放射線利用技術データベースのメインページへ
作成: 2000/10/27 工藤久昭
データ番号 :040230
超重元素
目的 :超重元素の合成
放射線の種別 :アルファ線,重イオン
放射線源 :線形加速器(4.912MeV/u,3x1012 70Zn ions/s)、サイクロトロン(459MeV,1.9x1012 86Kr ion/s)サイクロトロン(235MeV,4x1012 48Ca ion/s)サイクロトロン(236MeV,4x1012 48Ca ion/s)
利用施設名 :ドイツ重イオン研究所(GSI)、米国ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)、ロシア合同原子核研究所(JINR)
概要 :
約30年前に理論的に予測された超重元素の領域に近い、112、114、118番元素の合成が報告された。112と118番元素は208Pbを標的とするcold fusion反応、114番元素は48Caビームにより242,244Puを標的として合成され、α崩壊系列の時系列で測定された。
詳細説明 :
超重元素は約30年前に理論的に予測され、特に原子番号114、中性子数184を持つ原子核は二重閉核構造をもっており、非常に安定に存在するだろうと予想されていた。最近、その予想を裏付けるような重い元素の合成が相次いで報告された。
重い原子核は、合成の際ほとんど核分裂をしてしまうので、できるだけ励起エネルギーの小さくなるような核反応を利用した方が、重核として生き残る確率が増える(冷たい核融合 cold fusion)。ドイツの重イオン研究所(GSI)では、結合エネルギーの大きい二重閉核構造の208Pb(Z=82、 N=126)と70Znを反応させて、112番元素を合成した。大強度のビームで照射されても発熱で溶けないように、標的は回転するようになっている。核反応で標的から反跳して飛び出してきた生成物は、電場と磁場を利用した速度フィルター型の反跳分離装置(SHIP)により、入射重イオンならびにその散乱粒子から効率よく短時間で分離される。目的の核反応生成物はビームと分離された後、飛行時間測定のための薄い炭素膜を通過し、位置感応型Si検出器に埋め込まれ、生成物からのα壊変系列を時系列で測定できるようになっている。277112が検出器に到着した後、280マイクロ秒経過して11.45 MeVのα線を放出し273110となり、その後連続したα壊変の後、既知の261Rfを生成する過程が1事象観測された。その後、同様の系列がもう1事象が確認され、半減期として240マイクロ秒、反応断面積1ピコバーンという値を得ている。わずか2個の原子核の壊変に基づく112番元素確認の貴重な実験である。
アメリカのローレンス・バークレイ国立研究所(LBNL)から報告された118番元素も同じくcold fusion反応で合成された。ここでは入射重イオンとして86Krを、標的として208Pbを用いている。実験は、ガス充填型反跳分離装置(BGS)を用いている。SHIP同様にin-flightで目的生成物を選択的に分離する装置であるが、特徴は、ヘリウムガス(1 torr)を充填した磁場中に生成物を導くことにより、多くの電荷数を持った生成物は気体分子との衝突で見かけ上平均の電荷を持っているように収束することである。SHIPなどに比べると、散乱粒子などからの分離は良くないが、捕集効率は大きい。分離後、位置感応型Si検出器に埋め込まれ、生成物からのα壊変系列を時系列で測定している。図中に293118からのα壊変連鎖を示すが、連鎖の最後に位置する269Sgがまだ未確認な核種のため本当に293118がα壊変しているかどうかという曖昧さは残っている。
図1 合成が報告されている超アクチノイド元素の核図表。縦軸は原子番号(Z)、横軸は中性子数(N)である。半減期は推定のものもあり、大きな誤差を含んでいる。
安定に存在するであろうと予想されているZ=114、N=184近傍の超重元素は、非常に中性子過剰な領域に位置している。ロシアDubnaのYu.Ts. Oganessianのグループは、48Caという天然にわずか0.187%しか存在せず極めて中性子過剰な原子核を入射ビーム、中性子過剰な超ウラン元素242、244Puを標的にして実験を行い、114番元素を合成した。この場合、先のcold fusionほど小さい励起エネルギーにはならないが、入射重イオンの二重閉殻構造(Z=20、N=28)の影響で、約30 MeV程度の低い励起エネルギーになる。244Pu(48Ca,3n)289114、及び244Pu(48Ca,4n)288114反応では、LBNLと同じタイプのガス充填型質量分離装置(GNS)を、また242Pu(48Ca,3n)287114反応では電場型分離装置(VASSILISSA)を用いている。分離後、同様に位置感応型Si検出器に埋め込まれ、生成物からのα壊変系列を時系列で測定している。図に示すように、112番元素でも114番元素でもN=184に向けて安定性が増していることがわかる。しかし、LBNLのデータと同じく、最終の生成物がやはり未確認な核種のため同定には曖昧さを残している。
コメント :
118番元素については、GSIや理化学研究所でも同じ反応系で追試が行われているが、まだ確認はされていない。また、つい最近、Dubnaで248Cm(48Ca,4n)292116反応により116番元素の合成がなされたとの情報もある。反応断面積が極めて小さいので、現存の加速器と検出器では、1事象の観測に10日以上の実験時間を必要とする非常に難しい実験である。
原論文1 Data source 1:
The new element 112
S.Hofmann1*), V.Ninov1*), F.P.Heβberger1*), P.Armbruster1*), H.Folger1*), G.Munzenberg1*), H.J.Schott1*), A.G.Popeko2*), A.V.Yeremin2*), S.Saro2*), R.Janik2*), M.Leino3*)
1*):Gesellschaft fur Schwerionenforschung, Germany, 2*):Flerov Laboratory of Nuclear Reactions,JINR, Russia,3*):Department of Nuclear Physics, Comenius University,Slovakia, 4*):Department of Physics, University of Jyvaskyla, Finland
Zeitschrift fur Physik, A354, 229-230 (1996)
原論文2 Data source 2:
Observation of Superheavy Nuclei Produced in the Reaction of 86Kr with 208Pb
V.Ninov1*), K.E.Gregorich1*), W.Loveland2*), A.Ghiorso1*), D.C.Hoffman1*,3*)), D.M.Lee1*), H.Nitche1*),3*), W.J.Swiatecki1*), U.W.Kirbach1*), C.A.Laue1*), J.L.Adams1*),3*), J.B.Patin1*),3*), D.A.Shaughnessy1*),3*), D.A.Strellis1*), P.A.Wilk1*),3*)
1*):Nuclear Science Divison, Lawrence Berkeley National Laboratory, USA, 2*):Department of Chemistry, Oregon State University, USA,3*):Department of Chemistry, University of California, USA
Physical Review Letters, 83, 1104-1107 (1999)
原論文3 Data source 3:
Synthesis of nuclei of the superheavy element 114 in the reactions induced by 48Ca
Yu.Ts.Oganessian1*), A.V.Yeremin1*), A.G.Popeko1*), S.L.Bogomolov1*), G.V.Buklanov1*), M.L.Chelnokov1*), V.I.Chepigin1*), B.N.Gikal1*), V.A.Gorshkov1*), G.G.Gulbekian1*), M.G.Itkis1*), A.P.Kabachenko1*), A.Yu.Lavrentev1*), O.N.Malyshev1*), J.Rohac1*). R.N.Sagaidak1*), S.Hofmann2*), S.Saro3*), G.Giardina4*), K.Morita5*)
1*):Flerov Laboratory of Nuclear Reactions,JINR, Rusia, 2*):Gesellschaft fur Schwerionenforschung, Germany,3*):Department of Nuclear Physics, Comenius University,Slovakia, 4*):Dipartimento di Fisica dell'Universita di Messina, Italy, 5*):Institute of Phisical and Chemical Research, Japan
Nature, 400, 242-245 (1999)
原論文4 Data source 4:
Synthesis of Superheavy Nuclei in the 48Ca + 244Pu reaction
Yu.Ts.Oganessian1*), V.K.Utyonko1*), Yu.V.Lobanov1*), F.Sh.Abdullin1*), A.N.Polyakov1*), I.V.Shirokovsky1*), Yu.S.Tsyganov1*), G.G.Gulbekian1*), S.L.Bogomolov1*), B.N.Gikal1*), A.N.Mezentsev1*), S.Iliev1*), V.G.Subbotin1*), A.M.Sukhov1*), G.V.Buklanov1*), K.Subotic1*), M.G.Itkis1*), K.J.Moody2*), J.F.Wild2*), N.J.Stoyer2*), R.W.Lougheed2*)
1*): Flerov Laboratory of Nuclear Reactions,JINR, Russia, 2*): Lawrence Livermore National Laboratory, USA
Physical Review Letters, 83, 3154-3157 (1999)
参考資料1 Reference 1:
The discovery of the heaviest elements
S.Hofmann, G.Munzenberg
Gesellschaft fur Schwerionenforschung, Germany
Review of Modern Physics, 72, 733-767 (2000)
キーワード:超重元素、112番元素、114番元素、118番元素、冷たい核融合、二重閉殻構造、反跳質量分離装置、時系列、位置感応型Si検出器、
superheavy elements、element 112、element 114、element 118、cold fusion、double closed shell、recoil mass separator position、genetic relation、sensitive Si detector
分類コード:040301
放射線利用技術データベースのメインページへ