作成: 1997/08/01 井上 信
データ番号 :049001
放射線源としての加速器
目的 :原子炉・加速器線源(中分類)を解説
概要 :
1、加速器とそのエネルギーの意味
2、法的な使用規制と日本の加速器の数および利用分野
3、加速器の種類と分類
4、加速粒子・エネルギーと対応する加速器
5、大型加速器利用の最前線
詳細説明 :
1、加速器とそのエネルギーの意味
:[加速器]:は、より正確には粒子加速器(Particle Accelerator)といい、電子やイオンのような電気を帯びた粒子を電場を用いて高速に加速する装置である。 1個の電子、或いは同量の正電荷を帯びたイオン(1価のイオン)を1ボルトの電位差のあるところで加速した結果、得られる粒子のエネルギーを1eV(電子ボルト)という。性能としての加速器のエネルギーというときも、加速される1個の粒子のエネルギーをいい、加速される粒子ビームのパワー(電力)では表さない。したがってビーム量(電流)1mAの電子ビームを1MeVまで加速する装置と、1μAの電子ビームを1GeVまで加速する装置とでは、ビームパワーはともに1kWとなり同じであるが、1GeVの装置の方が高エネルギーの加速器(1GeVの加速器)であるという。
2、法的な使用規制と日本の加速器の数および利用分野
加速されたビームそれ自身も、またこのビームが物質に衝突して二次的に出る粒子やガンマ線なども放射線となるので、加速器は放射線発生装置として法的に使用が規制されており、科学技術庁の許可がなければ使用できない。ただし、1MeV以下の電子加速器や、加速器の表面から規定値以上の放射線を発生しないものは法的規制の範囲外である。なお、法的に放射線発生装置とならないものでもX線発生装置として管理の対象になるものは多いので注意が必要である。
現在、日本にある放射線発生装置として認められている加速器は、表1および図1のように約1000台ある。その6割は病院に設置されている電子:[線形加速器]:(法律では直線加速装置という)である。
表1 日本の放射線発生装置の利用台数(平成8年3月末日現在)(参考資料1より引用)
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装置の種類 総数(構成比%) 医療機関 教育機関 研究機関 民間企業 その他の機関
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総数 1035 657 53 161 158 6
(構成比%) (100) (63.5) (5.1) (15.6) (15.3) (0.6)
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サイクロトロン 53( 5.1) 16 - 18 18 1
シンクロトロン 25( 2.4) - 1 19 5 -
シンクロ
サイクロトロン -( 0.0) - - - - -
直線加速装置 736(71.1) 608 6 43 76 3
ベータトロン 16( 1.5) 11 1 1 3 -
ファン・デ・
グラーフ加速装置 54( 5.2) - 15 28 11 -
コッククロフト・
ワルトン加速装置 97( 9.4) - 27 32 36 2
変圧器型加速装置 25( 2.4) - 1 19 5 -
マイクロトロン 28( 2.7) 22 2 - 4 -
プラズマ発生装置 1( 0.1) - - 1 - -
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図1 放射線発生装置の構成比(平成8年3月末日現在)(参考資料1より引用)
また、法的には放射線発生装置とならない、:[微量元素]:の:[分析装置]:や、半導体製造に使われる:[イオン注入]:装置、工業用のエネルギーの低い電子:[照射装置]:なども加速器の応用としては重要である。
加速器は原子核の発見とともに開発され、原子核や素粒子の研究のために発達してきたが、このように現在では多くの分野での利用が進んでいる。
3、加速器の種類と分類
加速器の種類としては、法的には、直流の高電圧を発生させて加速するものとして、:[ファン・デ・グラーフ]:加速装置、:[コッククロフト・ワルトン]:加速装置および:[変圧器]:型加速装置がある。また、時間的に変化する電場を利用するものとしては、高周波電場を直線状に並ぶように発生させて繰り返し加速する:[直線加速装置]:、磁束の変化に誘導されて発生する電場を利用して加速しつつ時間的に変化する磁場で粒子を一定半径の円形軌道に束縛する:[ベータトロン]:、加速用の高周波電場と円形軌道にするための直流磁場を組み合わせた:[マイクロトロン]:、:[サイクロトロン]:および:[シンクロサイクロトロン]:、さらに高周波電場と時間的に変化する磁場を組み合わせた:[シンクロトロン]:などが列挙されているが、現在使われてないものや加速器の専門家の呼び方とは違うものもある。
最も数の多い直線加速装置(Linear Accelerator)は一般には:[線形加速器]:またはリニアックといわれることが多い。ただし、英語での省略形はLinac(リナック)である。 :[ファン・デ・グラーフ]:は静電気による高電圧発生を利用するものであるが、最近これと同じ種類のものとしてはペレトロンといわれるものが多くなってきている。これら静電加速器および:[コッククロフト・ワルトン型]:などの直流電圧を使う加速器では、タンデム方式という、粒子エネルギー増倍法を利用するものが増えてきており、これらは単に:[タンデム]:と呼ばれることもある。
また、:[シンクロサイクロトロン]:は発明当初の:[サイクロトロン]:のエネルギーの限界を克服するため、:[シンクロトロン]:と同じ原理を応用して作られたが、ビーム量が少ない。現在では、その後開発された:[AVFサイクロトロン]:にとってかわられている。日本でも過去に1台あったが今はない。
4、加速粒子・エネルギーと対応する加速器
加速される粒子の種類とエネルギーとの関係では、:[ファン・デ・グラーフ]:加速装置、:[コッククロフト・ワルトン]:加速装置、:[変圧器型加速装置]:は電子にもイオンにも使われる10MeV以下の低エネルギーの加速器である。イオン用の:[タンデム]:型については数十MeVのものもある。
数十MeVから1GeVまでの中エネルギーでは、電子専用の加速器として、:[ベータトロン]:、:[マイクロトロン]:があるが、線形加速器ほど多く使われない。一方、:[サイクロトロン]:は中エネルギーのイオン加速器の代表である。:[線形加速器]:は電子・イオンともに使われる中エネルギーの加速器で、ビーム量(電流)の大きい(大強度)加速器にしたいときには線形加速器を採用することが多い。
1GeV以上の高エネルギーの加速器は電子・イオンともに:[シンクロトロン]:になる。なおシンクロトロンは単独では低エネルギーから粒子を加速できないので前段加速器として線形加速器がよく使われる。
この数十年間、加速できる粒子のエネルギーが加速器の進歩とともに高くなってきた。その様子を図2に示す。このような図は1960年代にリビングストンが最初に示したのでリビングストンチャートという。
図2 加速器の進歩と到達エネルギー
5、大型加速器利用の最前線
さらに、高エネルギーの物理実験では、相対論的な効果のため、粒子ビームのエネルギーを有効に使うには、静止した標的に高速の粒子を当てるより、高速の粒子同士を正面衝突させた方が、はるかに有利であるということがあり、互いに逆向きに加速したビームを衝突させる、いわゆる:[衝突]:型の加速器が使われる。日本には高エネルギー加速器研究機構にトリスタンと呼ばれる衝突型加速器がある。
:[シンクロトロン]:では、高速の荷電粒子が磁場で曲げられ円形の軌道を描いているが、軌道が曲げられるときに粒子のエネルギーが電磁波になって失われるという現象がある。この現象を:[シンクロトロン放射]:(:[SR]:)という。特に電子は、イオンにくらべて非常に軽いので、簡単に高速になり、光の速度とほとんど等しくなる。このような高エネルギーの電子シンクロトロンにおけるSRは、非常に高輝度な赤外線からX線に至る光(電磁波)の放射になる。したがって、これをX線や紫外線の高輝度光源として使う、いわゆる放射光専用の加速器が作られるようになった。日本には世界最大の放射光施設 :[SPring-8]:がある。
しかし、放射光を出すことは、加速器としては効率を下げることになるので、非常に高いエネルギーの電子の加速器としては、高価であってもビームを曲げる磁場を必要としない線形加速器を使うことになる。さらに、このビームを正面衝突させる、いわゆる:[リニアコライダー]:が高エネルギー物理学の最前線の計画として検討されている。
一方、イオンの加速器の最近の利用法として注目されているのは、ガンの粒子線治療である。イオンで治療すると電子加速器からの光子による治療にくらべ、腫瘍部に集中的に照射効果を与えることができ、外科手術をしないで治療できる。日本には放射線医学総合研究所にガン治療専用の重イオンシンクロトロン:[HIMAC]:がある。最近各地で、より小型の:[陽子線]:治療用加速器の建設も進んでいる。
このほか、大電流の:[陽子加速器]:で中性子を発生させ:[研究用原子炉]:にかわる中性子源とすることや、使用済み核燃料を処理すること、さらに核燃料と組み合わせて安全なエネルギー発生装置とすることなどが進められている。日本でも原子力研究所などで計画がある。
参考資料1 Reference 1:
放射線利用統計
科学技術庁原子力安全局編集
財団法人日本アイソト−プ協会1996年発行、p.8
キーワード:
分類コード:040198