フィルムバッジ

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 2001/10/21 前越　久データ番号　　　：040264 フィルムバッジ目的　　　　　　：放射線従事者の被ばく線量管理放射線の種別　　：エックス線,ベータ線,ガンマ線,中性子概要　　　　　　：　フィルムバッジは管理区域内で放射線取り扱い業務を行う放射線業務従事者の被ばく線量を連続モニターし記録するために用いられる。詳細説明　　　　：　　管理区域内で放射線取り扱い業務を行う放射線業務従事者は、法令により一定期間内に被ばくする実効線量限度が定められている。フィルムバッジは作業中に被ばくする放射線を連続モニターし記録できる測定器である。従って、この測定値を監視していれば、上記の線量限度の判定に役立つ。放射線業務従事者の被ばく線量には体内被ばくによるものと、体外被ばくによるものがある。放射線業務従事の被ばくを職業被ばくといい、医療被ばく、公衆被ばくと区別している。　　フィルムバッジは体外被ばくを測定する測定器である。遮光紙で包装されたフィルム（バッジフィルム）をバッジケースに装填したものを、放射線業務従事者の胸(主として男子)又は腹部(主として女子)などにフィルムバッジとして装着して使用する。着用期間は、1週間あるいは1ヶ月間というように事業所によって随時選択する。実際の使用においては定期的にバッジフィルムを交換して、測定サービス機関に送り返して測定結果の報告を受ける。バッジフィルムは現像処理後、フィルムの黒化度から線量、実効エネルギーを読みとり被ばく線量を算出する。種々のフィルターを内蔵したバッジケースの選択によりX線、γ線、β線、中性子線が測定できる。　〈フィルムバッジの構造〉　　 (1) バッジフィルム(X・γ線用フィルム) 　　測定する線量範囲を拡大させるため、遮光用パックの中に、感度の異なるフィルムが2ないし3枚入っている。である。すなわち、感度の異なるA(1.0)、B(～1/6)、C(～1/60)、(( )内の数値は相対感度を示す)の3つのタイプのフィルムが入っているものを広範囲用バッジフィルム(日本工業規格：JIS K7559)といい、B、Cの2つのタイプが入っているものをX線用バッジフィルム(JIS K7557)という。乳剤は、AgBr(分子量187.7、淡黄色、食塩形結晶、比重6.417)を良質のゼラチンに懸濁させたもので、結晶粒子の大きさは0.1～数μm、乳剤層の厚さは5～15μmである。粒子の大きいものほど感度は高い。A及びBフィルムは、乳剤がフィルム支持体の両面に塗布されており、Cフィルムは片面に塗布されている。　 (2)バッジフィルム(速中性子用フィルム) 　　NTAフィルム(Neutron film Type A)米国コダック社製アルミ箔複合材で防湿包装し、酸素を除去するために、不活性ガスを封入している。フィルム乳剤は原子核写真乳剤で、細かいAgBr粒子(0.3μm)を含み、乳剤層の厚さは約30μmである。NTAフィルムはバッジケースの中へγ線用フィルムと重ねて挿入できるという利点がある。現像処理により乳剤中で中性子により発生した反跳陽子による飛跡が観測されるので、これを光学顕微鏡下でカウントすれば中性子フルエンスに換算できる。実際上は、0.4～0.5MeV以上の中性子が測定対象になる。Cdフィルターによる捕獲γ線を利用した、熱中性子線測定用フィルムバッジもある。　 (3)バッジケース　　乳剤中のAgBrは高エネルギーあるいは低エネルギーX線、γ線に対して吸収率が異なるため、同じ線量が照射されても、現像後のフィルムの黒化度が同一にならない。この点を解決する測定技術を、バッジケースは備えていなければならない。バッジケースは図1、表1に示すような材質、厚さの異なる種々のフィルターが組み込まれた表裏一体となっており、遮光紙でパックされたフィルムを両側からサンドイッチ状にはさんでいる。バッジケースより入射する放射線はフィルターと相互作用を起こし、放射線の種類、エネルギー、線量を変化させることになる。何種類かのフィルター後の写真濃度の違いを利用して、入射する放射線の種類とエネルギーを判定し、線量を算出できる。これは次の線量当量(単位：シーベルト(Sv))算出にも必要不可欠のデータとなる。図2は、別会社のフィルムバッジの構造を示す。図1　千代田保安用品KK(現、千代田テクノル社)製フィルムバッジの構造（参考資料1より引用。　）表1　広範囲用バッジケースⅠ型のフィルタ構成(図1に対応)（参考資料1より引用。　） ------------------------------------------------------------------ 記　　　　　　　　　　　用途 ^* ^* 位置名称材料と厚さ(mm) 号 P B T ------------------------------------------------------------------ 1 オープンウインドウ OW no filter ○ ------------------------------------------------------------------ 2 プラスティック1 P1 P1 0.5 ○ ------------------------------------------------------------------ 3 プラスティック2 P2 P1 1.5 　　 ○ ○ ------------------------------------------------------------------ 4 プラスティック3 P3 P1 3.0 ○ ------------------------------------------------------------------ 5 アルミニウム AI AI 0.6＋P1 2.4 　 ○　 ------------------------------------------------------------------ 6 銅 Cu Cu 0.3＋P1 2.7 　　 ○ ------------------------------------------------------------------ 7 スズ Sn Sn0.8＋Pd0.4＋P1 1.8 ○　　○ ------------------------------------------------------------------ 8 カドミウム Cd Cd0.8＋Pb0.4＋P1 1.8 　　 ○ ------------------------------------------------------------------ * P1はplasticを意味します。 ** フィルタの測定用途を示す。 Pは光子用、Bはβ線用、Tは熱中性子用図2　長瀬ランダウア社製フィルムバッジの構造（原論文1より引用。　） (4)線量当量の算出　　JIS Z 4301-1997 にフィルムバッジの測定値から線量当量への算出方法には、線量特性、エネルギー特性、潜像退行特性、方向特性、線量当量算出式を用いている。　 (5)フィルムバッジのエネルギー適用範囲：日本工業規格(JIS)の規定を以下に記す。　 X線用フィルムバッジ(Z 4301-1997)：実効エネルギー 20～80 keVのX線と、エネルギー20～80 keVのγ線　 γ線及び硬X線用フィルムバッジ(Z 4302-1997)：実効エネルギー 0.3～3MeVのX線と、エネルギー 0.3～3MeVのγ線　広範囲用フィルムバッジ(Z 4323-1997)：実効エネルギー20keV～3MeVのX線と、エネルギー20keV～3MeVのγ線及び熱中性子、残留最大エネルギー 0.5～3MeVのβ線　屋内環境用フィルムバッジ(Z4335-1993)：実効エネルギー 20keV～3MeVのX線と, エネルギー 20keV～3MeVのγ線及び熱中性子　高速中性子用フィルムバッジ(Z 4510-1997)：エネルギー0.5～15MeVの高速中性子コメント　　　　：　　最近では銀資源の枯渇と現像処理液の廃液による環境汚染を防止する観点からフィルムバッジは1999年を境に全国的に使用されなくなっている。現在はフィルムバッジに代わってガラス線量計又はOSL線量計(Optically Stimulation Luminescence)が個人モニタリング線量計として使用されるようになった。原論文１ Data source 1：日本における最近の個人線量計の環境について小林育夫日本写真学会誌、64巻、2号、126-132,2001. 参考資料１ Reference 1：藤田　稔個人線量計　技術説明書(千代田保安用品KK測定センター)1993 キーワード：実効線量限度、放射線業務従事者、速中性子、熱中性子、線量当量、硬X線、職業被ばく、管理区域 effective dose limits, radiation workers, fast neutron, thermal neutron, dose equivalent, hard X rays (high energy X rays), occupational expose, controlled area 分類コード：040107, 040207, 040302
放射線利用技術データベースのメインページへ