高エネルギー蛍光X線分析

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作成： 1999/01/13 桜井　健次データ番号　　　：180003 高エネルギー蛍光X線分析目的　　　　　　：高エネルギーX線を用いた重元素の高感度検出技術の開発研究実施機関名　：科学技術庁金属材料技術研究所応用分野　　　　：鉄鋼材料、希土類金属、環境分析概要　　　　　　：　30keV以上の高エネルギーX線を用いると、重元素であってもK殻を励起することができ、K線による蛍光X線分析が可能になる。通常用いられているL線もしくはM線による分析とは異なり、ピークの重畳を避けることができ、また高い物質透過能を利用した応用も期待できる。微量物質の検出のためには、信号対バックグラウンド比の向上が重要であり、フィルターや2次ターゲットを用いる準単色励起法が有効である。　詳細説明　　　　：　X線を物質に照射し内殻電子を励起して、その緩和過程で生じる蛍光X線のエネルギーを分析すると元素の種類を特定することができ、蛍光X線分析法として広く用いられている。励起に使用されるX線スペクトルには、X線管からの特性X線と連続X線の両方が含まれるのが普通であるが、その実効的なエネルギーは5～30keVの範囲にあることが多い。この場合、原子番号の大きい元素では、L殻やM殻を励起した際に生じるL線もしくはM線が分析に用いられる。しかし、専用のX線発生装置からのもっとエネルギーの高いX線によって励起すれば、重元素においてもK線による蛍光X線分析を行うことができる。図1　蛍光X線スペクトルの例。　半導体検出器を用いて酸化銅・金属タンタル混合粉末からの蛍光X線スペクトルを測定した。管電圧を30kVにした場合(A:通常のエネルギー域のX線利用によるタンタルL線分析)および160kVにした場合(B:高エネルギーX線利用によるタンタルK線分析)。（原論文2より引用）　図1に酸化銅と金属タンタルの混合粉末(混合比1：1)の蛍光X線スペクトルを示す。高電圧電源とタングステンX線管、遮蔽ボックスからなる高エネルギーX線発生装置を用い、30kVと160kVの管電圧でX線を発生させ、試料に照射した。管電圧が30kVの時は30keVまでの連続X線が含まれているが、この条件でタンタルの分析に用いることのできるL線は銅のK線と重なって観察されるため、特にタンタルの量が少ないときは定量分析は非常に難しい。　　一方、160kVの管電圧では、160keVまでの高いエネルギーの連続X線やタングステンからの特性X線(Kα1線、59keV他)が発生するため、タンタルをK線で分析することができる。銅のピークと重ならないばかりか、半導体検出器を用いた測定では、高エネルギー域で相対的にエネルギー分解能が良くなるため、Kα1線とKα2線を分離して測定できるなどの分析上の利点がある。また、入射X線、蛍光X線とも高エネルギーになると物質透過能が高さくなるので、金属塊のような厚い固体試料を対象とした分析や、反応容器の内部にある試料を外にとり出さずに行うオンライン分析などに応用することも有望と考えられる。図2　励起法の信号対バックグラウンド比への影響。　環境標準試料サルガッソのヨウ素(保証値520ppm)の蛍光X線スペクトル。(A)白色励起法(X線管からのX線をそのまま照射)、(B)フィルター法(40mm厚のアルミニウム板を透過させてから照射)、(C)2次ターゲット法(3mm厚のエルビウム板に照射して発生するエルビウム特性X線を照射)。（原論文3より引用）　高エネルギーX線を用いた蛍光X線分析によって微量物質の検出を行うためには、信号対バックグラウンド(S／B)比を向上させることが重要である。バックグラウンドの主な要因は入射X線の試料での散乱現象であり、このため励起に使用するX線のスペクトル分布に注意を払う必要がある。図2は国立環境研から頒布されている標準試料サルガッソ中に含まれるヨウ素(保証値520ppm)に着目して、3種類の励起法による蛍光X線スペクトルを比較したものである。X線管からのX線をそのまま励起に用いる白色励起法は、試料のマトリックスが軽元素からなる試料に対しては特に散乱X線が強く、S／B比は低い。　　これに対してフィルター法や2次ターゲット法のような準単色化されたX線を用いて励起する方法では、ヨウ素の特性線(Kα線、28.6keV)付近のバックグラウンドを大幅に減らすことができた。なお、通常のエネルギーのX線を用いる実験と比較すると、コンプトン散乱が強く、もともとの入射X線よりも低いエネルギーの散乱X線がバックグラウンドとして現れることが多いので、これを考慮に入れて測定の条件を決めることが重要である。表1　高エネルギー蛍光X線分析法の励起法の比較（原論文1より引用） ------------------------------------------------------------------------ Method White Primary-Bean- Secondary- Excitation Filter Target ------------------------------------------------------------------------ Conditions of Excitation Tube voltage 80kV 80kV 150kV Tube current 0.6mA 18.5mA 10.6mA^* ------------------------------------------------------------------------ Signal 5367 5403 5444^*^* (count/300s) ------------------------------------------------------------------------ Background 17050 786 843^*^* (count/300s) ------------------------------------------------------------------------ S/B ratio 0.31 6.9 6.5 ------------------------------------------------------------------------ Detection Limit Concentration 40ppm 8ppm 8ppm Absolute amount 15μg 3μg 13μg ------------------------------------------------------------------------ ^*Limited by the x-ray generator's maximum loading ^*^*Compensated for by the tube current in Fig.5 (C) 　表1に得られた結果のまとめを示す。通常の実験室に設置できる1.6kWの高エネルギーX線発生装置を用い、準単色励起法によって蛍光X線スペクトルの測定を行うと、ppmオーダーの検出限界が得られ、固体バルク試料中の微量分析に適用できることがわかった。　コメント　　　　：最近では、高エネルギー域のシンクロトロン放射光も利用できるようになってきている。、これまでこのエネルギー領域ではほとんど存在しなかったエネルギー可変な単色光の利用により、本分析法は飛躍的な進歩を遂げ、更に高感度な分析が可能になると期待される。　原論文１ Data source 1： Trace heavy element analysis using X-ray fluorescence with quasi monochromatic high-energy photons : Iodine in an environmental sample M.Harada and K.Sakurai National Research Insitute for Metals, Sengen, Tsukuba, Ibaraki 305 Japan Jpn. J. Appl. Phys. 37, 2740 (1998). 原論文２ Data source 2：高エネルギーX線を用いる蛍光X線分析原田　雅章、桜井　健次金属材料技術研究所第56回分析化学討論会講演要旨集 (1995. 5, 大阪) p. 288. 原論文３ Data source 3：高エネルギーX線を用いた蛍光X線分析におけるS/B比の改善原田　雅章、桜井　健次金属材料技術研究所日本化学会第70春季年会 (1996. 3, 東京) 講演予稿集Ⅰ, p. 410. キーワード：蛍光X線、K線、重元素、高エネルギーX線、準単色励起、フィルター法、2次ターゲット法 X-ray fluorescence, K-line, high-Z elements, high-energy X-rays, quasi-monochromatic excitation, primary-beam filter method, secondary target method 分類コード：180205
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