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作成: 2000/10/10 河内清光

データ番号   :040220
臨界事故時における被ばく線量評価
目的      :JCO臨界事故における大線量被ばく者の線量評価
放射線の種別  :アルファ線,ベータ線,ガンマ線,中性子
放射線源    :硝酸ウラニル溶液
線量(率)   :2-20GyEq
応用分野    :緊急被ばく医療、保健物理、

概要      :
 1999年9月に発生した臨界事故において、発生現場近傍で大線量を被ばくした3人の被ばく線量推定を行った。患者はウラン核燃料の臨界により発生した中性子とγ線を被ばくしたもので、主として体内のナトリウムの放射化を計測することで線量評価が行われた。一方、被ばく者の臨床症状、血液成分の変化、並びに染色体分析による線量評価も併せて、検討された。その結果、3人の被ばく線量は、2〜20 Gyを超える範囲にあった。

詳細説明    :
 1999年9月30日に東海村のJCOウラン核燃料加工工場で臨界事故が発生し、現場で作業していた3人の従業員が大量に被ばくした。放医研では、第3次医療機関として被ばくした従業員を受け入れ、治療と線量評価を行った。以下は、線量評価に関わる概要である。ただし、今回の線量評価の問題点は、中性子線とγ線の混在場で大線量を被ばくしたことである。急性期症状の評価は、従来、γ線のGy 値に対する臨床症状が基準になるため、中性子線を被ばくした際の効果を配慮する必要があった。そのため、中性子線の生物学的効果を考慮して、生物学的γ線相当線量としてGyEq値で評価した。Sv値の線量は、確率的影響を考慮したものであって、今回の大線量を被ばくした急性期症状を予測するには適切でないと考えたためである。
初期の対応は、被ばく者の搬送に供された、ヘリコプターおよび救急車の放射能汚染検査が行われ、汚染のないことが確認されている。被ばく者については、搬送中の「嘔吐物」から大量の24Naによるγ線が検出された。並行して、作業服や下着類、携帯電話、時計、コインなどの所持品の放射線検査が行われ、被ばく者の鼻孔スメア試料、バイオアッセイ、血液、および尿試料などの計測が行われた。
 一連の測定から、放射線は身体の放射化による核種からなるものが主で、ウランや固体元素の核分裂生成物はないか、あっても極めて少ないと推定され、内部被ばくは外部被ばくに比べて、3桁程度小さいと推定された。また、下着や毛髪の測定から存在が明らかとなった91Sr, 140Ba, 140La等は、核分裂生成物により発生した希ガス91Kr, 140Xe等に由来する核種と同定された。
 事故後間もない時点では、中性子のスペクトルや、被ばく者と沈殿槽との位置関係、あるいは中性子線とγ線の混在比率は不明であったため、1997年6月17日にロシアのSarovで発生した臨界事故に関するIAEAの被ばく線量換算から、被ばく者の血液の放射化275 Bq/mlが約14 Gyに相当することを踏まえて、吸収線量Gy を推定した。一方、医学上の所見であるリンパ球の減少程度から、UNSCEAR 1988 Report に基づいて、1人は約3〜5 Gyの被ばくを、他の2人は約8 Gyを超える被ばくを受けたと推定された。
 今回は大量の中性子被ばくのあることから、急性の被ばく影響評価に当たってはBe(d, n)反応で発生した平均14 MeVの中性子源を使ったマウス全身照射実験から、腸管死に対するγ線との生物効果比に関する知見に基づいてRBEを1.7とし、3人の被ばく者の生物学的γ線相当線量は18, 10, 2.5 GyEqと推定した。その後の染色体やリンパ球の測定、ホールボディカウンタ、その他のデータを考慮に入れて、3名の従業員の線量は10〜20, 6〜10, 0.7〜5.5 GyEqと幅を持たせた値に修正した。
 多くの試料の測定データや現場調査に基づいて、核分裂数や中性子フルエンスが算定され、中性子とγ線の比率も算定された。その結果、より信頼度の高い線量値が求められ、3名の従業員の血液成分(主としてリンパ球数)の変化による評価では16〜23, 6〜8, 2 GyEq、染色体分析では、20〜22, 6〜8, 2〜3 GyEq、血液中の24Naの計測値から(中性子線量、γ線量)はそれぞれ(5.5, 8.5), (2.9, 4.5), (0.81, 1.3)Gyとなり、中性子に対するRBE の値を1.7とすると、生物学的γ線相当線量は17.8, 9.3, 2.6 GyEqとなる。また、ヒューマンカウンタによる人の測定は1人だけが可能で、2.0 GyEqであった。したがって、3名の全身被ばく線量としては、16〜23, 6〜10, 2〜3 GyEq の範囲にあるといえる。

コメント    :
 今回の被ばくで大線量の2人は線源に近かすぎて、不均等被ばくを受けており、一概に線量を決めることはできない。3次元的な線量分布評価のために、計算シミュレーションや臨界実験装置を用いた実測、さらには臨床症状とも対応させた、より精度の高い線量評価が必要である。

原論文1 Data source 1:
ウラン加工工場臨界事故患者の線量推定(中間報告書)
河内清光、藤元憲三編
放射線医学総合研究所
放医研報告書, NIRS-M-138

キーワード:臨界事故、中性子、放射化、ナトリウム-24、
criticality accident, neutron exposure, activation, sodium-24
分類コード:040301,040302,040402

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