.96            β+               -0.28
14N(p,α)11C              20.38            β+               -2.92
16O(3He,p)18F            109.6             β+                2.03
------------------------------------------------------------------------
54Fe(d,α)52mMn           21.1             β+, IT            4.79
61Ni(d,n)62Cu              9.74            β+, EC            3.64
135Ba(d,n)136La            9.87             EC, β+           3.23
177Hf(d,n)178Ta            9.31             EC, β+           2.39
------------------------------------------------------------------------
11B(p,n)11C               20.38            β+               -2.77
144Sm(p,α)141Pm          20.9             β+, EC            3.37
------------------------------------------------------------------------
23Na(3He,2α)18F          109.6             β+               -0.32
178Hf(3He,2n)177W         135                EC, β+          -6.06
180W(3He,2n)181O          105                EC, β+      -7.43
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図1 Thick target yields for 13N, 11C and 18F.(原論文1より引用。 Reprinted, with permission of the copyrighter and the authors, from J. Radioanal. Nucl. Chem. Articles, vol.167, No.1,81 (1993), K.Shikano et al., Figure 2 (Data source 1, pp.83), Copyright (1993) by Akademiai Kiado.)

 感度を向上させるには照射電流値を上げて生成放射能を増加させる必要があるが、発熱が問題となる。そこで、照射電流値に対する試料温度の測定を行い、冷却効果の検討が行われた。試料前面をヘリウムガスを吹きつけて、背面を液体窒素または水で冷却することにより、8MeVのdを20μA照射しても発熱を500℃以下に抑えることができ、照射中に試料が溶融、損傷することがないことを明らかにした。
 図1は、定量に用いる核反応で生成する13N、11C、18FのThick target yieldである。図に示したように生成量は照射エネルギーの増大にともない増加し、1μAの照射(破線)で107〜108Bq/minに達する。また、電流値が1桁以上高い10μAならびに20μAの照射(実線)では、いずれも電流値に比例した生成量が得られた。酸素の検出限界として、15MeVの3Heを1μAで1半減期照射した場合に18Fが100dpm生成する酸素濃度として定義すると、3ppbとなる。さらに、照射電流値を10μAにするとppb以下の酸素が検出できることになる。
 同じ核種が、他の元素から生成し、妨害となる場合と半減期が近いために妨害となる例として、重陽子照射でのホウ素、炭素を定量する際の妨害反応(表1の1,2段目)、陽子照射での窒素を定量する際の妨害反応(3段目)、3He照射での酸素を定量する際の妨害反応(4段目)を示した。化学分離をしない場合には、半減期が近いだけで妨害となるので注意が必要である。
 妨害を補正するには、あらかじめ妨害核反応の生成量を測定し、共存元素濃度を中性子放射化分析など他分析法で定量し補正する必要がある。例えば、共存するBはNとともにp照射により11Cを生成しN分析の妨害となるが、d照射でBを定量しBの寄与分を補正することで、正確なN分析が可能となる。しかし、妨害放射能が大きい場合や軽元素濃度が低い場合には13N、11C、18Fを化学分離する必要がある。ここでは、NH3またはH2SiF6としての水蒸気蒸留およびCO2としての前分離とNH4(TPB)*(*Tetraphenylborate)、BaCO3、 LaF3としての不足当量沈殿分離を組み合わせた化学分離法を開発した。本分離法は分離時間が2半減期以内で、除染係数が108以上である。


図2 Analytical results for boron, carbon, nitrogen and oxygen in niobium metal refined by the floating zone melting method.(原論文1より引用。 Reprinted, with permission of the copyrighter and the authors, from J. Radioanal. Nucl. Chem. Articles, vol.167, No.1,81 (1993), K.Shikano et al., Figure 3 (Data source 1, pp.86), Copyright (1993) by Akademiai Kiado.)

 本法を超高真空電子ビーム浮遊帯域溶融法で精製したNbならびに酸素分析用に高真空高周波誘導加熱により精製した高純度鉄中の4軽元素の定量に応用した。高純度化Nbについては、まずd照射によりB、Cを同時に非破壊分析、続いてp照射によりNを非破壊分析した後、3He照射により酸素を破壊分析した。結果を図2に示す。精製回数が増加すると軽元素濃度が減少し、本精製法が軽元素の低減に有効であることが示された。一方、高純度化鉄については、表1に示したように鉄から生成する52mMnの半減期が11Cとほぼ同じで非破壊分析の妨害となるため、まずd照射によりCを非破壊分析、つづいてp照射によりNを非破壊分析後、3He照射によりOを破壊分析した。ここで、3Heの飛程分だけ試料を溶解し、その後d照射によりBを破壊分析した。その結果O(1〜5ppm)、N(6〜16ppm)、C(50〜390ppm)、B(1〜3ppm)が相対誤差1〜8%で再現性良く定量された。

コメント    :
 本分析法はB, C, N, Oなどの軽元素の高感度分析に最適である。照射後、表面エッチングにより表面汚染を除去することでそれ以後の目的元素の汚染は定量誤差にはならないため、正確な軽元素の定量が可能となる。開発した化学分離法は13N、11C、18Fが生成する核反応に使用できるため、他の放射化分析にも利用できる。本分析法は、上記軽元素以外の元素の分析も可能であるが、リチウムを除けば、中性子放射化分析、光量子放射化分析に比べ、感度や阻止能の補正の必要性の点で劣る。
 なお、荷電粒子反応では標的核種と原子番号が異なる放射性元素を生成できるため、無担体の放射性元素(RI)を製造可能であり、RI添加法による希釈分析が可能である。

原論文1 Data source 1:
Charged particle activation analysis of light elements at sub-ppb level
K.Shikano, H.Yonezawa, T.Shigematsu
NTT Interdisciplinary Research Laboratories
J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 167, No. 1, 81-88 (1993)

原論文2 Data source 2:
不足当量及び機器的/荷電粒子放射化分析による高純度鉄中の酸素、窒素、炭素及びホウ素の定量
重松 俊男、鹿野 弘二、米沢 洋樹
日本電信電話(株) フォトニクス研究所
Bunseki Kagaku, Vol. 48, No. 9, 823-828 (1999)

参考資料1 Reference 1:
The determination of light elements by charged particle activation analysis
J.Hoste, C.Vandecasteele, K.Strijckmans
Institute of Nuclear Sciences, State University of Ghent
Isotopenpaxis, Vol. 24, No. 2, 49-55 (1988)

キーワード:サイクロトロン、荷電粒子放射化分析、軽元素、不足当量分離、高純度材料、トレースキャラクタリゼーション
cyclotron, charged particle activation analysis, light element, substoichiometric separation, high-purity materials, trace characterization
分類コード:040101, 040301, 040404

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