放射線利用技術データベースのメインページへ
作成: 2000/09/21 山内 良麿
データ番号 :040216
加速器質量分析法による放射性核種の半減期の測定
目的 :加速器質量分析法の半減期測定への応用
放射線の種別 :重イオン,ベータ線,ガンマ線
放射線源 :タンデム加速器
利用施設名 :ANL FNタンデム加速器、ロチェスター大学MPタンデム加速器、PSIタンデム加速器
照射条件 :真空中
応用分野 :核物理、放射線計測、考古学、年代測定
概要 :
放射性核種の半減期の測定には、崩壊する核の数と核の崩壊の割合を知ることが必要になるが、崩壊する核の数の測定に近年開発された加速器質量分析の技術が応用され、精度の高い測定が可能になった。60Fe,32Siおよび44Tiの半減期測定に加速器質量分析法を応用した結果、得られた半減期はそれぞれ1.49x106y, 108yおよび54.2yであった。
詳細説明 :
宇宙線によってつくられた放射性核種は水文学、考古学、地球物理学、海洋学、宇宙化学等の研究分野で年代測定に多く利用される。これまでこれらの放射性核種は、宇宙線束が長期間にわたってほぼ一定であるという仮定の基に、極地での氷殻の深さの関数としてその固有放射能を測定することによって調べられた。核の半減期を測るためには、崩壊する核の数Nと核の崩壊の割合dN/dtとの間の関係式 dN/dt=-λN (λは崩壊定数)を利用する。ここで一番の問題は試料中の放射性核種の核の数Nを正確に知ることである。これまでの半減期の測定では放射性核種の核の数の評価は核反応生成断面積についての仮定に基づいて行われた。近年、重イオン検出器を備えたタンデム加速器による加速器質量分析法(AMS;accelerator mass spectrometry) が開発され、ごく微量の核種の検出が可能になった。このAMSと放射線測定技術を原子核の半減期の測定に応用することによって半減期測定の精度が著しく向上した。
60Feの半減期の値は、天体物理学上の問題にとって重要であることから、ANL(Argonne National Laboratory) のW.Kutschera らは、ANLのFNタンデム超伝導ライナックを用いたAMSにより、半減期の測定を行った。60Fe試料は、BLIP(Brookhaven Linac Isotope Producer)の191MeV 陽子をCuに照射して核破砕反応によって得られたものである。図1に測定に用いたAMSの概略を示す。
図1 Schematic layout of the accelerator system used for the 60Fe/Fe ratio measurements. For #1 run (360MeV) the charge state sequence 1-(ion source)→10+(stripper#1)→19+(stripper#2)→21+(Al foil stack) was used. For runs #2 and #3 the sequence 1-→9+→18+→20+ was used.(原論文1より引用。 Reproduced from W.Kutchera, P.J.Billquist, D.Frekers, W.Henning, K.J.Jensen, M.Xiuzeng, R.Pardo, M.Paul, K.E.Rehm, and J.L.Yntema, Nucl. Instr. Methods in Physics Research, B5 (1984) 430-435, Figure 2(Data Source 1, pp.432), Copyright(1984), with permission from Elsevier Science.)
60Fe 核の崩壊の割合は、60Feのベータ崩壊によって生ずる60Co から発生する1.332MeV ガンマ線の測定から求めた。図2に、60Fe の崩壊の図式を示す。このようにして測定した60Fe の半減期は 1.49x106y であった。これは以前の測定値1x105yと1桁異なる値である。
図2 Decay scheme of 60Fe. Except for the new half-life value of 60Fe all data are taken from ref.[14].(原論文1より引用。 Reproduced from W.Kutchera, P.J.Billquist, D.Frekers, W.Henning, K.J.Jensen, M.Xiuzeng, R.Pardo, M.Paul, K.E.Rehm, and J.L.Yntema, Nucl. Instr. Methods in Physics Research, B5 (1984) 430-435, Figure 1(Data Source 1, pp.430), Copyright(1984), with permission from Elsevier Science.)
32Siは大気中においてArから宇宙線による核破砕反応によってつくられるが、半減期はこれまで地下水、極地の氷殻や海水において研究され、32Siの半減期は250から710yにわたっていた。D.Elmoreらは、52MeV 陽子による 核破砕反応によってClからつくられた32Si について、ロチェスター大学 MPタンデム加速器を用いたAMSによって試料中の32Si核の数を求め、32Si→32P→32Sのベータ崩壊系列における32Pからのベータ線を検出することによって、32Si核の半減期を測定し、108yを得た。またH.J.Hofmannらは、PSI(Paul Scherrer Institute) の加速器と原子炉を使って、37Cl(p,2pα)32Si 反応と 31P(n,γ)32P(n,p)32Si 反応の二つの異なる方法によって32Siをつくり、タンデム加速器を用いたAMSによって32Siの半減期を測定した。加速された32Si を検出する際に、加速される粒子の質量Mと電荷qの比 M/q が同じである粒子は、全て検出器に到達し、この場合特に32Sが32Si の大きなバックグラウンドになる。加速粒子の検出にはガスカウンターテレスコープが用いられたが、エネルギーEとエネルギーロスΔE信号から粒子識別が行われた。ΔE-E 2次元表示による32Si 識別の様子を、図3に示す。このようにして得た32Siの半減期は133yであった
図3 (a) Example of a ΔE/ER spectrum with 32Si and 32S. The arrow indicates the direction of view in b. (b) Enlarged three-dimensional cut through a.(原論文3より引用。 Reproduced from J.Hofmann, G.Bonani, M.Suter, W.Wolfli, D.Zimmermann, H.R.Gunten, Nucl. Instr. Methods in Physics Research, B52(3/4), (1984) 544-551, Figure 3(Data Source 3, pp.547), Copyright(1990), with permission from Elsevier Science.)
比較的短い半減期のものとして、ANLのD.Frekersらは44Tiを測定している。44Tiはユーリッヒ研究センターのアイソクロナス サイクロトロンからの45MeV 陽子を用いて45Sc(p,2n)44Ti 反応でつくり、44Tiの半減期をANLのFNタンデム加速器を用いてAMSにより測定した。44Tiは軌道電子捕獲によって44Scに崩壊し、続いてポジトロン放出により44Caに崩壊する。この44Ca からの1.157MeV ガンマ線をGe(Li) 検出器で検出して核の崩壊の割合を求め、44Tiの半減期として54.2yを得た。
コメント :
微量の核種が検出できる加速器質量分析法と放射線測定技術を放射性核種の半減期の測定に応用することにより、放射性核種の半減期の測定精度が向上した。しかしながら、同じ加速器質量分析法を用いても、32Siについては異なる実験施設での測定結果には108yと133yのようにばらつきがある。今後、加速器質量分析と微量放射線測定の技術の一層の向上が望まれる。
原論文1 Data source 1:
Half-Life of 60Fe
W.Kutchera, P.J.Billquist, D.Frekers, W.Henning, K.J.Jensen, M.Xiuzeng, R.Pardo, M.Paul, K.E.Rehm, R.K.Smither, and J.L.Yntema
Argonne National Laboratory, Argonne, IL. 60439, USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B5 (1984) 430-435
原論文2 Data source 2:
Half-Life of 32Si from Tandem-Accelerator Mass Spectrometry
D.Elmore, N.Anantaraman, H.W.Fulbright, H.E.Gove and H.S.Hans
Nuclear Structure Research Laboratory, University of Rochester, Rochester, New York 14627
Physical Review Letters, 45 (1980) 589-592
原論文3 Data source 3:
A new determination of the half-life of 32Si
H.J.Hofmann, G.Bonani, M.Suter, W.Wolfli, D.Zimmermann1*), and H.R.Gunten1*)
Institute fur Mittelenergiephysik, ETH-Honggerberg, CH-8093 Zurich, Switzerland, 1*) Laboratory fur Radiochemie, Vniversitat Bern, CH-3000 Bern.
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B52, (1990) 544-551.
原論文4 Data source 4:
Half-life of 44Ti
D.Frekers, W.Henning, W.Kutschera, K.E.Rehm, R.K.Smither and J.L.Yntema
Argonne National Laboratory, Argonne, Illinois 60439
Physical Review, C28, (1983) 1756-1762
キーワード:宇宙線、放射性核種、地球物理学、考古学、年代測定、半減期、加速器質量分析法、
cosmic-ray, radionuclide, geophysics, archaeology, dating, half life, accelerator mass spectrometry
分類コード:040101, 040204, 040301
放射線利用技術データベースのメインページへ