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作成: 1998/12/11 中村 一隆

データ番号   :110005
シリコンの表面酸化反応によって生成したSiO分子の多光子イオン化検出
目的      :シリコン表面酸化反応ダイナミクスの解明
研究実施機関名 :科学技術庁金属材料技術研究所第2研究グループ
応用分野    :表面反応研究、半導体表面処理

概要      :
 シリコン表面酸化反応による生成する気相SiO分子を多光子イオン化法および飛行時間型質量分析を用いて測定した。酸素分子の表面吸着とSiO分子生成に比較的長いインダクション時間が存在することを見出した。SiO分子の生成に関する酸素分子密度依存性は非線形であることを見出した。
 

詳細説明    :
 シリコン表面酸化反応は半導体デバイス作成過程における非常に重要なプロセスである。シリコンと酸素との反応は低温・高酸素圧力状態では表面の酸化膜生成を起こす(パッシブ酸化反応)。これに対して高温・低酸素圧力下では膜生成は起こらず、気相へのSiO分子の放出が起こる(アクティブ酸化反応)。パッシブ酸化反応はこれまでに多く研究されているが、一方のアクティブ酸化反応に関する研究はほとんど無い。
 
 本研究では酸素圧力10-6〜10-4Paの低圧力下におけるシリコン表面酸化反応(アクティブ酸化反応)によって生成するSiO分子を多光子イオン化法および飛行時間型質量分析を用いて測定した。
 
 図1に装置図を示す。シリコンと酸素分子との反応は超高真空チャンバー(到達真空度10-7Pa以下)の中で行った。実験に用いたシリコン基板はp型Si(111)ウェハーで、厚さ380μmのものである。シリコン基板は3軸の自由度を持つマニュピュレータに取り付け、直接通電加熱により温度制御した。多光子イオン化はナノ秒パルスYAGレーザーの4倍波の光(266nm)をエネルギー約7mJ/pulseで行った。レーザーは集光距離350mmの石英ガラスレンズを用いてシリコン結晶基板上5cmの所に集光した。酸素ガスは直径1mmの導入パイプを通してシリコン基板上2cmのところから吹き付けた。飛行時間型質量分析器の飛行距離は約1mである。飛行管はリフレクトロン型を用い、高分解の質量分析が可能である。


図1 A schematic diagram of the experimental setup.(原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1994, American Institute of Physics. )



図2 An example of typical TOF spectra: a) Si at 1150±150K without an O2 leak, b) an O2 leak (pressure of 4x10-5 Pa) of Si at room temperature, c) Si at 1150±150K after 30 min exposure to an O2 leak (pressure of 4x10-5 Pa).(原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1994, American Institute of Physics. )

 図2aに酸素を導入せずにシリコン基板を1150Kに30分間保持したときに得られる飛行時間スペクトルである。表面から蒸発したSi原子のイオン化シグナルが観測され、原子量28,29,30のシリコン同位体のシグナルが観測される。それぞれのシグナル強度比は天然存在比に等しい。
 
 図2bには、シリコン表面基板を室温に保ったままで、酸素分子線を表面に照射したときの飛行時間スペクトルである。シリコン表面で散乱された酸素分子のシグナルが観測される。
 
 図2cはシリコン基板温度1150Kの時に酸素分子線を導入し30分間保持したときの飛行時間スペクトルである。ここでは、Si原子、酸素分子によるシグナル以外に質量数44のSiO分子によるシグナルが観測される。このことから、シリコン表面でシリコン原子と酸素原子が反応してSiO分子が形成し、さらに表面から脱離していることが解る。


図3 Time dependence of O2+ and SiO+ signal intensities vs O2 exposure time at an O2 leak (pressure of 4x10-5 Pa).(原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1994, American Institute of Physics. )

 図3に酸素分子線導入後における酸素イオンシグナル・SiOイオンシグナルの時間変化を示す。気相SiO分子生成が定常状態に達するまでに約30分かかることがわかった。また、酸素分子線を止めると約1分でSiOイオンシグナルが無くなることがわかった。この結果はSiO分子生成までに、短パルス(マイクロ秒台)酸素分子線を用いた実験にくらべてかなり長いインダクション時間が存在することを示している。
 
 レーザーを用いた多光子イオン化質量分析は、通常の電子衝撃を用いたイオン化法に比べて、イオン化効率の違いによりバックグラウンドシグナルレベルを低く抑えることができる。このため通常ではCO2のバックグラウンドシグナルに隠れてしまうような小さいSiOシグナルを検出可能であり、非常に検出感度の高いイオン化検出法である。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
Multiphoton ionization detection of a SiO molecule formed by O2 oxidation of a silicon surface
K. G. Nakamura, H. Kuroki and M. Kitajima
National Research Institute for Metals, 1-2-1 Sengen, Tsukuba 305, Japan
J. Appl. Phys. 75 (8) (1994) pp. 4261-4263.

キーワード:分子線、酸素分子、多光子イオン化、SiO分子、質量分析、シリコン酸化
molecular beam, oxygen molecule, mutiphoton ionization, SiO molecule, mass spectroscopy, silicon oxidation
分類コード:110101

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