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作成: 1998/12/09 山口 彰

データ番号   :190012
流れ中におかれた円柱の振動と渦の構造
目的      :流れの中におかれた円柱構造物の流力振動メカニズムの解明と構造物の健全性評価
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 熱流体技術開発グループ
応用分野    :数値解析、流体力学、安全性

概要      :
 有限要素法による流体構造連成解析コードを開発し、流れ場におかれた円柱構造物の振動の数値解析を行った。構造物の振動特性と生成される渦の様相を解明し、構造物破損のメカニズム解明に寄与した。
 

詳細説明    :
 流れによって周囲の容器や内部の構造物が振動を生じる現象を流体構造連成振動あるいは流力振動と呼んでいる。1995年12月に高速増殖原型炉「もんじゅ」において、二次主冷却系配管の内部に突き出したナトリウム温度測定用の温度計さやが折損した(参考資料1)。
 
 流れに突き出た構造物の固有振動数とカルマン渦の周波数がほぼ一致すれば、温度計の後流側で左右交互に発生する渦と共振して、流れと直交方向(クロスフロー方向)に大きな振動が発生する。「もんじゅ」では、温度計さや管が流れ方向(インライン)振動し、その後流にカルマン渦ではなく温度計の後流の左右から対称な渦が温度計の振動と同期して発生する現象を解析と実験により再現した。その数値シミュレーションと水流動試験の詳細については参考資料2に詳しい。
 
 以下で、構造物と流体の形状模擬性に優れ、計算格子を任意に移動させることができるALE法を用いた有限要素法流動解析コードSPLASH(参考資料3)を用いて、低レイノルズ数領域で円柱構造物が流れ場にある場合の分析を行う。
 
 カルマン渦の周波数は52Hz、円柱の固有振動数は気中で125Hzとした。対称渦の発生を伴ってインライン振動が生じているときの流れと振動の様子を図1aに示す。流れは図の左から右に向いており、図面左方の円形は円柱の断面である。赤い粒子と青い粒子はそれぞれ円柱の流れに対して右半分と左半分の円柱の表面ならびに中心線上から生成させている。白線は円柱の静止時の位置を示している。各時点における円柱の位置は移動し、インライン方向には直径の約10%、クロスフロー方向にはほとんど変位振幅はない。インライン振動が発生する場合には、円柱表面における流れのはく離点が時間とともに移動し、円柱の両側面から対称な渦が円柱の振動と同期して放出されている。また円柱の両側面から発生した一対の渦は下流部で直ちに合体して、交互に配列するカルマン渦の如き配置となる。
 
 一方、インライン振動が生じずに渦が交互渦となっている場合の流れの様子を図1bに示す。インライン振動が発生しない条件では、円柱から放出される渦は交互渦となっており、カルマン渦と同様の状況となっている。この場合には、インライン方向、クロスフロー方向共に、変位振幅は十分に小さいことが示されている。


図1 a)インライン振動発生時の渦と振動の様子. b)インライン振動が生じない場合の渦と振動の様子(原論文1より引用)

 このように、インライン振動が生じる場合と生じない場合で何が異なるのであろうか。一般的に、自励振動の発生は、構造物の固有振動数と流体荷重の周波数が関係している。そこで、変位の周波数成分を調べるために、図2aと図2bに両解析結果のインライン方向とクロスフロー方向の応答変位のパワースペクトルを示す。図2aから、インライン振動が生じているときには、インライン方向に円柱の固有振動数(121Hz)のピークのみがある。クロスフロー方向には、円柱の固有振動数とその1/2倍長成分の2つのピークが見られる。すなわち、カルマン渦周波数成分が見られないことが分かる。一方、図2bから、インライン振動が生じていないときには、インライン方向にはカルマン渦周波数の2倍長成分(103Hz)と円柱の固有振動数の二つのピークがあるが、クロスフロー方向にはカルマン渦の成分(52Hz)のみである。


図2 a)インライン振動発生時の変位応答パワースペクトル. b)インライン振動が生じない場合の変位応答パワースペクトル(原論文1より引用)

 インライン振動は、いわゆるロックイン現象(渦の発生周波数が円柱の固有振動数に引き込まれる現象)であることがこの分析から理解される。このように、数値解析によって流れ中の円柱構造物の振動と生成される渦の様相を解明することができる。
 

コメント    :
 比較的単純な構造であれば、数値解析により実現象を再現できることが示された。工学で利用される様々な構造に対してこの手法は適用できる。しかしながら、現状の計算機性能では、レイノルズ数が大きい場合や三次元的な流れが顕著な場合の直接的な数値シミュレーションは未だ困難であることに注意すべきである。
 

原論文1 Data source 1:
ナトリウムの流れと伝熱における構造との連成振動
山口 彰
核燃料サイクル開発機構、茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
計算工学 Vol. 2, No. 4 (1997) pp. 233-238

参考資料1 Reference 1:
もんじゅ事故に関する技術報告
伊藤 和元、山口 彰、和田 雄作、岩田 耕司、森下 正樹、三宅 収、青砥 紀身、岡林 邦夫、柴 公倫、安濃田 良成、松岡 三郎
核燃料サイクル開発機構、茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
日本原子力学会誌 Vol. 39, No. 9 (1997) pp. 704-732.

参考資料2 Reference 2:
「もんじゅ」温度計の流力振動
山口 彰、小倉 健志
核燃料サイクル開発機構、茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
日本原子力学会誌 Vol. 39, No. 10 (1997) pp. 842-853.

参考資料3 Reference 3:
SPLASH Program for Three Dimensional Fluid Dynamics with Free Surface Boundaries
A. Yamaguchi
核燃料サイクル開発機構、茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Computational Mechanics 18 (1996) pp. 12-23.

キーワード:流力振動、カルマン渦、数値シミュレーション、流体力学、円柱構造物
flow-induced vibration, Karman vortex, numerical simulation, fluid dynamics, cylindrical structure
分類コード:190201

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