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作成: 2002/02/28 桝本 和義

データ番号   :040243
放射化箔とイメージングプレートを利用する中性子空間分布の測定
目的      :中性子の空間分布を明らかにするための簡便な測定手法の開発とその応用
放射線の種別  :ベータ線,中性子
放射線源    :加速器(放射化が生じるもの)、中性子源
フルエンス(率):中性子で101/(cm2・s)以上
利用施設名   :サイクロトロン施設、電子加速器施設、中性子照射施設など
照射条件    :加速器室内全域
応用分野    :放射線計測、放射線管理

概要      :
 加速器運転中に発生する中性子は周辺設備や建屋の放射化を引き起こすが、中性子の空間的拡がりについては十分把握されているとは言い難い。そこで、新たな測定手法として、中性子によって放射化される金箔などを加速器室内に多数固定しておき、運転終了後に回収した金箔を平面図に貼り付けイメージングプレートで現像する方法を試みた。この方法によって中性子の空間分布が、簡便、迅速かつ視覚的に把握できることを示した。

詳細説明    :
 
 加速器運転中に発生する中性子は加速器施設の放射化に影響を及ぼすことから、中性子の発生および室内への拡がりを把握しておくことは重要である。これまで、中性子を測定するために中性子モニターが使われてきた。
 
 しかし、刻々変化するフラックスをモニターするには適しているが、設置箇所が限られているため空間的拡がりを知ることはできない。また、フィルムバッジや熱ルミネセンスによってもモニターできるが、数多くの箇所を測定するとなると簡便とは言い難い。
 
 一方、放射化法は金属箔などを設置し、照射された粒子によって生成した放射能を測定し、照射粒子数を求めるものである。これまで、様々なしきい値の異なる核反応を利用して、その放射化量の測定から中性子、荷電粒子、γ線のスペクトルを求めたりする手法として活用されてきた。生成核種と生成量をγ線スペクトロメトリーにより求めることが一般に行われているが、測定に時間がかかり、解析が厄介であるという難点がある。
 
 最近、イメージングプレートがラジオグラフィーにおけるデータ収集、解析に活用されるようになり(参考資料1)、放射線管理の分野においても汚染検査などに応用されてきた。そこで、新たな利用法として放射化箔の放射能測定にイメージングプレートを利用する試みが行われ、中性子の空間分布を求めるうえで非常に有効であることが示された。
 
 測定は次のような手順で行われた。1)放射化箔の設置、2)運転終了後に放射化箔の回収、その際、平面図上に放射化箔を貼り付ける、3)イメージングプレート(富士写真フィルム製BAS-III)と平面図を重ね合わせ露光する、4)イメージスキャナ(富士写真フィルム製BAS-1000)でイメージングプレートに記録された放射線画像を読み込む、5)イメージ画像と平面図を合成する。
 
 まず、加速器室内に厚さ20μmの金箔を運転中設置した場合に、(n,γ)反応で198Auが生成し、その放射能がイメージングプレートで正しく測定できることを調べた。その結果、図1(原論文1)に示すように、イメージスキャナで取り込んだ画像の濃淡(PSL値と呼ばれる)が放射化箔の放射能量と比例すること、PSL値はイメージングプレートと放射化箔の接触時間(露光時間)とも比例関係にあることが確かめられ、PSL値からBqを求める式を得た。なお、放射化箔の放射能はあらかじめ半導体検出器で測定した。


図1 金箔中の198Auの放射能(Bq)と PSL 値の関係


 そこで、実際に東京大学原子核科学センター(旧原子核研究所)のSFサイクロトロン施設で、重陽子30MeVの加速を行った際に金箔を設置した。求められたイメージデータを図2(原論文1)に示す。サイクロトロン室の平面図と重ね合わせたもので、カラーのスポットは金箔の位置を示しており、その放射化量に従って青(102/cm2/sec)から赤(104/cm2/sec)まで変化している。
 
 この結果、サイクロトロンのビーム取出位置を中心に中性子線量が高く、ビーム輸送ラインの壁際では低いことが分かる。約50枚の金箔が5-10分程度の露光で一度に測定することができ、しかも中性子の拡がりを画像によって直感的に把握できる。また、1枚だけベクレル値を校正しておけば、個々の放射化箔のPSL値からベクレル値が全て求まり、さらには運転中の平均中性子束を求めることができる。ビームラインにそって天井から床まで糸を垂らし、等間隔に金箔を貼り付けたものを同様に測定し、垂直分布を求めることも試みられ、3次元的な拡がりが明らかになった。


図2 重陽子 30 MeV 加速時に加速器室内に発生した中性子の空間分布


 この他、カドミウム箔でカバーしたものとしないものを同時に照射することで、室内の各位置でのカドミウム比の変化を求めることができ、アルミニウム箔中に(n,α)反応で生成した24Naを検出すれば速中性子のモニタリングにも利用できると思われる。
 
 また、このようなモニタリングを加速器の運転中に実施しておくことによって、施設設備や建屋の放射化を下げるための効果的な遮蔽法やビーム輸送法の検討が行えるようになることが期待される。

コメント    :
 測定法が非常に簡便であること、得られる情報が視覚的で一般の理解を得やすいことから、中性子伝播挙動を解析する手法としてだけでなく、放射線管理上も大いに活用できると思われる。

原論文1 Data source 1:
Combined use of an activation detector and an imaging analyzer for measuring the spatial-distribution of neutron fluence in an accelerator building
Akihiro TOYODA, Kazuyoshi MASUMOTO, Kazuyoshi EDA, Toyoyuki ISHIHARA
High Energy Accelerator Research Organization
Proc. of IRPA-10, 06A-331(2000), KEK Preprint 99-190, March 2000

原論文2 Data source 2:
加速器施設における放射化量評価の試み(I)
豊田晃弘、江田和由、桝本和義
高エネルギー加速器研究機構
第36回 理工学における同位元素研究発表会(東京、1999) 要旨集 p.143.

キーワード:加速器、中性子、放射化、イメージングプレート、放射化検出器、空間分布、IP
accelerator, neutron, activation, imaging plate, activation detector,spatial distribution、IP
分類コード:040103, 040205, 040301, 040302

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